素直じゃないとこも可愛くてよろしい(アタル・王妃) 人払いをした自室に、小百合は戻る。
パタンッと扉を閉めたと同時に軽く息を吐いたのは、ほとんど無意識に近かった。
(大勢の人に、お祝いされるのは嬉しいけれど……)
寄る年並みには敵わないのか、気疲れしてしまうのは否めなかった。
(偶には静かに一日を過ごしたいものね……)
王族であるため中々に難しいところはあるが、また昔のように家族でどこかに出かけて息抜きをしたいと思う。
しかし今は世代交代の最中でもあるため、自身も夫も息子夫婦も、それぞれで忙しい。
暫くは叶わないであろう願いに苦笑をしつつ部屋の奥へ進むと、ドレッサーの上に見覚えのない花が一輪置かれていた。
「?」
白い包装紙に赤いリボンが巻かれたシンプルなラッピング。そして、その中には一輪の桃色のスターチス。
「一体、誰が……」
ここは王族の私室である。城の中でも奥まった場所のため、侵入がしにくい。警備も厳重なので、誰にも気づかれずに行き来することは、並大抵の実力では不可能だ。
「……ふふふっ」
本来であれば、すぐにでも警備を呼ばなければならないのだが、なぜだか小百合は微笑んでいた。今の一瞬で脳裏を過った存在が、きっと犯人だろうと思ってしまったから。
それはもう理屈云々の話ではない。敢えて言うのであれば、母親としてのカン。みたいなものだろう。
不器用な彼が自ら進んでするとは思えない。もしかしたら、別の誰かかもしれない。
けれど、あの子だと信じたかった。きっと背中を押した存在がいるのだろう。
(あの子に、こんな素敵な入れ知恵をしたのは誰かしら……)
そう、思いたかった。
風の噂で、あの子が新たな組織を立ち上げると聞いた。もちろん便りはない。和解したとは言え、今までの事を思えば仕方のないことだろう。
元気でやっているなら、それでいいと思っていた。けれど気にしていないわけではない。
「組織が出来たら一度だけ、手紙を送ってみようかしら……」
返信は恐らくないだろう。あの子はそう言う子だ。むしろ今更なんだと迷惑になってしまうかもしれない。
ただ願わくば許してほしい。こんな素直じゃないことをされて、身勝手にも可愛いと思ってしまう母のことを。
部屋の窓辺に飾られた桃色のスターチス。
花言葉は、永遠に変わる事のない愛。