診断メーカーで出たお題【君の恋が叶いませんように/君以外はすべて雑音だ/さあここが終着点だ】君の恋が叶いませんように。僕は君が恋を失ってわんわんと泣いているそばで、優しく肩を撫でてあげたいんだ。趣味が悪いと言われるだろうけど、君の心の拠り所でありたいんだよ、僕は。
ぺらり、と頁をめくる。
なんとも酷い男だ、自分が想ってる相手の不幸を願うなんて、と思いながら自分なりに翻訳した部分をつらつらと原稿用紙に書き写す。そもそも、この洋書はぼくとは合わない。ぼくはもっとこう、喜劇みたいな、幸せな話が好きなんだけど。そう考えてまたため息が出た。
ぼくは今、大学の図書館で本の翻訳作業をしていた。かれこれ二時間ぐらいはこの本と格闘している。幸い二十頁未満の本だったので頑張れば今日中には終わる、と思う。
時計を見ると伍時を過ぎていて、少し休憩しようと鉛筆を置いた。図書館はぼくの他に二、三人しかいなかったので、鉛筆を動かす音や鼻をすする音ぐらいしか聞こえなかった。
窓硝子を見るとあたりはもう真っ暗で、今頃同じ学部のやつらは飲みにでも行ってるんだろうなあと思うとやるせなくなった。
(ああ、マッタク、なんでこんな目に。全部教授のせいだ。)
そう心の中で悪態をつきながら机に突っ伏して、全ての元凶になったさっきのことを思い出す。
校門から出て帰ろうと思った時、教授に声を掛けられた。
「やあ、成歩堂くん。こんなところで。」
「あッ……教授。あはは、キグウですね。こんなところで。」
振り返るとそこに居たのは法学部の教授で、ぼくはびっくりして声が上ずってしまった。恥ずかしい。
法学部の教授が一体何の用だろう、と教授をあらためて見ると目は笑っていないのに口元はゆるく上がっていて、嫌な予感がした。
「成歩堂くんに少し頼みがあるんですが、大丈夫かな?」
予感は的中。
大丈夫かな?と聞いているけど有無を言わせない、という雰囲気だった。ぼくはこれはまた帰るのが遅くなるぞ、と諦めた。
小さく、はい、と右肩下がりの返事をした。
そしてその頼みというのがこの洋書の翻訳だった。どうも教授の知り合いが読みたいと言ってるのだが如何せん自分ではうまく解釈できず。なら英語学部の人間ならできるだろうと、ぼくに翻訳を頼んだ……というわけだった。ぜんっぜんキグウじゃない。むしろ必然じゃないか。
教授は早口で説明するとじゃあ、よろしく、とだけ言うと踵を返してそそくさと事務室へ戻ってしまった。
ぽつん、と校門に取り残されたぼくは
(……とりあえず、図書館……)
重い足取りで図書館へ向かった。
「……成歩堂」
「うわッ!?」
頭をはたかれてものすごい大音声が出てしまった。さっきまで図書館にいた二、三人の学生達はもう居らず、少しだけほっとした。また恥をかく所だった。
じんじんと痛む頭を抑え斜め上を見ると、呆れた目でこちらを見る亜双義と目が合った。
「あ、亜双義!なんでいきなり叩くんだよ。」
「キサマが寝ていると思ったから起こしてやろうと。」
「それにしてももう少しやり方ってもんがあるだろうッ!ぼくの頭がふたつに割れてもいいのか!」
「キサマみたいな石頭がそんな簡単に割れるわけないだろう。安心しろ。」