偽物 夜カジノへ出かける前、カトレアが甘えて「自分もカジノへ行って遊びたい」と言った時も、ただ別れの挨拶、お休みなさいと言って部屋に戻った時も、その晩ギーマはカジノを楽しむと同時に緑の瞳とブロンドの長い髪を持つ女性を探し、カジノの近くのホテルで一晩を共に過ごす。
カトレアの「偽物」を見つけたかのように、セックス中は時折我を忘れ「カトレア」、「お嬢様」の声を漏らす。それを聞いた偽物が良かれと思い唇を重ねようとするが、ギーマは手で偽物の唇を覆い拒む。
事が終わり身なりを整えながら、話しをしていると……、性欲がなくなったことで嫌気がさし煩わしさを覚えたが、礼儀正しい振る舞いと作り笑いは絶やさずにいる。
「あなたはもっと安らぎと愛を必要としてるみたい……、してる時、気持ちのこもったキスをしたらもっと満たされるはずよ!」
偽物は笑って甘えながらギーマの背中に抱きつき、懲りない唇は触れたことのない唇を探した。ギーマはまとわりつく肉体をすり抜けると、身体の向きを変えマフラーを巻いた。
「いいや、これで十分さ」
「本気で愛してあげたいって言ってるの!」
「いいんだ……、遊びなんだ、ただの遊びなんだ、君と違って…ね」ギーマは偽物に静かに微笑み、こう答えるとサイドテーブルに紙幣を置いた。
「今夜は付き合ってくれてありがとう、おやすみ」
「また遊んでよね!」
くすんで広がった黄土色の髪、艶のある柔らく流れるような金色のウェーブ、光のない少し血走った緑の瞳、純粋で穏やかで落ち着いた翡翠、安物のシャンプーの鼻につく香水の匂い、ほのかに甘いシャンプーと香水が合わさった香り、興奮するとやかましく耳障りな声、どんな感情も自制した淑やかで上品な語調……。
ギーマは偽物が彼女と似ても似つかないものであると分かっていながら、それでも触れることのできない本当の渇望をこの偽物に求めた。
性欲を発散させるのにどれほど昂り、激情後偽物にどれほど嫌悪抱き、自己嫌悪に陥っても、次の晩ただ大切にしたいと思うカトレアに会えば、また偽物を探し、自分の粗暴で卑劣な一面を引き受けてもらわねばならない。
「遊びじゃなければ、君が知らない私をどれだけ受け入れられるだろうね?」