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    26tk_OwO

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    思追も金凌も肩書きも立場も関係なく素直な景儀が好きなんだろうなって妄想です。

    大雪 大切なこと。
    家規を守ること、雅正であること、修練を積むこと、藍先生を怒らせないこと。某先輩は「よく食べ、よく眠り、よく遊び、よく学べ」なんて言ってたっけ。

     晩冬になり寒さも本格的になってきた。
     早朝、藍氏内弟子たちの持ち回り当番を終え、渡り廊下で会った思追と次の夜狩について話そうと思い声を掛ける。さすがに姑蘇育ちの自分たちでも吹いてくる風の冷たさに身が震える。手早く打ち合わせて鍛練で体を温めようなどと話していると、 誰かの鼻をすする音が聞こえた。
    「なんで姑蘇ってこんなに寒いんだ。もっと羽織ってくるんだった」
    「金凌!」
    「金宗主!おはようございます。早くからいらっしゃって、どうかされたんですか?」
     声の主に二人ともおどろいて慌てて挨拶する。
    鼻先を真っ赤にした金凌がサクサクと雪を踏みしめながら俺たちの近くまできて答える。
    「沢蕪君に庶務の報告と相談を。昨夜、叔父上と夜狩をしていて近くの宿で休んでたから早く着きすぎた」
    「そうだったんですね。沢蕪君は冷泉にいらっしゃるかと思います。お呼びしてきますね」
    「いや、修行の邪魔したくない。約束の時間はまだなんだ」
    「それにしても江宗主、また引率してくださったんだな」
    「あんなの引率じゃない、まるで授業参観だ。しかもいちいち口出しして怒鳴ってくるし」
     げっそりした顔でため息をつく金凌に少し同情する。
    「そりゃお嬢、お前が心配だからついてくるんだろ」
    「おいお前またその呼び方したな!俺はお嬢様じゃないって何回言ったら!」
    「そういえば仙子は?今日は一緒じゃないのか?」
    「フン。ここで吠えたらまずいし、犬をみると騒ぎ出す奴に会ったらうるさいだろ?疲れてるだろうから麓でうちの者たちと待たせてる」
    「昨夜はどのような?」
    「秣陵で次々と病人が増えてるらしくてな。なんでも奥若洛木なんじゃないかって」
    「なるほど、それで霊犬をつれている蘭陵に依頼が」
    「"金氏"だからだろ。くそ、まだうちに縋ろうなんてふざけやがって」
    「きっと生前、宗主が懇意にしていたからこそ街の人たちも助けを求めたのでしょう」
     金凌はわがままお嬢様だけど、やっぱりすごい奴だ。あんなことがあったのにこうやって宗主として、金家の柱としてたくさんのものをまもって、たたかっている。俺たちより年下でまだ甘えたいだろうに本当に逞しくみえる。
     思追だってすごい。含光君も文句なしの成績だし、礼儀正しくてつよい。なにかあったみたいで、時々遠くをみながら考え事してるけどすぐ柔らかい笑顔をくれる。思追は昔から変わらず優しい。
     俺はどうだろう。藍先生によく怒られるし報告書だって「回りくどい」と書かれるくらい要領が悪い。強くもないしいつも怖がってひとりで妖魔に立ち向かうことだってできない。どうしたらふたりみたいになれるだろう。
     なんだか置いてきぼりのようだ。
    「おい、どうした?」
     黙ったままの俺に、気付いた金凌の呼び掛けにハッとする。思追も気遣うように室内に誘導してくれる。
    「ここだと寒いし、待ってる間温かいお茶でも淹れよう。私たちの部屋にご案内しましょう」
    「いいな~俺も仲間に入れろよ」
    「うわ!?なんだ急に現れて!」
    「呼び出されて藍先生のとこ向かってたら姿見えたからさ。朝から元気だなお前ら」
    「だったら早く行けよ。思追、部屋はどっちだ?そろそろ寒くてたまらない」
    「そうですよね。部屋はこちらです。魏先輩また後程」
     鼻をすすりガタガタと震えてる金凌の背中をさすりながら思追たちが行ってしまう。
    「はぁ~~~~」
     俺が長いため息をつくとニヤニヤと魏先輩がからかってきた。
    「なんだ?仲良しな二人に焼きもちか?」
    「いつから見てたんですか……違います。ただ、ふたりはすごいなって」
     ぽつりとこぼすと魏先輩は目を細めてガシガシと俺の頭を掻き回す。
    「わ!?なにすんだ!」
    「確かにお前、単純だし騒がしいもんなあ。でも、なんだかんだ男気があって、ひとのために怒ってひとを想って泣ける。俺はそんな奴だと思ってるよ。ふたりだってそんなお前を信頼して一緒にいるんじゃないか?……いま自分に自身がなくてもいい。だけどあいつらのことは信じろ」
     な?と優しい瞳と見つめ合い力が抜けてしまう。

     大切なこと。
    家規を守ること、雅正であること、修練を積むこと、藍先生を怒らせないこと。
     思追も金凌も魏先輩も含光君も俺にとってみんな大切だ。
    「魏先輩、ありがとうございます」
     だから俺も信じて強くならなきゃ。
     先にみえる二人を追いかけようと走り出して積もった雪に顔から突っ込んだ。
    「なにやってんだよ景儀……」
    「景儀大丈夫?」
    派手に転んだ俺を掘り起こそうとふたりが戻ってきて鼻の奥がツンとした。ガバッと起き上がってふたりに提案する。
    「なあやっぱり剣術の練習しよう!動けば温かくなるし、きっとお嬢様は家でも部屋に籠りっぱなしで体が鈍ってるだろ?」
    「また呼びやがって!お前たち脳筋みたいなのと比べるな!昨日みたいに夜狩に行くし毎日仙子と走ったりはしてる!」
    「ふたりとも雲深不知処で大声は……」
     言い合う俺たちをみて吹き出した魏先輩が笑いながら廊下を歩いていく。

    「よく悩み、よく遊び、よく学べよ、お子様たち」
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