さよならセンチメンタルジャーニー(上) 錆びて変色した階段から不穏な音がする。ギシリ、ギシリ。いつ底が抜けてもおかしくない鉄の板が鳴るのを聞いて、オレは煙草の煙を吐き出しながら顔を向ける。
そこには、朝日のなかに階段を上ってくる男がいた。
金髪の間から綺麗に刈り上げられた地毛を覗かせ、猫のような目元がオレを凝視する。オーバーサイズのTシャツを纏った躰は、華奢だが引き締まった筋骨をしていた。人懐こい雰囲気を出しているのに、野良猫のように他人を警戒しているのが手に取るように分かる。
「……どもっス!」
「……誰だ、オマエ」
男は最後の一段を上り切り、小さな鞄を肩にかけた。
「松野です。松野、千冬っス」
男——いや、千冬はそう言って笑ったが、その笑顔すらどこか無理をしているように見える。朝焼けの光のなか。オレは煙草をふかしながら答える。
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