ラギーが夜食食う話、にしようとしたものサバナクローにもキッチンはある。ただ他寮と比べるとここの使用頻度はあまり高くはないだろう。実際、ラギーはここを使う数少ない寮生の一人ではあるが、自分以外の誰かがこのキッチンに出入する姿は二年生になった今でも見たことがない。たまに洗った食器やカトラリーが洗いカゴに突っ込まれているので、使ってはいる人はいるのだろうけれど。
トントンと軽快にミニトマトを半分にカットしてスキレットに放り込む。真っ黒な鉄の中には黄色いパプリカやピーマンが無造作に放り込まれていた。つまみを捻ってマジカルペンの先から火種を飛ばすと、ボゥとコンロから吹き出したガスが引火する。アイランドの下の戸棚からオリーブオイルを引っ張りだしてスキレットに回しかけると、オイルが鍋肌にあたってじゅうじゅうと音がする。火を弱めてしっかりと野菜を炒め、ゆっくりと立ち昇ってくる脂の香りを胸いっぱいに吸って、ラギーはにんまりと口角をあげた。ステンレスのさじでそっとオイルを掬い上げて口に含む。オリーブオイルに野菜の甘みや旨味、香りがうつって、これだけでもう十分に旨い。