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    つつ(しょしょ垢)

    @strokeMN0417
    げんしんしょしょ垢。凡人は左仙人は右。旅人はせこむ。せんせいの6000年の色気は描けない。鉛筆は清書だ。
    しょしょ以外の組み合わせはすべてお友達。悪友。からみ酒。
    ツイに上げまくったrkgkの倉庫。
    思春期が赤面するレベルの話は描くのでお気をつけて。

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    POIPOI 33

    神像にまつわる鍾魈話はあちこちでお見掛けするので弊ワットではこうなりました、というご報告です。
    神像にまつわる力などなど、弊ワット解釈もりもりでお届け。
    (パイセンに怒られるな・・cf.パイセンデート参照)

    ##鍾魈
    ##小話

    祈り祈り

    旅人の言葉に手にした茶碗が割れるまでなくともみしりと小さな音を立てた気がした。
    俺のかすかな動揺など友は悟ることもなく、また俺も悟られまいと…いや、自覚していなかったのだから無意識に平然と話の続きを促すような姿勢を取った。

    何気ない平凡な璃月の昼下がり。往生堂の午前中の仕事が少し立て込んだこともありやや遅れ気味となった昼食を万民堂で取ろうとしていた矢先、目ざとく俺を見つけた白いふわふわが落ち葉を切り裂く勢いで飛び込んできた。
    「奢ってもらおうなんて微塵も思ってないけど、今日のおすすめに関しては絶対外さないだろ」
    ふんっと胸を張る友の相棒の信頼に応えるべく、俺は今朝の散歩で得た市場の仕入の様子、気温、旅人の疲労度などを考慮して一通りの昼食メニューを提案した。
    冒険者協会の依頼をここ数日こなしていたという旅人の見聞を肴に昼食を堪能し、テーブルには空の皿とお腹をぱんぱんに膨らませてひっくり返ったパイモンだけとなった頃合い、旅人が思い出したように話を始めた。

    曰く、数日前の満月の夜、方士の少年、重雲と妖魔探索に出かけた時のこと。
    かの少年の体質上、妖魔には当然遭遇することもなく、隊商を襲っていたヒルチャールや千岩軍相手に何やら怪しい挙動を見せていたアビスの魔術師などを追い払い、夜半も過ぎて帰路についていたころ、遠目にも映える少年の姿が目に入ったという。
    神像を見上げて微動だにしない様に、声をかけようとしたが飲み込んだ。
    それはまるで。

    「魈のことだからさ、妖魔退治のことを神像、というより岩王帝君に報告しているつもりなのかなって。真面目だなぁって思ってたんだけどね、なんだか」

    ―――まるで、愛の告白をしているようだったよ。

    冗談めかして笑う旅人に、俺も軽く笑って応えた。うまく、笑えただろうか。

    どれほど真剣な眼差しで、どれほどの熱量で、神像に、『モラクス』に何を語っていたのだろうか。
    本当にそれは付近の妖魔を退治したというだけの過去によくあった報告だったかもしれない。
    だが記憶を遡ってみても彼は俺に淡々と事実だけを述べてすぐさま次の戦場へと向かっていた。労いの言葉さえも責務なればと周りから見れば無礼なほど冷たく堅い口調で固辞し去っていく。
    熱など、感じたことはない。

    ことりと皿を置く音がして我に返るとデザートの杏仁豆腐が出されたところだった。がばっと跳ね起きたパイモンがさっそく飛びつき、旅人に行儀が悪いと窘められる。
    思わず手土産用に追加を頼みそうになって杏仁豆腐と一緒に飲み込んだ。


    夕刻。外出中の堂主の席に昼食代の請求書をそっと置くとその足で望舒旅館へと赴いた。
    凡人の足であれば宵のうちに辿り着くものではないが、こういうときに仙の身でもあることはありがたい。人の目なき所で空間を曲げてしまえば望舒旅館はすぐ目の前だ。
    しかし最上階に風の気配がない。どうやら今日も熱心に魔物退治に出ているようだ。
    あまり気配を探ってしまえば向こうにも気取られる。探しているとなればすぐさま目の前に現れるだろう。
    なれば偶然を装い散策するのも悪くはない。しかし今日は当てがある。
    望舒旅館を過ぎ、荻花洲の神像向かってゆるりと歩を進める。
    水辺を渡る風が心地よい。そういえばかつてあの子が傷つき倒れたところを助けたこともあった。風神の力を借りたためにあとから膨大な璃月特産の酒を要求されたが、それで済んだのであれば安いものだ。風神に借りを作ったという事実だけを今でもねちねちと言われるがまあ良いだろう。魈がいないところでしかその話をしないあたりは分別がある。
    ほろ苦い思い出も荻花の揺れる音が癒してくれるようだ。
    その思い出に押されるようにして歩を進めれば目的のものが次第に視界に入ってきた。
    自身の神の姿を象ったもの。かつて璃月の統治者だったそれは今でもなお道行く旅人たちの導であり、神の目を持つ者であれば地脈の力で傷を癒すことも可能だ。

    その足元に…人影があった。

    満月を過ぎた月の下でも輝く相貌が神像を真摯に見上げていた。
    確かそれは見ようによっては「今は亡き岩王帝君に報告をしている護法夜叉」に見えなくもない真剣な姿だ。
    しかしそんな殊勝な健気さはどこか色を帯びていて、旅人の言う通りだと気づかされた。

    夜であれば、この人里外れた神像にいる姿を人に見られることも少ない。
    まして気配に敏い彼であればひとが近づいているとなればすぐに姿を消すこともできるだろう。
    しかし現に旅人に目撃され、俺に見られているということに気づいていない。
    手練れの冒険者である旅人と方士の少年で、警戒のために互いに気配を消すことに慣れているせいもあるだろうが・・・見られたのだなと僅かな苛立ちを覚える。
    あの表情を、恍惚とした、羨望の眼差しを。

    空間を割くのは、仙の身として容易なこと。
    ひと呼吸のうちに俺は魈の背後に回るとその腕を取った。
    突然の出来事に身を固くしたがすぐに俺と認めると金色の目を零れ落ちんばかりにまんまるにして息を呑んだ。
    「て、帝君…っ  なぜこんなところに」
    「お前こそこんなところで何をしている。傷を負ったのであれば遠慮なく俺のところに来いと申しつけていたはずだが」
    つとめて平静を装い、過去に何度か伝えていたはずの約束を確認する。
    ・・・ああ、そうだ。装わなければならないほど俺は苛立っているのかと情けなくもなった。
    「し、しかし、凡人として生活している鍾離様のお手を煩わせるわけにはいかないとその時も申しあげ・・・」
    「俺がしたいと言ったのだ。凡人の願い、聞き届けてはもらえないのか」
    見たところ怪我はしていない。していたとしても僅かな時間にこの神像が癒したのだろう。今夜の妖魔退治はその程度のものだったということだ。
    つまりもはや負ってもいない怪我のことをとやかく問答するのは不毛だ。
    「わ、我は・・その、凡人の願いを叶えるような仙人ではありませぬ・・鍾離様のお心遣いは身に余る光栄なれど・・なれど・・・」
    言葉がどんどんしぼんでいく。
    風の音だけが過ぎていく、痛いほどの沈黙に耐えられなくなったのは俺のほうだった。
    「ではここで何をしていた。怪我も大したことでないのであれば、わざわざ神像を参る必要もないだろう」
    自分のことを棚に上げて相手を追い詰めている自分が次第に滑稽に思えてきて、小馬鹿にしたような物言いになってしまった。誰よりも「モラクス」を尊重する彼に対してなんと情けないことか。否、だからこそふつふつと腹の底から何か黒い感情が生まれてくるようでもあった。
    そんな俺の様子に僅かばかりの怯えた表情を浮かべ、腕を掴まれたままだというのに逃げの姿勢を取る。手の中の魈の腕がびくりと動いた。
    「魈」
    名前を呼ぶときゅっと愛らしい唇が結ばれた。齢2千を超えるというのに時々稚児のような振る舞いをするのが愛おしい。微かに涙を浮かべ言葉を探している様子に胸がかきむしられる。
    なのにこの瞳は、俺をいまだに映していないのだろうか。
    「我にとって妖魔退治は帝君より賜った恩義に応えることのできる唯一の手段であることは鍾離様もご存じのはずです。帝君が表舞台より去ったとしてもそれは変わりません。ですから・・・ですから、その、かつてのようにご報告申し上げる習慣が抜けずに・・・」
    「それだけか」
    ぐいっと腕を引くと抱え上げてそのまま神像の足元に腰を下ろす。
    非難の声を上げる魈を無視して、逃げられないようにしかと捕まえる。
    「それだけか」
    確認の意味を込めてもう一度、再度の問いかけに夜目にも分かるほど頬を朱色に染め上げて、ぽつりと続けた。
    「も、申し訳ありませぬ・・その、あの・・し、鍾離様には直接お伝え出来ぬことを・・・神像であればと・・・」
    次第にことの重大さに気づきだしたのか声が震えだした。

    神像という俺の力の象徴であるものに言葉を紡げば、それが「届く」こともある。
    かつての人々が願いを込めて神像を祭っていたように、今でも願いは神のもとに届くことだってある。
    それは純粋であればあるほど、切実であればあるほどに届きやすい。
    そして時に神はその声に応えて奇跡を齎す。

    神の座を退いたとはいえ新たな璃月の神が生まれていない以上、その権能の一部は俺の中に残っている。神像を通じて人々の声を聴くのもその一つだ。
    しかし引退した身、おいそれとその力を振るうこともなく、時折人々が己や家族、友人たちの安寧を願う言葉をまるで通りすがりの雑談のように聞き流すぐらいだった。
    純粋な願い。それも自身に向けられたとあれば別だ。
    「お前ほどのものが神像のなんたるかを失念するとは、それほど切羽詰まったということか」
    「あ、あの・・・その・・・」
    もじもじと小さな身じろぎがたまらなく愛おしい。どうにかしてこの場をしのごうとしているようだが、無駄なあがきだということを教えてやらねばなるまい。
    「できればああいう言葉は神像や岩王帝君ではなく、俺に向けて言ってほしいのだが」

    月が少し傾きだした荻花洲の空に、声にならない護法夜叉の絶叫が響き渡った。

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