ああ 星が綺麗 肌寒さを通り越して、背筋が凍るほどの静けさと暗闇をたたえた日の夜に僕とサンズは空を見上げながら家路についていた。
月は見えない位置なのが少し残念だけど、ピカリと一際強く光る星が妙に気になって仕方なかった。
歩きながらも星に魅入っていた僕の歩みは自然と遅くなっていて、一歩進んでいた彼がおかしそうに振り向く。
「あの星が気になって仕方ないみたいだな」
「•••あ、うん•••すごく星がキレイだなって思って•••」
「•••そうだな•••」
僕の隣まで戻ってきたサンズは並んで、あの星を見上げた。
「アレは今の時期だと金星かな」
「金星?
こうして見てるとなんだか手を伸ばしたら届きそうだね•••案外地球から近いのかなあ」
「残念だが、あんなに近くに見えても1億5000万㎞はゆうに離れてる•••オイラ達には手が届かないものだよ」
彼の天体に関する知識ならきっと間違いないのだろう。
僕は少しシュンとしながら思ったことをそのまま口にした。
「見えていても手が届かないなんて•••意地悪だね」
どれ程近づきたくとも、望んでもこの人の心には入れない。
なまじ見えてしまうから、叶わない願いがまたくすぐられて虚しくも燃えてしまう。
まるで、僕の片思いのようだ。
その言葉は呑み込んで、彼の反応を見ようと顔を向けた。
「heh•••お前さんを魅了して止まないのは分かるが、星にも罪はないんだぜ?」
「星にも?」
「そう。星にも星を望む者にも罪は無い
ただそこに想いがあるだけなら」
「でも手を伸ばしたい、近づきたいって思ったらどうすればいいの•••?
もっと•••もっと•••って思ってしまったら•••っ」
僕の悲痛な叫びを聞いたサンズは、眼窩をより一層大きくさせて凝視してくる。
彼には何の事だか分からないだろう。
いや、分からなくて、いい。
星はきっと数多いる自らに恋い焦がれる存在など、知る由もないだろうから。
沈黙に包まれた空気を打ち破ったのは、彼だった。
「手を伸ばしたいなら伸ばせば良いじゃないか•••」
笑顔だけど、絞り出すような声音で言うものだから彼の発言はきっと彼の本意ではないのだろう。
心なしか僕と目を合わせないのもきっとそうだ。
変に視線が交わらない事に安心した僕はサンズをじっと見つめていると、突然目が合わせられた。
間近で見つめ合うなんて事は今まで無かったから、ジワジワと頬に熱が集中するのが分かる。
それに伴って思考までボンヤリしてくるのだって。
「どんな風になっても、アンタと見る星は変わらない。
ずっと色褪せないで綺麗なままだ•••今夜みたいに」
ジョーク好きな彼にしてはとても真剣味を帯びた眼差しだったから、僕の視界は縫われたように彼から逸らせなかった。
言われた言葉の意味は、分からない。
でも必死に考えようにも彼の眼窩に浮かぶ瞳が夜空の星を映し、あまりにもキラキラしていて•••頭はその情報にジャックされる。
油断すると告白してしまいそうで、辛うじてオウムのように僕も返す。
「星が、綺麗だね」
「ああ•••そうだな」
こんなやり取りが交わされる合間も星は変わらずに瞬いていた。