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    佐倉ちとせ

    @arukas896

    耀玲を主に文を書いています。

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    佐倉ちとせ

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    神楽さんお誕生日おめでとうございます🎉🎂✨
    こちらは7/20webオンリーイベント展示用のお話になります。
    プロポーズのタイミングを迷っている神楽さんのお話です☺️

    きみのいる場所なら、どこでも(神玲)自分をあげる。
    そんな意味に思えてしまうから、彼女の誕生日にプロポーズをするのは『ない』と思った。
    じゃあ、君が欲しいと自分の誕生日にプロポーズするのは『あり』なのか。
    想いを込めた指輪は用意してあるのに、自分の理想のタイミングと場所だけが用意できていない。君ならきっと、どんなタイミングでも喜んでくれるとは思うのだけれども。
    答えが出ないまま、ちいさなため息がテーブルに落ちた。
    手を動かしているうちに答えがみつかるかも知れないと、今日だけで何枚もレースを編み上げた手はそろそろ限界。これでお終いにしようと、とじ針を手にしたときだった。

    「亜貴さん、遅くなってすみません!」

    アトリエのドアが開いて、うだるような熱気と共に、額に汗を残したままの玲が入ってきた。仕事が終わったあと真っ直ぐに来てくれたんだろう。
    それでも僕の誕生日を意識してか、いつものスーツ姿ではなくて、特別に装いをこらしたもので訪ねてきてくれたようだった。胸元には向日葵のコサージュ。幾つかある僕の誕生花の一つだ。
    ちょっとした心遣いが胸をじんわりと温かくして、少しだけくすぐったかった。

    「別に予約しといたレストランの時間まで全然余裕あるから大丈夫」

    気恥ずかしいやらなんやらで眉尻をさげながらそう答えると、玲はホッとした様子でドアを閉めた。

    「よ、よかったあ……あ!亜貴さんまだお仕事中でしたか?」

    「少し手を動かしたかっただけだから。もうちょっとで終わるから上がって待ってくれない?」

    ほぼ完成しているレースをもちあげて見せると、玲の顔が宝石でも見るような目を向けた。

    「分かりました!あの、すこしだけ横で見ててもいいですか?」

    「別にいいけど」

    お邪魔します。と、彼女はいつもと変わらず礼儀正しく挨拶をしたあと部屋に入り、僕の隣に腰をおろした。
    僕が作り出すものをもう何度も繰り返し見ているだろうに、彼女はいつも魔法でもみるようなキラキラした目で、僕の指先をみている。
    作業をしているときは僕は基本的に喋らないし、一緒にいても面白くないだろうと思うのに、彼女だけはそっと寄り添ってなにも言わずに楽しそうに眺めているのだ。
    やさしく流れていく時間。暫くして玲が珍しく口をひらいた。

    「赤い糸、ですね?」

    「そうだけど?」

    ちょうど編んでいたレース糸は赤。分かりきったことを確認する玲を不思議に思っていると、玲の視線は僕の指先にかかる赤い糸の先を辿っていった。

    「ちょっと失礼しても?」

    編んでいるレースの端から伸びる赤いレース糸を玲は自分の左薬指で掬いとり、さり気なく自分の左薬指にくるりと巻き付けてみせた。

    「ちょっと。なにやってるの?」

    「えへへへへ。運命の赤い糸みたいだなぁって思ったので」

    「~~~~~ッ!!!」

    なんちゃって。と、へらり笑ってみせる君の顔は悪戯っこのよう。
    僕の胸はどきどきと動揺を隠せずにいるのに、君のことだから他意なんてものはなくて、きっとただの思いつきで動いているだけだから嫌になる。彼女のそんな性格を分かっていながら、そんな悪戯に未だに動揺してしまう自分も大概だと思うけれども。
    ぶわり、と頬に熱がこもって耳までじんじんと脈を打っているようだった。とじ針を持つ指先がうまく動かせなくなって編む手を止める。
    動揺を隠すように、ちいさく息を吐いてから口を切った。

    「あのさ、運命の赤い糸なら小指でしょ?薬指は婚約指輪か結婚指輪」

    「へ?あーーーっ!?そうですよね、お恥ずかしい。って、あああああ?べつに、深い意味とかはなくてですね……!」

    改めて自分のしたことを振りかえり、そして勘違いに気がついた玲は、恥ずかしさからか語尾を口内でもごもごと噛み潰した。視線は頼りなく宙を彷徨いはじめ、頬は僕の熱を写し取ったかのように朱に染まっていた。

    「……べつに君が計算して行動するような人間だとは思ってない」

    「ははは。すみません……」

    彼女といるとなんだか婚約指輪をいつ渡そうか悩んでいることが、なんてことのないように思えてしまう。それに自分だけが翻弄されっぱなしなのも、ちょっと悔しい。
    作業していた手をそっとテーブルの上におろして、唇をきゅっと引き結ぶ。そして玲の指先に絡まる赤いレース糸の両端を掬い上げ、くるくると玲の薬指に巻き付けて固く結びあげた。

    「えーっと、亜貴さん?これは一体……」

    「このままだと知らず知らずのうちに君から逆にプロポーズされそうだから、いまプロポーズしとく。もう一生離さないから、そのつもりでいてね」

    「えっ?ぇぇぇえええ!?」

    引き出しに忍ばせておいた指輪のケースをそっとテーブルのうえに置けば、ことりと小さな音がして静寂がおとずれる。
    プロポーズしたのは自分の誕生日。場所はアトリエ。
    自分の理想のタイミングと場所とは、かけ離れているかも知れない。けれども、目をまんまるにして驚く君の目に映った自分の顔が笑顔だったから、

    きっとこれは大円団。
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