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    咲間ほな

    @hona3_4869
    えっちなやつとか落書きとか避難する場所にしよう、そうしよう

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    咲間ほな

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    前に書いた「この恋は悲劇なんかじゃない」(支部に掲載)の英雄視点というか後日談というか。ぽちぽち書いてたけど完成させる気が無くなっちゃったし筆が進まなくなったので供養。

    朝焼けを進む 龍と初めて思いが重なった日。七月のとある雨の日だった。
     送り梅雨、というやつだったか。その日は関東全域が激しい雨に襲われていて、たまたま自分の車で移動する予定だった英雄は、ふと、龍の顔を思い浮かべた。日頃から不運対策に心を砕いている龍のことだから、傘くらいは持っているだろう。しかし、雨だけならまだしも風が出てきたら? 雷が鳴り始めたら? 電車が止まって帰れなくなったら? およそ成人男性に対する心配の仕方ではないと自覚しつつも、自覚したところで心配しないように振る舞うこともできない。握野英雄は、そういう面倒見の良さを兼ね備えた男だった。
     いや、実のところは「面倒見が良いから」だけではなかった。英雄は木村龍という青年に、淡い恋心を抱いていたのだ。
     ――いつも通りの英雄さんでいいんですよ!
     去年の冬、ぎこちない笑顔をどうにかしようと悩む英雄に龍がかけた言葉。あの時は目の前の仕事に夢中で深くは考えなかったが、確かにその言葉は英雄の心を軽くさせ、英雄の背中を押してくれた。いつから龍のことが好きだったのか――あの出来事よりもっと前から好きだった気もするし、つい最近のことのような気もする。明るく、一生懸命で、危なっかしくて、いつもありのままの英雄を認めてくれる龍。恋心を自覚しているとはいえ、まだ明確な肉欲は伴っていない……と思う。それでも、英雄にとって既に彼は特別な存在だった。だからこそ、あの雨の日に龍のことを思い出したのは、自然なことでもあり、必然でもあった。
     龍を車で拾って事務所に着いてからのやりとりは、まあ、思い出すだけで顔から火が出そうなものだ。今思えば、英雄のひとつひとつの言葉や息遣い全てに、木村龍という存在への愛が表れていたように思う。それらが彼にどれほど伝わっていたのかはわからないが、少なくとも、互いに同じ思いを抱えていると確信したからこそ、龍は英雄に告白をしたのだろう。普段の幼さが残る言動からは考えつかないくらい、実のところ、龍は他人の感情の機微に鋭かった。ゆえに、そういう彼の性質に甘えて告白させてしまったことは、英雄にとってたいそう情けのないことのように思えた。


    「信玄、ちょっといいか」
     梅雨が明け、予定していた野外ライブが成功してから数日後。仕事の打ち合わせで事務所を訪れていた英雄は、プロデューサーも龍もまだ来ていないのを確認し、誠司を屋上へ呼び出した。龍との関係の変化を誠司に伝えなければと考えていたが、野外ライブが終わるまでなかなかタイミングが合わずにいたのだ。
     誠司はきっと、英雄と龍の関係を受け入れてくれるだろう。なんとなく英雄には確信があった。その確信の通り、英雄の報告に一度は面食らった誠司だったが、説明を聞くうちに納得の表情を見せるようになった。英雄がひと通り経緯を説明し終えると、誠司は穏やかな瞳を向けながら、「そうか」と頷いた。
    「悪い。信玄にも仕事にも、迷惑かけるつもりはないから」
    「迷惑だなんてとんでもない。それに、二人が互いを友人以上の存在として見ているんじゃないか……とは、前から思っていたんだ」
     今度は英雄が面食らった。表情豊かな龍はともかく、自分もそこまで顔に出ていただろうか。顔が赤くなったり青くなったりしている英雄を見て、誠司は思わず吹き出した。
    「いや、今日こうして話を聞くまでは、まさか恋愛感情だとは思っていなかったが……そうだな、英雄はやけに龍に対して過保護だし、龍は龍で英雄によく甘えているなと思っていてな」
    「過保護……俺が?」
    「はは、自覚がなかったのか」
     自分がわりと世話焼きなほうだ、という自覚はある。大家族で年下の弟妹がいるとなると、自然と年下の面倒を見たくなるものだろう。少なくとも英雄は、自分より年下の龍を弟と同じように可愛がっているつもりではあった。ただ、それ以上に、常に不運に見舞われる龍を守りたいと思っていたし、不運にも負けじと立ち上がる彼の姿を見て眩しく感じることもあった。
     うん……と唸りながら考え込む英雄に、誠司は「まあ、ほどほどにな」と苦笑する。ほどほどに、と言われるほど過保護だっただろうかと英雄が思い始めたところに、二人の名前を呼ぶ声が響いた。
    「英雄さん、誠司さん! こんなところにいたんですね!」
     屋上に通ずるドアから顔を覗かせたのは、たった今話題に上がっていた龍本人だった。どうやらプロデューサーも事務所に到着したらしく、そろそろ打ち合わせが始まるとのこと。急いで階段を駆け上ってきたのか、息を上げている龍の乱れた前髪を見て、英雄はくすりと微笑んだ。
    「今日は何かあったのか? 急いで来たみたいだけど」
    「へへ……来る途中の信号が全部赤で、しかも迷子の子どもがいたので交番に届けたりしてて……あっ、でも怪我はしてませんよ!」
     今日の靴紐は新品ですからね! と、くたびれたスニーカーに不釣り合いな白く輝く靴紐を、龍は自慢げに指さした。龍にとって、目の前に不運が多く立ち塞がっていることは、ほんの少しの幸運を見つける障害にはならないようだ。英雄は眩しそうに目を細めると、龍の頭に手を伸ばし、その乱れた前髪を撫でつける。
    「お前が無事なら何よりだぜ。迷子の子を助けられたのだって、さすがだよ。偉いな」
    「えっと、英雄さん……誠司さんが……」
     龍を撫でながら顔を近づける英雄の後方、にこやかに二人へ視線を向けている誠司に、龍はどぎまぎとうろたえた。英雄は龍の困惑に、ああ、と思い当たり、先程誠司に二人の関係について説明したことを伝えた。
    「う……誠司さん、俺、絶対誠司さんにも仕事にも迷惑かけません! 今まで通り、一緒に過ごしてもらえたら嬉しいです!」
    「っはは!! 英雄と同じことを言ってるな! これからもよろしく頼むぞ。龍、英雄!」
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