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    0r1h1me8

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    恵を生かせたくて呪ってキョンシーにしちゃった五条先生とキョンシーにされてまで生かされたのか意図が分からなくて戸惑う恵くんのお話
    原作と同じ時間軸として書いたけれどキョンシーの作り方など自己解釈がありますのでご注意を。

    #五伏
    fiveVolts

    唇から呪いを注ぎましょう その日のことを、五条は鮮明に覚えていた。寒い冬の夜の事である。その日は両者とも任務があり、全く別々の任地で与えられていた任務を熟していた。五条の任務はいつも通り等級の高い呪霊の討伐で、何時間とかかることなく終了した。あちらの任務は確か廃村にある呪物の回収だったかと空を見上げたときのことである。スラックスのポケットが振動し、五条は丁度終わったのかとスマフォをいつも通り取り出す。きっといつも通りの落ち着いた低音が聞こえてくるのだろうと画面を見た彼はしかし、映し出された予想していた名前とは違う者に目隠し越しに一つ瞬きをした。虎杖悠仁。任務に出る前、確かに聞いていた同行者の名前に嫌な予感が胸を過る。一拍おいて画面をスライドさせた五条は画面を耳に当て、焦っているであろう生徒に応答した。
    「もしもし、悠仁?」
    「先生、伏黒がっ!」
    電話口から生徒が伝えてきた話はあまりにも信じがたく、動揺している生徒を落ち着かせなければならないのに何一つ言えず携帯を放り捨てる。そこからの記憶は酷く曖昧だった。慌てる補助監督を尻目に彼の任地へと飛んだことまでは覚えている。だが、覚えている記憶はそこまでだった。五条は気が付いたらあちらこちらに散らばる呪霊の死体の真ん中にいた。抱え込んでいるのは血塗れになった九年間面倒を見てきた少年。生気を失った虚ろな瞳はもう何も映すことはない。頬に付いた血と泥を綺麗な顔が台無しだよ、と指先で強く擦り落として温度の消えゆく体を抱き込んだ。五条とこの少年は、所謂そういう関係だった。大人と子供の戯れの延長のように手を絡め、細くもしっかりとした腰を抱き、そして当然に唇を重ねた。五条は最強故に忙しい。けれどもその合間を縫って、何度かの夜を共にした。その時ばかりは、五条も心穏やかに過ごせたし彼もまた普段のしかめっ面を和らげていたように思う。呪術師は、いつ死ぬとも知れぬ仕事だ。当然互いにその時を思い、悔いのないように過ごしてきた。
    「恵。」
    「・・・・・・・・・・・。」
    なんですか、と答えないことがこんなにも心に隙間風を生むなんて五条はすっかり忘れていた。いや、忘れていたのではない。覚えていた。忘れるはずがない。ただ、思い出さないようにしていただけだ。
    「恵。」
    名を呼ぶ。答えが返ってくることはないと知りながら。喪うことには慣れているはずなのにそれでも繰り返し。返事が欲しいと請うように。
    「めぐみ、」
    愛しているのだ。深く、深く、それこそ呪いへと転じてしまう程。この少年のことが好きなのだ。無愛想で、可愛げがないのに時々憎らしいくらい可愛い彼のことがどうしようもなく。
    『悟、硝子、知ってるかい?』
    唐突に、親友の声が頭を過り五条は目を見開いた。学生時代のことだ。硝子が解剖実習期間中に寮の談話室で三人で話し込んでいる時の話である。思い出したかのように、傑が口を開いたのだ。彼は視線を向ける二人に一見にこやかに己の知識を披露した。
    「キョンシーって呪力を込めれば作れるらしいよ。」
    「あー、呪力を無理矢理ねじ込んで一時的に動かしたってやつ?本当発想がきっもいよな。」
    「・・・一時的にならそれはキョンシーって言わないんじゃない?」
    行儀悪く舌を出し不快感を露わにする五条を横目にタバコを口に咥えた硝子が傑に問いかける。そのまま吹きかけられた煙を笑顔を崩さぬままノートを仰いで霧散させ、彼は長い足を組んだ。
    「一時的じゃないみたいだよ。術者の死体にゆっくりと呪力を流し込むやり方は同じだけどね。」
    流し込む人間と流し込まれる死体。その関係性が重要なんだ。したり顔で言う親友曰く、二人の関係性は強く互いを想い合うものでなくてはならない。それは家族であったり恋人であったり、兎に角強く互いを想い合っている関係性ならば何だって良い。それが互いを繋ぐ糸となり、死体の中を巡る呪力を安定させる。
    「勿論互いの相性が重要なことは変わりないし、死体を動かし続けるには定期的なメンテナンスが必要となって来るみたいだけどね。」
    「メンテナンス?」
    「術師の呪力を流し込まなければならないんだってさ。」
    もしキョンシーを作る術師がいるなら相当呪力がないとやっていけないだろうね。そう言った親友の胡散臭い笑みを思い出し、五条は物言わぬ少年の顔を見た。キョンシーの作り方。互いに強く想い合う関係性の二人のうち、生者が死者に呪力を流し込む。関係性については心配していなかった。問題は、呪力だ。彼の中に流れる呪力と術式は禪院のそれである。因縁の相手の呪力を拒絶しないかどうか。そこだけ五条は危惧していた。それでも、五条にはやらないという選択肢はなかった。例えそれで彼が折本里香のようになったとしても。
    「・・・恵、お前が僕を置いていくなんて早いんだよ。」
    目隠しを外した先にある目を愛おしげに細めて五条は少年のかさついた唇に自身のそれを重ねた。





     黄昏とは、元々誰そ彼というのが語源らしい。人の顔の識別が出来ない夕暮れ時に、誰そ彼と訪ねることから来ているのだとか。確かに夕暮れ時は夜が近付き人の顔を認識するには難しい時刻なのかも知れない。まぁ、呪力を感じる呪術師には関係のない話ではあるが。五条は高専の廊下をゆったりとした足取りで進みつつそんなことを思い出していた。誰そ彼。貴方は誰ですか?余所者を排除するための問いかけでもあったというそれを五条は気に入っていた。響きが良いからかも知れない。誰そ彼、誰そ彼。テンポがいい。こんなことを言えばまた恋人に呆れられてしまうだろうが、五条は気にはしなかった。第一、五条の言動に呆れることの方が多い子だ。それでも受け入れるのだから、五条が気にすることはないだろう。
    「五条先生」
    進行方向に固い表情の教え子の姿を認め、足を止める。真希か、棘か。どちらにせよ、どちらかに事情を聞いたのだろう。どこか決意を込めた顔の乙骨が五条を睨む。
    「真希さんから事情は聞きました。先生、信じられませんが伏黒君が先生を呪ったのなら、」
    「恵が僕を?はは、優太。君は何も分かっていないね。」
    「先生?」
    訝しげな顔をする彼に自然と笑い声が漏れる。まさか彼までも、そんなつまらない間違いを言うだなんて。五条は喉奥でくつくつとした笑い声が止まらなかった。嗚呼、なんということだ。彼までも、思い至らないとは。乙骨は、当事者でもあったというのに!
    「僕はね、君と同じ事をしたんだよ。優太。」
    「僕と・・・?っ!」
    「そう、恵が僕を呪ったんじゃない。僕が、恵を呪ったんだよ。」
    ね、恵。五条の呼びかけに呼応するように、彼の影からぬるりと伏黒が這い出る。最期の会ったときと全く同じ、高専の制服に身を包んだ彼は五条に向き合うように立った。乙骨は息を飲む。自分の時とは違う。里香ちゃんは生前とは違う姿、正に呪いだと言える姿をとっていたというのに。それにこの呪力。乙骨の知る伏黒よりもっと多い呪力量と別の人間の呪力が混ざったような呪力に、知らず両手が刀に行く。もし彼が、里香ちゃんのように自分を五条先生を害すると判断したならまず間違いなく攻撃をしかけてくる。例え旧知だろうとも、攻撃を仕掛けてくるのならば応戦しなければ。視線を外さないまま口内に溜まった唾液を嚥下した乙骨の前で、ゆっくりと伏黒が顔だけを振り向かせる。何の感情も映し出さない目と合った瞬間、乙骨はどうやって彼が動いているのかを悟った。
    「まさか、彼の体に自分の呪力を流し込んで無理に動かしているんですか!?」
    「うーん、半分当たりで半分外れかな。」
    驚愕の顔を向ける乙骨に肩を竦め、五条は伏黒の肩に両手を置く。見上げる彼に微笑みかけて、くるりと体を反転させた五条は笑みを深くした。その両肩に置かれた大きな手の甲を一瞥した伏黒は無言で頭上の顔を睨め付ける。まるで離してくださいとでも言うかのような顔に、乙骨は目を瞬かせた。操り人形だとも感じた彼が自己を示したことに少なからず驚いたのだ。てっきり彼には意思がなく、ただ五条の呪力によって動かされているのかと思っていたのだ。
    「僕の呪力を流し込んで恵を動かしているのは当たりだけど、無理にっていうのは違うね。」
    「・・・どういうことですか?」
    「うん、まずね。僕は恵を呪ったけど、それは優太が折本里香を呪った方法とは少し違うんだよね」
    人差し指を立て、五条は話し出す。曰く、五条は昔聞いたキョンシーの作り方を伏黒に試した。その作り方とは死者と深い関係性のある生者が呪力を流し込み、適応すればキョンシーとして生き返るというもの。一見簡単に聞こえるそれは、互いに深い関係性でなくてはならない上に呪力が適応しなければ死体すら遺らない可能性を秘めたものである。更に生き返ったからそれで終わりというわけではなく、その後も定期的に呪力を流し込まなければならず、加えて常に術師の呪力が込められた物を身につけていないと術式どころか動くことすら出来なくなるのだという。
    「僕が親友に聞いたのは、深い関係性の死者に呪力を流し込む事と定期的に呪力を流し込まなければならない事だけだったんだけどね。後から知って驚いたよ」
    因みに僕が恵にあげたのはこれね、と長い襟首を下げた先にあるチョーカーを見せられ乙骨は内心口元を引きつらせた。
    (チョーカーの中心に埋め込まれている石の色が先生の六眼と同じ・・・)
    軽く息を吐き出しながら刀から手を離す。確かに、呪われたという割には伏黒の様子は生前と変わりないように思える。首元に絡みつく腕を諦めた様子でそのままにしている姿はよく見た光景だ。戸惑いながら見つめる乙骨と再び視線が合った伏黒は礼儀正しく、どこか申し訳なさそうに頭を下げる。思わず同じように頭を下げた乙骨は、呪霊とは違うのだろうかと疑問に思った。何故だか先程から伏黒は口を開かないがこれではまるで、生前の彼と同じではないか。
    「恵は呪霊だよ」
    まるで内心を悟られたようなタイミングである。はっきりとそう告げた五条は大きな手で伏黒の顎を覆いながら笑う。まるでずっと欲しかった物をやっと手に入れて嬉しいとでも言うかのように。
    「前に言ったでしょ?愛ほど歪んだ呪いはないんだよ」
    僕の強い想いが、恵をキョンシーという呪霊にしたんだよ。ぞっとするほど低い声でそう言った五条に、乙骨は背筋に嫌な汗が伝うのを感じた。

    乙骨の後ろ姿を見送った五条は影に戻らず立ち尽くす伏黒の顔を覗き込んだ。どんな姿形になろうが関係はなかった。ただ、伏黒が伏黒のままであるのならば彼にとってはそれでよかったし、誰に詰られようとも関係はない。乙骨は来るとは思っていたが、正直ここまで簡単に引くとは思っていなかった。もっと説得されるなり何なりされると思ったのに。最悪戦闘になることも予想していただけに、簡単に食い下がったことに拍子抜けした。とはいえ同じ特級である乙骨とやったら周りの被害も少なからず出るだろうから正直引いてくれて良かったとも思う。五条は誰に詰られようとも、諭されようともやめる解呪するつもりはなかった。例えそれが不毛なことだろうとも、世界の誰を敵に回そうとも。目が合った伏黒はガラス玉のような目で五条を見返す。そこに乗った感情は微弱すぎてきっと並大抵の人間には読み取れないだろう。静かに凪いでいるようで苛立ちを映すそれを見て取りながら五条は優越感に笑みを深めた。
    「恵、何苛立ってんの?」
    「・・・・・・・・・・・・」
    彼の全ては五条の物だった。それは今も昔も変わっていない事実である。けれどかつてと違うのは、彼の心も体も文字通り五条の物になったということだ。伏黒は何が不満なのか、絡みつく腕を鬱陶しげに叩いた。先程までは大人しくされるがままだったというのに一体何が彼の機嫌を損ねたのか。そのまま影に戻ろうとするのを寸でのところで引き留めまた抱き寄せる。右手を顎に滑らせ無理矢理五条へ顔を向けさせれば、伏黒は深く眉間の皺が刻まれた顔を見せた。
    「何、僕が優太を虐めたって怒ってんの?」
    「・・・・・・・・・・・・。」
    「それとも、僕があげたチョーカーを見せたから拗ねてんの?」
    顎から指先を滑らせ、深い襟首の下にあるチョーカーに触れてみせれば伏黒は目を見開きそのまま伏せた。照れているような仕草はしかし、どこか憂いを帯びているようにも見える。恐らく彼は、五条が伏黒にいらぬ執着をしているのだと思っているのだろう。あるいは、死刑を望む上層部を黙らせてまで自分を側に置くことを疑問に思っているのか。どちらにせよ、それは杞憂だ。確かに自分がいなければ動くことさえままならない彼に対しての一種の優越感や独占欲、執着を抱いてはいるがキョンシーという主従関係を用いて伏黒を束縛したいと望んでいる訳ではない。ただ、恋人や師弟という前に九年間を見てきた大人として彼にはもっと人生を楽しんで欲しかった。他人を信用しない彼にようやっと友人や先輩が出来たのだ。勿論恋人として側にいて欲しかったのもあるが、友人達に囲まれている伏黒を五条はもっと見ていたかった。
    (術師はいつ死ぬか分かんないっていうのは分かっているんだけどねぇ。)
    これも九年間成長を見てきたが故の情か。どうしてもこのまま死ぬのを見届けることは出来なかった。
    「まぁ、恵にはちぃーとも伝わっていないんだけどねぇ。」
    「?」
    「僕はこんなに優しいのにって話。」
    怪訝な顔で見上げる彼に戯けるように笑う。死ぬときは一人だ、と彼には教えた。それは真実だし、改めるつもりもない。けれど、情を注いだ人間にまだ生きていて欲しいと願うのは当然ではないか。かつて親友をこの手に掛けた自分が言うのもなんだけれど。五条は疑心に満ちた目で見つめる伏黒の前髪をそっと上げ、綺麗な額に口付けを送った。そうする必要がない限り、五条は情を注いだ者には生きていて欲しいと望む。こんな職業だ。いつ誰が死ぬとも知れないというのも理解はしているが、なるべくならば生かすように動く。大事な生徒ならば、九年もの時間を過ごした恋人ならば尚更。それに。
    「若者から青春を取り上げることが出来ないんだよ。例え誰であろうともね。」
    五条の大きな両手が伏黒の顔を覆う。それだけで頬を包み込んでしまえるほど大きい掌を伏黒は当然のように受け止める。その様子に五条は笑みを深めながら額と鼻先を擦り合わせ、秘密を共有するかのように唇を重ねた。
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