コンビニ僕とコバヤシ君が夜道の外灯の下を歩く。
今日はコンドーム?とかいうやつ買いに薬局にいくんだ。
あれがないとコバヤシ君、エッチさせてくれないから仕方ないね。
帰ってからのこと考えると僕、すこし浮かれた気分になって手をつなぎたくなった。
でもちょっと手が触れただけで振り払われちゃった。
「人目があるからやめろよ」
「えー」
僕はしょんぼりしながら速足で歩くコバヤシ君のあと追った。
「あー...もうそんな時間か...」
目的の薬局についたけど電気が完全に消えてしまっている。
時計を見るともう時間は10時を過ぎており普通の店は閉まってる時間だった。
「もう閉まってるね」
「しょうがないからコンビニ行くか」
「コンビニにあるの?」
「コンビニなかったらもう買えるとこねぇから、今日は無しだな」
「えー‼そんなぁ...」
ぶーぶーいう僕をしり目にコバヤシ君はコンビニを目指して歩き出した。
僕は小走りで追いつくと問いかける。
「ねぇ、コバヤシ君」
「あ?」
「あのコンドーム?ってやつ。いつも買いに行かなくてもあるのにどうして今日なかったの?」
「前使って無くなってたのにネットで注文し忘れたんだよ。」
「え、あれってコバヤシ君が買ってくれてたの?」
コバヤシ君が振り返ると口元に手を当てて、しまったと小声で言った。
「へぇ、いつも準備してくれてたんだ、コンドーム。」
「うるさい、店で買うの恥ずかしいだろ!あと連呼するな!」
そういうとコバヤシ君は僕の額にデコピンした。痛いよ。
ヒリヒリする額を手でいたわっているうちにコンビニにたどり着いた。
店内に入ると僕は目的のものを探しに行く。
コンビニはそんなに広くないから探すところは決まってくる。
割と早い段階でばんそうこうや消毒液の棚に目的のものを見つけた。
「コバヤシ君!あった!あったよ!コンんむっ!」
コバヤシ君が速攻で手で口を塞ぐ。
「わー!わかったから!言うな!」
「んん…(わかったよ)」
手を離されたのでそのままレジに持っていこうとすると腕をつかまれた。
「まて、せっかく来たからほかのものも買っていいぞ」
「え、いいの!?待ってて、すぐ持ってくるね!」
(これだけ持っていけるわけないだろ...!)
本当にあいつには羞恥心ってもんがないのかと頭を抱える。
そんな俺の考えをよそにティーチが腕に『バナナ』味の飴やら酒を抱えて戻ってくる。
「本当に買ってくれるの?」
「あぁ、でも一個条件がある」
「条件?」
「会計一人でするからついてくんな、わかったか?」
「え?どうしてだい?」
「どうしても、だ。いいな?」
「わかったよ…」
自動ドアから出ていく少し寂しそうな後姿を確認してからレジへ向かう。
一緒に行くと何言いだすかわかったもんじゃないからな。我ながら英断だと思う。
レジにつく商品の入った買い物かごを差し出す。
「いらっしゃいませ、レジ袋はご利用ですか?」
「あ、お願いします…」
(こういう時に限ってどっちも女の店員かよ…)
恥ずかしさを押し殺し平常心を装う。スキャナーがバーコードを読み取る無機質な音が響く。
かごから袋の中に入れられていく商品を見ているとついにかごの下の方に入れていたそれを店員がつかむ。
心音がやけに大きく聞こえる。店員には特に気にした様子もなくそれをスキャナーに通すと袋に入れた。
その様子に胸をなでおろす。
「合計××××円ですね」
「あ、これでお願いします」
「××××円のお返しになります」
店員が袋の取っ手を捩って差し出した、その時だった。
「買えたかいコバヤシ君!」
ばっ、と見ると待ちくたびれたのだろうティーチが後ろからひょっこりと顔をだした。
俺が飛び上がると店員がふふっと笑った気配がした。
顔から火が出そうなくらいはずかしくなって袋をひっつかむとティーチを置いて走って店を出た。
「コバヤシ君!?待ってよ!」
コバヤシ君を追いかけて僕も店を出る。少し離れたところでコバヤシ君に追いついた。
「コバヤシ君、なんであんなに怒ってたの?」
「そりゃ、あんなの恥ずかしいに決まってるだろ!」
そういうとぷいとそっぽ向いてしまった。
コバヤシ君はああ言ったけど僕にはちっともわからなかった。返す言葉が見つからなくて僕たちの間に重い沈黙が流れる。
また何か僕間違えちゃったのかな、悲しい気持ちが湧いてくる。俯いた僕の様子をちらと見たコバヤシ君が溜息を吐く。
「...今度はするなよ」
聞こえた声に僕は顔を上げる。
「うん、ごめんね」
コバヤシ君が周りを確認してそのあと控えめに手をこちらに向けてきた。
「?なんだい、この手」
コバヤシ君の意図が分からなくて顔を見ると顔を赤くして口をわなわなとさせていた。
視線を下にそらすとぼそりとつぶやくように「手ぇ繋ぐんだろうが」と言ったのをさすがに聞き逃したりはしなかった。
「...うん!」
手をぎゅっと握るとコバヤシ君が握り返してくれたのを感じた。
さっきまでの憂鬱が嘘みたいにうれしい気持ちになって家まで二人で手をつないで帰った。