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    wanon

    ワノです。R-18の二次創作をあげています。
    大捏造マシーンなので、公式で見たことない設定とかは当たり前ですが全部捏造で妄想です。

    感想などは、とてもとても喜びます。

    プロフィール画像/ノーコピーライトガール様

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    wanon

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    パッションのままに書いた……最初の長セリフ読む必要ありません。
    エメヒュ工場産だけどたぶんカプはないと思います(たぶん)
    推敲や読み直しもあんまりできておりません。ほんと、勢いままです。よしなに。

    アゼとヒュが飯つくってエ巻き込んで食べるだけ「つまり、エーテルの操作が下手っていうのは短所ではあるけど同時に長所にもなるわけ。工夫をするからね。私はそれを君や他の魔法を苦手とする多くの人たちから学んだ。過去の私はそりゃもう自分が魔法の天才であることを鼻にかけていたし、何もかもを魔法で済ませてしまっていて、その不便さを楽しむとかそういうことをやろうとしたことさえなかったんだけれど、心を入れ替えて、そう、ちょうど先節まで環境に適するためのエーテルを使わないっていう実験をやってみたんだよね。手紙にも書いたとおりに。これがすごくしんどくて、特に酷かったのは火のエーテルが極性になる季節と氷のエーテルが極性になる季節でさ。これが正反対のつらさなんだよ。火のエーテルが極性のときはとにかく熱いし、さんさんと降り注ぐ太陽を恨まずには居られなくて、かと思えば氷のエーテルが極性のときは本当に本当に寒くって! 火の極性のときにはあんなに恨んだ太陽が恋しくて仕方ないんだもの。耐えかねて温かさを感じられそうなイデアをたくさん創造してしまったし、君にもいくつか送ってもらったけれど、あれは本当によかったよ。あの、火のクリスタルを入れて持ち歩くランタンのイデア。あれを君が送ってくれて私は本当に助かったんだ。正しく命が助かったね。ランタンのなかで煌々と燃える炎に顔がにやけるなんてはじめての気持ちだったし、いやあ貴重な経験だった。逆に言えばアーモロートは快適すぎて経験の機会を損失していると言えるかも知れないね。それはそれでゆゆしき事態……って、そうじゃなくて。つまりその一環で私もあれをやってみたんだよ。そう、料理。でもどうしていいかわかんなくて。とりあえず君が作っていた手順とかを思い出しながらやってみたんだ。それでね、それらしいモノは出来たけど食べてみたらまるで別物で、控えめに言ってとてもマズかった。結局一回で懲りて、そこから食事だけは魔法を解禁することにしたんだ。それでそれで、改めて魔法で作った料理を食べて、どうだったと思う? やっぱりマズかったのさ! つまりそれだけ君の作ったものがおいしいってこと。だから、覚えているかい? そう、君に手料理のイデアを送ってもらった。それでわかったことなんだけど、君の料理のイデアでも、魔法で作った食事ってあまりおいしくなかったんだ。不思議だよねえどちらも君の料理なのに。それで仮説を立てた。思うに、手料理にはその人の手の味がつくんじゃないかって。もう少し細かく説明すると、エーテルのバランスとは関係ない君自身の手そのものに味があるのかもって。それで手そのものに味がついてないかってことを調べてみたけど、どうやらそうじゃないらしい。これは複数人の協力者を募って検証したから間違いない。検証の方法? それは置いておこうよ、今回は。次に考えるべきは、どうして、魔法で創造した料理と食材から手作りした料理とで味の変化が起きるのか、だよ。でもこの研究テーマはここで暗礁に乗り上げたんだ。検証に協力してくれる人がそのとき近くにいなかったし、どうやって検証したらいいかもわからなくてね。でも人の手を介してなんらかの作用が食材に働いていることは間違いない。ということで、私はこの現象をね、東方にある文化名称から名前を借りて「手の出汁現象」と呼ぶことにしたってわけ! そしてとうとう、私は次の検証を行なう機会を得た。つまり、君だよ、ヒュトロダエウス! 君の料理を私が覚えて、私手ずから再現したらどうだろう!」
     仁王立ちしたアゼムは、きらきらと光る光彩を一等輝かせて言った。
    「さあ、頼むよヒュトロダエウス。私に食事を提供してくれるよね!」
     びし! と音が立ちそうな勢いでアゼムが人差し指を立てる。
     対して、あまりにも長いアゼムの口上を聞きながら、自宅のソファでヒュトロダエウスはひたすら笑い転げていた。
    「しょ、食事を作ってあげるのは、か、構わないけれどっ」
    「けれど?」
     いてて、と笑う合間に頬を抑えるヒュトロダエウスの言葉尻に、アゼムはこてんと首をかしげた。
    「キミが、命名した、現象の名称……フフ……ちょっと酷すぎだと思うな……!」


     アゼムがヒュロトダエウスの自宅を訪れたのは十数分ほど前のことだ。
     ヒュトロダエウスは今日は休暇を取っていて、午前中から買い出しに出かけていた。
     それを終えて帰宅すると、自宅である扉の前でアゼムが待ち伏せていたのである。
     ヒュトロダエウスの顔をみたとたん、アゼムはローブと仮面越しにさえわかるほど喜色満面にあふれ、ヒュトロダエウスにこう叫んだ。
     ごはん! と。
    「仕方ないよ、本当にお腹が空いていたんだ。アーモロートに帰ってくるのも久しぶりだったから、まずは友人の顔を見たくてね」
     とりあえず、と提供されたナッツをアゼムは次々に口に入れていく。
    「それで最初は君の職場に行ったけど、局長殿は休暇だって聞いてさ。君がいないのではイフリータも借りられないし。ならば、明日朝一に改めて訪問するか、もしくは先に許可をもらおうと思ってね」
    「キミの考えはわかったよ。本命はイフリータってこともね。それで、そもそもワタシがいなくても、イデアを借りたければ管理窓口に申請を出したらいいって知ってるかい?」
    「知ってるけど、いやだよ!」
    「どうして?」
    「絶対にダメって言われるから!」
    「毎度裏口を使えると思わないで欲しいな!」
    「ええっ、なんだって!?」
     わっと声をあげて、アゼムがヒュトロダエウスの両肩をつかんだ。
    「困る困る、困るよ、ヒュトロダエウス! 私のこれまでの実績に免じてどうか! そこについては、毎度首を縦に振ってほしい!」
    「横暴で無茶苦茶を言ってる自覚があるかい? まあ、もちろん、当代アゼムの頼みなら、一考の余地はあるけれど」
    「よかったさすがだヒュトロダエウス、大好きだ!」
    「はいはい、どうも。でも残念ながら今日のワタシは休暇だから、仕事の話はこれでおしまい」
     ぱちん、と手のひらを一度あわせて、ヒュトロダエウスがアゼムの身体を押しのける。
    「それよりアゼム、ナッツでお腹は膨れたの?」
    「いいや、全然」
    「なら、キミの研究のためにも、ご希望にはお応えしようか。差し当たって問題は、二人分の食材がないことだけれど」
    「それなら大丈夫。いろいろ持って帰ってきているんだ」
    「そっか。じゃあそれで。何があるんだい?」
    「よしきた、ちょっと待って」
     聞かれるやいなや、アゼムは椅子を飛び降りて床に置いていた旅用の鞄に上半身をつっこんだ。
     この鞄は旅人用に縮小魔法が付与された一品で、はるか昔にイデアが登録されて以来、その使い勝手の良さから旅人に限らず多くの人々に愛用されている。
    「ええと、これと……これと……」
     アゼムは鞄のなかでブツブツ言いながら、次々と品を取り出しはじめた。
     極彩色の草、なにかの種に謎の乾燥肉、ひいては南方の珍品らしきものや不気味な壺が無造作に床に広げられていく。
     ヒュトロダエウスは、はじめこそただ見ているだけだったが、やがてアゼムの取り出したものを受け取り、あるものはこっちに、あるものはあっちに、あるものは食卓にと拾い上げはじめた。
    「うん、こんな感じかな」
     しばらくして、ふう、と息をついてアゼムが鞄から体を引きずり出す。
     ぐるりと周囲に視線を向けると、乱雑に引っ張り出した品々はすべて、アゼムを中心に主な用途ごとにすっかり並び替えられていた。
    「おお、ありがとう。ヒュトロダエウス」
    「どういたしまして。鞄の整理はこれで終わりかな?」
    「ああ、バレてた?」
     悪びれもしないアゼムに、バレバレさ、とヒュトロダエウスが肩をすくめる。
    「もしこの実を食材のつもりで出したなら、さすがのワタシもキミの神経を疑うよ?」
    「ああ、そういえば毒があったっけ」
    「こっちの草は、罠用の痺れ薬の原料でしょ」
    「そうだよ、これあると便利なんだ……この種はなんだったかな?」
    「お腹が痛いときに効くね、割って飲む」
    「ああ、大事なやつだ。取り出しやすいところに入れておこう」
     ヒュトロダエウスと話しながら、アゼムは取り出した品物を今度は鞄へ次々放り込んでいく。
     床一面を覆うほど並んでいた品々がすっかりなくなると、さてと、とアゼムは鞄の口を閉じて留め金をぱしん、と軽くたたいた。
     すっかり元通りに膨らんだ鞄を部屋の隅に追いやって、アゼムが食卓を振り返る。
    「よっし完了。それで、そっちが今日のお昼ご飯ってわけだ」
    「そういうことになるね」
     いつの間にか仮面とフードを外していたヒュトロダエウスが手のひらで食卓を示し、アゼムはそこに残された「食材」に目を落とす。
    「ほうれん草、フェタ、ディル、エッグ……これは!」
    「ナッツも食べたし、待てるよね? スパナコピタと、フェタがたくさんあるからサガナキでどうだい?」
     ヒュトロダエウスのあげたレシピに、アゼムの脳裏で薄いパリパリの生地に包まれたほうれん草のパイと、両面をこんがりと焼いた蕩けるチーズが躍る。
     釣られてもうひとつ、甘いシロップをたっぷりまとった卵型のクッキーが思い浮かんだ。
    「そこにぜひ、メロマカロナも!」
    「面倒臭いな……それに時間がかかるよ?」
    「おねがい、ヒュトロダエウス!」
    「本当に面倒くさいんだけど!」
     軽快なやりとりの間にも、ヒュトロダエウスは大きな浅いバスケットを創造すると、そこに食材を料理毎に必要なだけ取り分けていく。
    「キミも手伝ってね、アゼム」
    「もちろんだよ、ヒュトロダエウス」
     うなずいてアゼムも仮面とフードを外した。そのままパンッと軽く裾を叩いて、ローブについていた塵を一掃する。
    「これでよし」
    「邪魔になるから、袖も留めたほうがいいね」
    「了解」
     指示されるまま身支度を整え、先に行ったヒュトロダエウスを追ってアゼムもキッチンへと入る。
    「広いね、大人が二人ならんでも全然狭くない」
    「これくらいあるほうが動きやすいんだ」
    「へえ、そうなんだ。でも、邪魔にならないように気を付けよう」
    「魔法でパパッと創ってもいい?」
    「それじゃあ意味がないじゃないか!」
    「わからないなあ、なんでダメなの」
    「だから、手の出汁現象だって」
    「その名称は本当に辞めない?」
     ヒュトロダエウスが今度は大きめな深い器を創りだし、そこに二種類の粉を目分量でドサドサといれていく。
     アゼムがその粉を指さした。
    「強力粉と薄力粉、強力粉多め。フィロかな?」
    「正解。覚えてたんだ?」
    「これだけはね」
    「じゃあ次は覚えてる?」
     粉袋を置いて、ヒュトロダエウスが器の中に手を入れる。
    「レモン水を作る」
    「半分正解。じゃあ、そこまではよろしく」
     丁寧に粉を混ぜ合わせはじめたヒュトロダエウスの邪魔をしないように、アゼムはキッチンをもう一度見渡した。
     棚に置かれていた水差し取って魔法で水を注ぎ、レモンを取り上げ、それをまた魔法で二分する。
    「魔法は使わないんじゃなかったの?」
    「こういう作業はいいんだよ」
     アゼムはレモンの皮を軽くはじくだけで汚れをすっかり落としてしまうと、水差しの上でそれをぎゅうっと慎重に絞った。
    「それは魔法じゃないんだ」
    「調理だから」
    「……ダメだ、本当に基準がわからない」フフフ、とヒュトロダエウスが笑う。
     レモンはそれくらいで十分だよ、とヒュトロダエウスが声をかけ、頷いたアゼムはレモンをよける皿を探してあたりを見渡した。
     その間にヒュトロダエウスが粉の器から手を離し、水差しに塩とオリーブオイルを足してくるりとひと混ぜする。
     振り返ってそれを見たアゼムがあっ! と声をあげた。
    「大事なところ見逃した!」
    「残念でした、あとでレシピをあげるから」
     ショックを受けるアゼムを尻目に水差しを取り上げると、混ぜ合わせた粉全体に円を描くように水を加え、粉と和える。
     生地の状態を確かめながら数回に分けて水を足して、それからしっかりと生地を捏ねる。
     しばらくすると、最初は毛羽立っていた生地の表面がだんだんと滑らかになっていくのが見た目からわかった。
    「いい感じかな」ヒュトロダエウスが生地をつつく。
    「まるで魔法だね」とアゼム。
    「……念のため聞くけど、魔法の定義はちゃんと覚えてるよね?」
     滑らかになった生地を丸くまとめて、ヒュトロダエウスは器から手を離した。
     ぬれた布巾を用意して生地に被せ、調理台の下から分厚い布を取り出すとそれですっぽりと器を覆い隠す。
    「それはなにをしているんだっけ……?」
    「生地を寝かせて、なじませてるんだよ」
    「手間がかかるな」
    「それをやろうとしているんだろう?」
     まあね、とアゼムが頷く。その額に、ヒュトロダエウスがゴツンとオニオンを当てた。
    「さて、本番はここからだ」

     結論から言うと、アゼムはとても泣いた。ヒュトロダエウスがオニオンのみじん切りを作るのに、アゼムに魔法を使うことを許さなかったからだ。
     慣れないナイフに奮闘し、オニオンの繊維を切るたびに放射される凶悪な飛沫と激闘を繰り広げたが、いかに歴戦の猛者だとしてもアゼムはこの戦いに敗北するしかなかった。
     その様子をヒュトロダエウスは腹を抱えて笑っていたが、しかし同じ空間にいる以上、彼もその猛攻から完全に逃れることはできない。
     結局は彼もオニオンの汁に敗北し目頭を押さえることになったのだが、にもかかわらず頑なにアゼムの魔法を禁じたのは、きっと彼なりの意趣返しでもあったのだろう。
     アゼムが泣きながら刻んだオニオンは、今はヒュトロダエウスによってしっかりと炒められ、ふちが解けかけすっかり透明になっている。
     そこに軽く塩ゆでしたほうれん草と刻んだディルが加わって、スキレットの中はじゅうじゅうと賑やかだ。
    「エッグはほぐれた?」
     スキレットから視線を外さずにヒュトロダエウスがアゼムに聞く。
    「バッチリ」
    「なら、ここに入れてしまって」
    「一気に入れても?」
    「いいよ、どうぞ」
     じゅわっ、という音とともに、アゼムがスキレットへと解きほぐしたエッグをぶちまけた。
     すかさずヒュトロダエウスがくるりと手首を回し、エッグをスキレットのすみずみへ流し込む。軽く中身を混ぜて、エッグが固まりだしたところで塩と胡椒を加え、スキレットを火からあげた。
    「あとは余熱で。冷めたらフェタチーズと一緒にフィロで包んで、オーブンで焼いて完成」
    「それだけ聞くと簡単!」
    「サガナキはスパナコピタを焼きながらでいいから……先にメロマカロナを作ろうか」
    「え、いいの?」
    「食べたいって言ってたじゃない」
     言いながら、ヒュトロダエウスはもう準備に取りかかっていた。
     フィロ生地に使ったものよりも二回り以上も大きい、今度は浅い器を創り、そこに薄力粉を入れる。
     粉の中央に指先で円を描いて器の底がみえるよう穴をあけ、そこに粉にしたシナモンとクローヴ、新鮮なオレンジの皮のすりおろしを置き、さらにオレンジの果汁をたっぷり搾り入れ、干しぶどうをつけた水を棚から取り出してそそぎ入れた。さらに蒸留酒とオリーブオイルを、全体の分量を見ながらそれぞれ一垂らし、二垂らし。
     小麦粉の城壁のなかに淀みなく足されていく食材の数々に、アゼムはぱちぱちと眼を瞬かせる。
    「メロマカロナってこんな風につくるのか」
    「そうだよ。言ったろう、面倒臭いって」
     足りないものはないかを指さし確認して、よし、と小さく頷くと、ヒュトロダエウスは器から粉や水分が溢れないよう慎重に、けれど豪快にそれらを混ぜはじめる。
     両手で粉と水を中央に向かって集め、スパイスとオレンジが均等に行き渡るように粉と水を撫で摩る。
    「職人芸?」
    「魔法を使わないで作るなら、だいたいこんな感じだよ。ああ、パンもこうやって作るね」
     粉がやや多い、硬めの生地を手のひらでしっかりと練っていく。全体から粉っぽさがなくなり、硬さが均等になったところで生地をひとつにまとめ、ヒュトロダエウスはようやく手を止めた。
    「さあ、あとは、見慣れた形に成形して焼くだけだよ」
    「思った以上に手間なんだね」
    「そうだよ、魔法でやるほうがずっと効率的だ」
     ヒュトロダエウスは手を洗うと台に肘をついて作業を眺めていたアゼムを手招きする。
    「はい、整形はキミの仕事」
    「よしきた! 魔法でさっくり……」
    「ダメだよアゼム、機会損失だってキミが言ったんでしょう」
     にこりとヒュトロダエウスが笑う。
    「オニオンのときと一緒だよ。ほら、頑張って」
    「……はーい」
     アゼムがしぶしぶと生地に手を伸ばす。一口よりやや大きめの卵形に生地をちぎり、丸めはじめたのを確認して、ヒュトロダエウスは棚から小鍋を取り出した。
     水と砂糖をたっぷりと、そこにスライスしたレモンを数切れ入れて。手元の小鍋と生地を見比べながら頭の中で概算した分量を鍋にいれ、火にかける。
     ゆっくりと混ぜながら砂糖を溶かし、浮かんでいたレモンが水中を上下しはじめたところで、ハチミツを足す。沸騰してきたら、そこからは手を止めず、あとはひたすら灰汁を取りながら煮詰めていく作業だ。
    「レモンシロップ、そうやって作るのか」生地の整形をしながら、アゼムの顔が小鍋に向く。
    「いい香りだろう。メロマカロナが焼けたらこれに潜らせて……仕上げにクルミを散らそうか。キミ、クルミ好きだったよね?」
    「うん、最高」
     贅沢だなあ、とアゼムがにやける。そうだねえ、とヒュトロダエウスも頷いた。
     そのうちにアゼムがメロマカロナの整形を終えて、ヒュトロダエウスとシロップの見張りの役を交代した。
    「ヒュトロダエウスは、次はなにをするの?」
    「そろそろフィロ生地が馴染む頃だから、スパナコピタの続きかな」
     応えながら、厚手の布地の下から休ませていた生地の器を取り出して、ぬれ布巾を取り払う。
     滑らかな表面に触れると真っ白な生地がしっとりと指を押し返す。肌触りと弾力で状態を確認して、ヒュトロダエウスはうんうんと頷いた。
    「いいね、とてもいい」
     作業台を魔法で払って、小麦粉で打ち粉すると、そこに器から引っぺがした白い生地をどんと落とした。
     軽く伸ばしながら生地全体の様子をみて、それを8等分に分けて丸めていく。
    「それをのばして、重ねるんだっけ」
    「そうだよ。アゼムはフィロに馴染みが薄いよね」
    「あんまり食べる地域じゃなかったから。本当、手がかかるなあ」
     作っているうちにお腹と背中がくっつきそうだよ、とアゼムがぼやく。
    「時間がかかるのを希望したのはアゼムじゃない」
     我慢してよ。はあーい。
     それからはひたすら、二人とも単調な作業続きだったのもあり、作業ながら土産話に花が咲いた。
     アゼムの訪れた土地のこと、そこでの出会いと驚き、自然の美しさと力強さ。星に放たれた生き物たちの在り方、ときに人の想像を超える奇跡の話。
     または、新しく登録されたイデアのこと、アーモロートの近況に、ふたりの共通の今日ここにはいない友人の話など。
     旧友の間に話は尽きることがなく、話したいことはフィロの層の数より多い。スパナコピタがあとは焼くだけというところまで出来上がっても、レモンシロップの粗熱が取れても、まだまだ話はつきなかった。
    「ねえ、ヒュトロダエウス」
    「なんだい、アゼム」
    「私たちだけでも楽しいけどさ」
    「うん、そうだね」
     皆まで言わず、ヒュトロダエウスはアゼムに同意した。
    「でもアゼム、昼休憩はもうとっくに終わっている時間だよ?」
    「ダメだったら、諦めるさ!」
     手元の作業を終え、手持ち無沙汰になっていたアゼムが、ぱっとキッチンから飛び出していく。
    「もしまた食事を抜いているようなら、力尽くで引きずり出してくるよ!」
     バタバタと玄関へ走っていく足音に苦笑して、ヒュトロダエウスはいってらっしゃいと手を振った。
    「さて、と」
     キッチンに一人残されて、ヒュトロダエウスは、ふむとキッチンを見渡す。
     あとは焼くだけのスパナコピタとメロマカロナ。二人分のサガナキ。
     念のため時間を確認すれば、たしかに昼食には少し遅い。けれど、彼は忙しいと食事を忘れることも少なくない。
     ――本当に来るかはわからない。でも、忙しいなか、もしここに来るというのなら。
     飛び出していったアゼムの背中を思い出す。ヒュトロダエウスにも、若干、なにかの予感があった。
    「……三人分ってなった場合、今の量じゃあ、ちょっと足りないよね」
     もし余ったら、夕食にしよう。
     よし、とひとつ頷いて、ヒュトロダエウスは上げていた袖を留めなおした。
    「スパナコピタとメロマカロナは、一緒に焼いて構わないから、」
     まずはオーブンに火属性のクリスタルを入れ、エーテルを流して着火する。
     それから、余熱の間に、サガナキ用に大きめのスキレットとオリーブオイルを取り出して、三人分のフェタチーズに小麦粉を軽くはたいておく。サガナキはひとまずこれでいい。
     いつでも焼きはじめられるように準備を整えて、オーブンを確かめる。さすが市民の味方の便利なイデア、丁度良い温度に温まっているのを確認して、スパナコピタとメロマカロナを放り込んだ。
     オーブンの戸を閉めてすぐ、戸棚とあけて中にすばやく目を走らせる。
    「バケット、タラモ、ガーリック……それなら」
     買い足したばかりの食材からバケットをまるまる一本引っ張り出して、半分に。
     その片方の内側をナイフで抉り出して水につけた。もう片方は薄くスライスして鉄板にならべ、これもオーブンに放り込んでおく。
     そのついでに、焼いていたスパナコピタとメロマカロナの様子を見て――まだまだ時間がかかることを確認して、また戸棚へ向かいガーリックとタラモを取り出した。
     作業台に置いたカッティングボードで、タラモとガーリックを、それぞれ皮をしっかりとむいてからナイフの背で潰し、叩く。
     それから水につけておいたバケットをあげて水気を絞り、それも足してさらにペースト状になるまで叩いていく。
     途中で手を止めてオーブンを覗くと、スライスしたバケットがこんがりと焼けていた。焼きすぎの一歩手前のそれを慌てて取り出して、スパナコピタとメロマカロナの鉄板は焼きムラを減らすためにくるりと半回転させる。
     カッティングボードに戻り、半ペーストのそれをさらに叩いた。時間が気になって、ペーストというには少し荒いところで切り上げる。
     最後にタラモとガーリックとバケットがきれいに混ぜて器にいれ、レモン汁とオリーブオイルで味を調えたらタラモサラタが完成だ。
     焼いたスライスバケットを添えて、浮遊魔法でまず一品目を食卓へ。
     息つく間もなく、スキレットを火にかけた。
     鉄が温まりすぎないうちにオリーブオイルを入れて、それがほんのりと温まったところで下準備に小麦粉をはたいておいたフェタチーズをスキレットにそっと並べる。
     ヒュトロダエウスは、サガナキはしっかりめに焼きたい派だ。しかしうっかりするとすぐに焼きすぎてしまうから、この料理は意外と難しい。溶け出したチーズの端をつつきたい気持ちをぐっと堪えて見張るうちに、オーブンからいい香りが立ち上ってきた。
     サガナキを焼くスキレットを少し火から遠ざけて、足はまっすぐオーブンへ。
     扉を開いた先で、きれいなきつね色に焼きあがったスパナコピタとメロマカロナがふわりと湯気を立てる。
     仕上がりに思わず頬を緩めつつ、オーブンから二品を取り出した。スパナコピタは木製の下敷きと一緒に浮遊魔法で食卓へ。
     メロマカロナな粗熱を取るために焼き網を取り出してそこに広げた。
     スキレットに戻る。火から遠ざけておいたのは正解だったようで、サガナキは焼きすぎにならない程度に、けれどしっかりと焼き色がついていた。それをご機嫌にひっくり返して、反対側も同じように焼いていく。
    「……これ、盛り付け。どうしようかな」
     ふ、とそんなことを思って、とりあえず真っ青な陶器の皿を三枚取り出して並べておく。
     並べた皿を一瞬ながめて、スキレットのまま配膳することに決めた。
     サガナキは味付けの選択肢も多いのだから、こちらで味付けはしないでおいて、その代わりハーブやペッパー、はちみつを食卓に並べて、好きに食べられるようにしたらいい。
     決まればあとは、ジジジ、と音を立てるチーズの香りを胸いっぱいに吸いこみながら待つだけだ。
     ヒュトロダエウスはこんがり焼けたフェタチーズを取るようにと、出しておいた青い皿と、ついでにハーブとペッパー、ハチミツも食卓への運んでおく。
     これが焼けたら、三品目。
     三人前のサガナキが入ったスキレットを食卓に配膳し終えると、ヒュトロダエウスは玄関への目を向ける。
     近付いてくるエーテルの気配を確認すると、最後の仕上げに、アイスクリスタルをつめた保冷箱を開いた。中から作り置きディップソースを取り出したところで、玄関から扉の開閉音が聞こえてくる。
    「ただいま、ヒュトロダエウス」アゼムの声だ。
    「おかえり、アゼム」保冷庫の戸を閉めて、ディップソースも食卓へ。
    「聞いてよ、ヒュトロダエウス。彼、なんと、お昼ご飯を食べ損ねていたらしいんだよ」
     リビングへやってきたアゼムが、驚いたあ! と大げさに両手をあげた。
    「ご飯を抜くなんて、ダメだよねえ」
    「フフフ……そうだねえ」
     アゼムの悪い顔に頷いて、部屋へあがってきたもう一人。
     むっつりと唇を一文字に引き結んだ、やや疲れたようすの彼に、ヒュトロダエウスはひらりと片手をあげた。
    「やあ、エメトセルク。一緒にどうだい、少し遅めの昼食でも」

     唯一間に合っていなかったメロマカロナをシロップにくぐらせる作業を結局魔法で終わらせて、三人は食卓に向かい合っていた。
     テーブルの上にはできたてのサガナキと、滑らかより少し粗いタラモサラタにこんがり焼き色のついたブレッドのスライス。
     焼きたてのスパナコピタにはヨーグルトとガーリック、ズッキーニを合わせたザジキソースが添えられている。
    「アゼムのお願いでね」
     軽めのワインを三つのグラスに注いで、ヒュトロダエウスは最後に食卓に着いた。
    「お昼が食べたい、ないか作ってっていうから、ならば作ろうって話になってね」
    「手の出汁現象の調査でもあるよ」
    「なんだその不気味な現象は。それでどうして私が仕事中に呼び出されることになるんだ?」
    「話してるうちに、三人でお昼したいなと思って」
     アゼムの返答に、エメトセルクの眉間のしわが深くなる。
    「別にたまにはいいじゃないか」とアゼム。
    「私は、今日、忙しかったんだ!」
     エメトセルクが眉をつり上げるのに、アゼムは口元をにい、とあげた。
    「短気は空腹の証拠さ、エメトセルク。仕事は手伝ってあげるから、ひとまずは食べよう。温かいうちに」
     言うが早いか、アゼムがワインを手に取った。
     なにか言いかけたエメトセルクも、やれやれと口を閉じてそれに倣い、それを見たヒュトロダエウスもグラスを取る。
     全員の手にワインがゆれるのをみて、アゼムは嬉しそうに破顔した。
    「再会に乾杯! 二人とも、我がままを聞いてくれてありがとう!」
    「フフフ……どういたしまして」
    「……乾杯」
     音頭に続いて、まずはスパイスワインを一口。それから各々、好きに食事に手を伸ばす。
     アゼムはタマモサラタに、エメトセルクはスパナコピタを。ヒュトロダエウスは自分用に取り分けたサガナキにハチミツを回しかけて。
    「エメトセルクを呼びに行ってる間にさ、一品増えてて、びっくりしたよ」
     アゼムがタラモサラタをこんもりと乗せたブレッドにかぶり付いた。
    「タマモサラタまでつくるなんて聞いてない」
    「三人分なら、あったほうがいいかなって思って」
     言いながら、ヒュトロダエウスもサガナキを口に運んだ。出来立てから少しだけ時間がたってしまったが、シンプルな山羊のチーズはまだ温かい。
     オリーブの香りをまとった、素朴な味わいのチーズにハチミツの甘みがしっとりと絡んで、乳の優しい香りがふわりと口の中に広がっていく。
     こくりとチーズを飲み込んで、おもわずワインをもう一口。
    「……もしあまっても夜に食べればいいのだし、それよりもせっかく三人そろったのに食事が足りないなんて、そっちのほうが残念じゃない」
    「それでパパッと作ってしまうところが君のすごいところだよ、ヒュトロダエウス。私が家を飛び出してエメトセルクを連れてくるまでに、全部完成させちゃってるしさ」
    「褒めてもらえて光栄だけど、キミ、今日はワタシのことを褒めすぎだね?」
    「そんなことないよ!」
    「どうかな? イフリータを借りたいって件、さてはかなり無理を言うつもりだったりして」
    「うわあ! ヒュトロダエウス、その話は今は……!」
     ガタン、とアゼムが立ち上がり、恐る恐る視線を隣へと向け、予想通りの反応にフフフと笑ったヒュトロダエウスも、そっとエメトセルクの様子をうかがう。
     二人の注目をよそに、エメトセルクはザジキソースたっぷり乗せたスパナコピタへ、ザクッと音を立ててかじりついて、一口、二口。それを飲み込んで。
    「……アゼム!」
    「うわあ! 時間差ァ!」
     眉をつり上げたエメトセルクの時間差の叱咤に、すっかり油断していたヒュトロダエウスは盛大にワインを吹き出した。

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    Replies from the creator

    wanon

    TRAININGパッションのままに書いた……最初の長セリフ読む必要ありません。
    エメヒュ工場産だけどたぶんカプはないと思います(たぶん)
    推敲や読み直しもあんまりできておりません。ほんと、勢いままです。よしなに。
    アゼとヒュが飯つくってエ巻き込んで食べるだけ「つまり、エーテルの操作が下手っていうのは短所ではあるけど同時に長所にもなるわけ。工夫をするからね。私はそれを君や他の魔法を苦手とする多くの人たちから学んだ。過去の私はそりゃもう自分が魔法の天才であることを鼻にかけていたし、何もかもを魔法で済ませてしまっていて、その不便さを楽しむとかそういうことをやろうとしたことさえなかったんだけれど、心を入れ替えて、そう、ちょうど先節まで環境に適するためのエーテルを使わないっていう実験をやってみたんだよね。手紙にも書いたとおりに。これがすごくしんどくて、特に酷かったのは火のエーテルが極性になる季節と氷のエーテルが極性になる季節でさ。これが正反対のつらさなんだよ。火のエーテルが極性のときはとにかく熱いし、さんさんと降り注ぐ太陽を恨まずには居られなくて、かと思えば氷のエーテルが極性のときは本当に本当に寒くって! 火の極性のときにはあんなに恨んだ太陽が恋しくて仕方ないんだもの。耐えかねて温かさを感じられそうなイデアをたくさん創造してしまったし、君にもいくつか送ってもらったけれど、あれは本当によかったよ。あの、火のクリスタルを入れて持ち歩くランタンのイデア。あれを君が送ってくれて私は本当に助かったんだ。正しく命が助かったね。ランタンのなかで煌々と燃える炎に顔がにやけるなんてはじめての気持ちだったし、いやあ貴重な経験だった。逆に言えばアーモロートは快適すぎて経験の機会を損失していると言えるかも知れないね。それはそれでゆゆしき事態……って、そうじゃなくて。つまりその一環で私もあれをやってみたんだよ。そう、料理。でもどうしていいかわかんなくて。とりあえず君が作っていた手順とかを思い出しながらやってみたんだ。それでね、それらしいモノは出来たけど食べてみたらまるで別物で、控えめに言ってとてもマズかった。結局一回で懲りて、そこから食事だけは魔法を解禁することにしたんだ。それでそれで、改めて魔法で作った料理を食べて、どうだったと思う? やっぱりマズかったのさ! つまりそれだけ君の作ったものがおいしいってこと。だから、覚えているかい? そう、君に手料理のイデアを送ってもらった。それでわかったことなんだけど、君の料理のイデアでも、魔法で作った食事ってあまりおいしくなかったんだ。不思議だよねえどちらも君の料理なのに。それで仮説を立てた。思うに、手料理にはその
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    wanon

    MOURNING眠いので尻切れトンボになりました。
    ラギーが夜食食う話、にしようとしたものサバナクローにもキッチンはある。ただ他寮と比べるとここの使用頻度はあまり高くはないだろう。実際、ラギーはここを使う数少ない寮生の一人ではあるが、自分以外の誰かがこのキッチンに出入する姿は二年生になった今でも見たことがない。たまに洗った食器やカトラリーが洗いカゴに突っ込まれているので、使ってはいる人はいるのだろうけれど。
    トントンと軽快にミニトマトを半分にカットしてスキレットに放り込む。真っ黒な鉄の中には黄色いパプリカやピーマンが無造作に放り込まれていた。つまみを捻ってマジカルペンの先から火種を飛ばすと、ボゥとコンロから吹き出したガスが引火する。アイランドの下の戸棚からオリーブオイルを引っ張りだしてスキレットに回しかけると、オイルが鍋肌にあたってじゅうじゅうと音がする。火を弱めてしっかりと野菜を炒め、ゆっくりと立ち昇ってくる脂の香りを胸いっぱいに吸って、ラギーはにんまりと口角をあげた。ステンレスのさじでそっとオイルを掬い上げて口に含む。オリーブオイルに野菜の甘みや旨味、香りがうつって、これだけでもう十分に旨い。
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