アイドルの彼。ワーーー
耳が割れるかと錯覚するほどに大音量の黄色い歓声がドーム内に響き渡る。
そんな中、スポットライトに照らされる男は大きく手を振りながらニコリと微笑み、マイクに向かって話し始めた。
「諸君!本日はお集まり頂き誠に感謝する!私こそがレオス・ヴィンセントだ!よろしく!!」
この男は都市エデンで知らない者は居ないほどに人気を誇る5人組のアイドルグループ「エデン組」の青色担当、レオス・ヴィンセント。
180cmもの身長に程よく鍛えられた身体。
洒落た眼鏡の奥で光を反射している美しい空色の瞳には、バチバチの下睫毛が添えられている。
担当色を決めるに至った理由であるクルクルの青髪に芯の通った綺麗な声は彼の第一印象としてあげられることが多い。
その全ては男女問わず多くの人間の目を惹き、そこに彼の性格の愉快さや憎たらしさが相まって生まれる魅力は、世界中の生物を魅了してやまない。
だがここでふと、疑問が浮かぶだろう。
5人組のアイドルグループであるはずなのに、なぜステージには彼しか立っていないのか、と。
理由は簡単。彼らエデン組はワンマンライブの最中であり、現在は各々順番にステージにあがりソロ曲を歌うというソロパートの時間だからである。
彼は普段の衣装とは異なる特有の衣装に身を包み、それはさながら科学者のようだった。
彼のファンである被験者達はその性格面故にマッドサイエンティストだ!なんて声を上げる。
「マッド?ふははははっ!!全くもってその通り!!今私はアイドルでありながら…」
彼は吊り上げていた頬を更に上げ、ニヤッという効果音が似合いそうな笑みを浮かべてマイクにそっと近づき、囁くような声色で呟いた。
「貴方達を狂わせる、怖い怖い科学者なんですから、ね。」
…ッ……キッッッッッツ〜〜!!!!!!
「はぁ〜!?その反応は可笑しいでしょぉ〜!?!?んもぉ〜〜!!せっかくオリバーくんの真似をしたっていうのにぃ〜!!!」
そう嘆く彼は気づかない。
そんなお決まりの反応を見せつつも被験者達の心臓は今にも破裂しそうな程に脈打ち、余りの尊さに死にかけていることを。
はーぁ。なんて大袈裟に溜息をつき、再びマイクから距離をとると、彼は気を取り直して話を続けた。
「まぁ…それじゃあそろそろ皆さん私の歌が聞きたくてうずうずしてくる頃でしょうから…始めましょっか。」
「さぁ諸君!今日も楽しいライブと行こうじゃあないか!!」
そうして彼はまた、多くの人間を魅了する歌を歌うのだ。