マフィアパロ的な つい言ってしまった、というには、あまりにも最低な言葉だった。相手の顔が歪み、慌てて口を抑えるが、もう遅い。
「ッ、ごめ」
「いや、いいです」
もう、いい。と、全てを否定するような冷たい声。普段のおちゃらけた雰囲気は、今の彼からは微塵も感じられなかった。
居心地が悪いとでも言うように目を逸らされ、続けて、ちょっと散歩してきます、の言葉。関わるなと言わんばかりの背中に声をかけることは、俺には出来なかった。
「...なんであんなこと言っちゃったかなぁ...」
彼自身の在り方を否定する、俺が彼に放った言葉はそんなものだった。誰だってそんなこと言われれば傷つくし、悲しい。赤子でもわかる当たり前のことだ。それを俺はやってしまった。
そもそも事の始まりは俺が無茶をしたことであって、ミンベンさんは全く悪くない。あまり危険なことはするな、と注意してくれただけだ。だがもともと俺は戦闘面では人より秀でてはいないから、そうでもしないとまともに戦うことが出来ない。それに比べてミンベンさんは才能に満ち溢れていた。至近戦から遠距離攻撃、なんならトラップだってお手の物。なんでもできるといっても過言ではない。
だから今回の口論はただの俺の八つ当たりでしかない。
「·····やっぱ、謝らなきゃ」
言葉と同時に立ち上がる。刹那、少し遠くから不自然に空気の揺れる音。瞬時にしゃがむとギリギリで頭上を弾丸が過ぎていった。
あぶね、と声に出す。考え事をしていたからか、まったく気付かなかった。チッと舌打ちの音が聞こえて、次に早めの足音。人数はおよそ五人程度だろうか。
構ってる暇無いんだけどな、と常備している拳銃を構える。ドカドカ足音をならす相手なんて、何人居たって有象無象のザコでしかない。
まずは曲がり角で一人、次に上から来るであろう二人、残りの二人は恐らく後ろから撃ってくるかどこかしらの援護に回ってくるだろう。
そんなことを考えながら立ち上がる。大丈夫、いつも通りやれば失敗しようのない相手だろう。
暗闇で視界の悪い角を曲がる。案の定、前に一人を確認。ちらりと影も見えたのでやはり後ろにも何人かいる。
「いくよ、ミンベンさ」
言葉の途中で、話しかけようとしていた相手がここに居ないことを思い出す。ガラ空きの背中、止まる思考回路、バランスを崩した上半身。勝利の方程式が、見事に崩れ去る。
そんなチャンスを相手が見逃してくれるはずもなく、鼻で笑うようにしたあと俺めがけて銃弾を放った。
夜の闇に、了解でも、オーケィの言葉でもなく、無慈悲な発砲音だけが木霊する。
既のところで急所を外し、小さな鉛が右腕に命中する。痺れるような感覚。つぅ、と垂れてくる赤い液体。そしてやがて痺れが熱を帯び、痛みへと変わる。
なるほど、どうやら弾丸に毒が塗られていたようだ。これはいよいよ急ぐ必要がある。やはり無茶をする必要がありそうだ。また怒られるかな、いや、きっと怒ってもくれないだろう。
そんなことを考えながら、拳銃をしまう。利き手を撃たれてしまったので命中率は期待できないし、下手に扱う方がよっぽど危険だ。
すでに囲まれてるので、闇雲に走るのは得策ではないだろう。鈍痛を抱えた腕を庇いながら、壁を蹴って屋根に上がった。まさかこんな所に来るとは思っていなかったのだろうか、相手は狼狽えている。
残念でしたと飛び蹴りを喰らわせれば、気持ちいいぐらいに吹っ飛んでいく。下に落ちてしまったからわざわざ撃つ必要も無さそうだ。
このまま逃げてしまってもいいが、人の多いところで次狙われたら厄介だ。なるべく今片してしまった方がいい。
そう考えて、一旦屋根から降りた。一度上に登ったからか、どうやら相手は俺を見失っているらしい。
(このあと🤖さんが助けに来て、結局お互いがいないと駄目、みたいな展開にしたかった)