鬼の花嫁《幕間 壱ノ型》《幕間 壱ノ型》
光色のこびとに手を引かれ、炭治郎は澄み切った青空のような世界の中、目の前に広がった一本の小道を歩いていた。
この小道を一体、いつから歩き始めてのかは分からない。覚えてもいなかった。ただ、気がつけばこの世界にひとり降り立っていたのである。小さな手が炭治郎の手をぎゅっと握ったところで、彼女ははっとする。
「――……そう、か。俺は、先に逝くことになってしまったんだ……あのひとを置いて……」
後を追わないでとお願いしたけれど……大丈夫だろうか……?
いいや、追わない。きっと、追わずにいてくれるはず……ひとである心を忘れずにいてくれたことを俺は知っている。
彼なら……杏寿郎さんなら、きっと。寂しくても我慢してくれると……!
「……待って、いて……くれ、るかな……? 彼は……」
ポツリとそう呟けば、手を引いてくれているこびとがぎゅっと力を入れて握ってくれたことに気付いた。まるで、こちらの言葉に反応してくれているようではないか。その反応が嬉しくて、今度は炭治郎がこびとの小さな手を握り返した。すると、こびとは一瞬キョトンとした後に、少しだけ照れたようだ。光色の躰がうっすらと紅色に染まった。その仕草が可愛らしく感じ、炭治郎はその手をもう一度だけぎゅっと握ると微笑む。
――……可愛らしいこびとだ。何だろう……だれかを思い出さずにはいられない。
そう。俺の末の弟の六太によく似ているが……まさ、か……な。
そんなことを思い出せば、不思議とどこかで我慢したものが堰を切って溢れ出してしまうのだ。
ポタッと足下に彼女大きな赤みを帯びた眸から滴でもある涙が落ちたのだ。ポタッ、ポタッと落ちれば、後はもう我慢することなど何処かに消えていってしまったようだ。
口唇はわななき、顔をくしゃくしゃにしながら涙を零し出すのだ。
「……ッ! お、俺は……本当は、あ……なたを……ひとりになんかしたくない……! きょ、杏寿郎さ……んっ……! もっと、一緒に生きたかった……! もっともっと、貴方の側に居たかった! 杏寿郎さん……! でも、今の俺は……もう、戻れない。あの頃に戻ることが出来ないことを知っている」
だから、前を進まなくてならない!
そう最後の一言だけを小さく呟き、コクリとひとつ頷きを自分に与えた炭治郎は、口唇をキュッと噛み締めるとしっかり前を見据えるのだ。すると、彼女の手を握っていた光色のこびとは炭治郎の足にスリスリと小さな躰全体で押し当てだすではないか。
「どう、したの? え? もしかして、俺を心配してくれているのかい? 大丈夫。俺は、大丈夫だよ? だって、長男……あ、いや……今は、どっちなのかな? でも、長男って言ってもいいかな? もし、来世で杏寿郎さんに出会えるのなら、俺はどちらの性別でも構わない。女子であるのなら、彼を抱き締められるように……男子であるのなら、共に歩けるように……」
さあ、行こう! もう直ぐ、俺を迎えてくれる新しい世界へ出発だ‼
そうにこやかに笑って、炭治郎は目映い光の扉を己自身の意思で開くのだった。