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    yana0u0

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    yana0u0

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    フォロワーさんの誕生日プレゼントとして書いた作品。ファンタジック色が強く、モブが出張っていますので、苦手な方はご注意ください。

    迷彩服の運び屋の話。
    彼が誰に届けたのかは、ご想像にお任せします。

    ##キン肉マン
    ##アタル

    守り神から祝福を(アタル) 白い吐息に被さるよう、チラチラと舞う粉雪。この惑星は年中寒いと聞いたが、今日はとりわけ寒さが強い。
     仕事終わりにふらりと歩く賑やかな街。立ち並ぶ露店の店員達は、寒さをモノともしない。
     住民達が言うには、近くこの星の守り神の生誕祭があるとのこと。ならば今の時期は何処も賑わうだろう。
    「お兄さん」
     露店を見るように歩いていれば、一人の少女がアタルを呼び止めた。
    「お一ついかが?」
     差し出されたのは綺麗にラッピングされた一輪の花。それは彼もよく知る花だが、この星の気候では育たない。
    「コレは……」
    「珍しいでしょ。これね『ひょん』って言うの」
    「ひょん?」
     しかし思っていた名前とは違い、アタルは困惑する。
    「そうよ『咲くはずのない場所に、咲く花のこと』を言うんだって」
     少女の話を聞いていれば、それが花全体の俗称になっている事が伺えた。
     そう言えば種類の違う樹木が結びついて成長した場合、本来であれば咲くはずのない色の花が咲く現象がある事を思い出す。
    「ああ、成る程……」
     こんな時に役立つキン肉王家特有の帝王学。学んでいる当初は何の役に立つかも分からない眉唾物の知識だったが、まさかこんな所で活用されるとは思わなかった。
    「だが『ひょん』とは、良くない事が起こる前触れではなかったか?」
     半ば埃を被った知識を引っ張り出して来ると、少女はジト目になり、頬を膨らませた。
    「むかし守り神様がね、可憐な花にそんな意味合いをつけるのは花に対して失礼だって言ったの。だからここでは『ひょん』は良い事が起こる前触れなのよ」
    「黒猫を吉兆と見るか、凶兆と見るかの違いか……」
    「もー……そんな難しく考えないでよ『花が咲く場所を選んで自分の所に来てくれた』とかの方が、ロマンチックじゃない?」
     冷静に返答すれば、子どもの夢を奪うなと言いたげな表情で返される。
     そう言われても、これが自分の性分なのだ。あまり無茶な事を言わないでほしい。
    「……」
     なんと言えば良いか分からず、無言で少女を見つめる。視線が合わされば彼女は明るく笑い、持っている花を再度アタルに差し出した。
    「この子はお兄さんを選んだの。だから受け取ってくれる?」
     副声音として、つべこべ言わずにさっさと受け取れと聴こえてきそうな声色。まだ年端もいかない少女だが、何とも威勢がよろしい子どもである。
    「そうだな」
     花一輪。大した金額にはならないと考えたアタルは、彼女の差し出した花を受け取った。そして笑う少女に苦笑いを返し、ポケットに入れているお金を出そうと視線をほんの少しだけ下げる。
    「代金は……」
     だが再び視線を上げた時、そこに少女は居なかった。瞬時に辺りを見回すが、少女らしき人物は見当たらない。
    (一体、どこに……)
     本当に前触れもなく消えた彼女。どの方角に行ったかも分からず、アタルは近くの露店で菓子を販売している男に話しかけた。
    「店主」
    「ん? どうした兄さん。迷子にでもなったか?」
     人の良さそうな店主は、冗談を混じえながらニカリと笑う。
    「花を売っている少女を見なかったか?」
    「花を売る?」
     アタルが少女から渡された花を見せると、店主は最初、不思議そうにしていたが、すぐに驚いたような表情をした。
    「兄さん、アンタ……その子は守り神様の使いだよ」
    「……守り神の使い?」
     嬉しそうな店主の言葉に、今度はアタルの方がよく分からない表情をする。
    「ああ、この星の守り神様は気まぐれに良い人を見つけては、使いに花を贈るよう言うんだよ。逆に、悪いヤツには悪戯をするように言う神様でなぁ……まっ、善行にせよ悪行にせよ、見てるヤツは見てるって話だ」
    「俺は、そんな……」
     豪快に笑う店主に言われ、アタルは戸惑う。自分が神から花を贈られるような、そんな大層な人物だとは思えなかったのだ。何かの手違いとしか考えられない。
    「アンタが必要ないって言うなら、誰か大事な人にでも贈ってやれよ」
     困惑しながら花を見つめるアタルに対して、店主は優しく声をかける。
    「一人くらい、兄さんにもいるだろう? 仲間とか家族とか恋人とか……守り神様から頂く花は『守り神の祝福』って呼ばれててよ、加護の力を宿す花なんだ。良いお守りになるぜ」
     彼の話を聞いていれば、アタルの脳裏を過ぎる、ある人の姿。自身が持つよりも、きっと似合う。
    「兄さん」
     店主に呼ばれて彼の方を見ると、優しく笑いながらコチラを見ている。
    「会いに行ってやれよ。アンタ、今すごく良い顔してるぜ」
    「だが……」
     あまり向けられた事のない優しい眼差しに居心地の悪さを感じて、思わず渋い顔をしてしまう。
    「理由が欲しいってんなら、その花のせいにしちまえ。どうせ『花がアナタを選んだ』みたいな事を言われたんだろ?」
    「何故それを?」
     今もって戸惑うアタルに、店主は苦笑した。
    「その花をもらった奴らは、みんなそう言って渡されるんだ。けど自分はそんな大層じゃないって、言い張る奴らが多いんだよ。だから自分が不相応だと感じるなら、自分が考える相応しい人に届けてやれって、俺も含めた地元の連中は言ってんだ」
    「よくある事なのか……」
    「ああ。祭事の時期になると神さんも浮かれるらしくてな、よく見かけるぜ。だからこの生誕祭も『雪の花祭り』なんて別名が付くくらいだ」
     難しく考えなくても良いと言う店主は、暖かな目をしている。それはまるで、何かを誇るようだった。
     その眼差しの意味を、アタルは知っていた。幼い頃、沢山の人から向けられたから。けれど、それが嫌いで堪らなくて逃げ出した。
     期待の目を向ける癖に、誰もが冷たく手を差し伸べてくれない。結局は耐えきれなくて全てを放り出して、だから今更どうしようもない話だが。
    「アンタは選ばれたんだ。この星の神様に……アンタならキチンとその花を、あるべき場所に届けてくれるってよ」
     ただあの時と違ったのは、店主の眼差しに、ほんの少しの申し訳なさが含まれていた。
    「だがまぁ、兄さんにとっては降って湧いたような話だからなぁ。無理にそうする必要はないさ」
     やんちゃな子どもに手を焼いて、その子の願いを叶えてやりたいが、他人であるアタルに負担をかけさせる事もしたくない。そんな感情が読み取れた。
    「長話に付き合わせちまったな。俺の奢りだ、良かったら食べてくれよ」
     差し出されたのは、露店の商品であるアップルパイ。さりげない店主の気づかいが、知らぬ振りをし続ける心に訴えかける。

     あの時、お前が欲しかったのは……と。

     しかし自覚をしたところで、既に過ぎ去ってしまったいつかは、もう戻って来る事はない。今はもう、何もかもが終わった後だ。たらればを言ったところで過去は変わらない。
     けれど、例え別の形であったとしても、今更与えられたとしても、それでも良いと思える自分が居るのも事実だった。
     民に愛おしく思われる使いの少女と、この星の守り神は、素性の分からぬ男に対して自分達が一心に受け取った形なき思いを裾分けてくれた。
     こんな捻くれ者を動かすには、それだけあれば充分だ。
    「店主。頼みがあるのだが……」
    「ん?」
    「この菓子を、町の祭壇に供えて欲しい。今日の最終便に乗る為には、時間が足りなくてな……」
     手渡された菓子を、アタルは店主に返した。
    「ああ。そんくらい、お安い御用だ。道中は気をつけてな」
     驚いた表情をした店主だったが、直ぐに察した彼は菓子を受け取り、優しい笑みを浮かべてアタルを送り出す。
     振り返れば近くの露店の店員や地元民であろう人達が、慌ててアタルから視線を逸らしたり、愛想笑いをしたりする。
    「この星の守り神達は、皆にとても愛されているのだな」
     そんな事をポツリと言えば、彼は豪快に笑う。
    「おう、そうさ! だからよ、今日はアンタも良い一日になると思うぜ!」
     そんな店主の言葉を背に受け、アタルは急ぎ足で街を後にした。

     冬の街から贈る、加護の花。
     今宵、迷彩服の運び屋がアナタの下へお届けします。
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