慌てん坊サンタの欲しいもの。願うだけなら自由でしょう、そんな言葉をただ、自分の中でリフレインさせて書き綴る。
こんな我儘で臆病な私を、どうか許してほしい。
『サンタさんへ
─────の心が欲しいです。』
きっとこれは、いい子にしていても届くことのないプレゼントだ。
雪は降らない。
✿
クリスマス間近の寒い空。然し私の地元とは全く景色が違う。
理由は白がない事だ。
「今年は雪、降りませんかねぇ…。」
絶賛片恋中の彼女を隣に、いつもの部屋の窓から何も降りやしない空を覗いてただ一言零す。
ちら、と温もりが溜まったベッドの上でぺたりと座り、本を読んでいる彼女を一瞥する。
すれば、どうやら彼女は本ではなく私を見つめていたらしく、偶然にも視線が合う形になった。
(やっぱり可愛いなぁ…。)
可愛くて綺麗で、好きで仕方ない。
「ふふ、スペちゃんも雪、好き?」
「はい!皆で遊べるし、冷たくて寒いけど、綺麗でクリスマスって感じするじゃないですか!」
それに、真っ白い純粋な雪の中、楽しそうに走る貴女がみれるから。
…なんて言える訳もなく、それを抜いた素直な感想を述べた。
「そうね…雪はとっても綺麗で、キラキラしていて素敵よね。」
「キラキラ喋ってるスズカさんも素敵ですけどね!」
(危ない、口に出るところだった…。)
「へっ…?」
いつの間にか彼女の顔は真っ赤っか。
(あれ、出ちゃってた!?)
やってしまった。でも頬が赤くなってるってことは恥ずかしいってこと、だろう。
直ぐに恥ずかしがってしまう貴女も可愛い。
「スズカさん、」
(告白する勇気なんてないけど…)
「大好きですっ!」
「ぁ、うぇ!?ぅ、うん、ありがとう…。」
何かを考えながら、ただ真っ赤な頬を晒さないように両手で覆う彼女を見れば幸せだな、なんて思う。
でも、この幸せがもっと進めたら…。
いや、駄目だ駄目だ。
(…スズカさんは、友達。だから。)
そう、貴女は友達。
でもその手が私を掴んでくれたらな、なんて。
「スズカさんは、」
「…?」
「スズカさんは、私の事好きですか!」
二秒程の沈黙だろうか、彼女は何処か寂しそうに、哀しそうに笑みを零して言うのだ。
「ええ、私も大好き。」
(恋愛的な意味だったらなぁ…。)
友達、って意外と壁があったりするものなんだなと思えば、心に雪ではなく雨が降った。
✿
いつものメンバーでクリスマスパーティーのことについて話し合っていた。
…けど、何故か中々話が進まない。
…進む前に違う話題が降ってくる。
「スペはサンタに何頼むんだよ。アタシはマグロのマグロ添えだぜ!へいらっしゃい!」
「ゴールドシップは何を言っていますの…。」
「あはは…、私は…なんでしょう…欲しいもの…。」
「え、スペちゃん欲しいものないのっ!?意外〜!人参百本とか言うかと思ってたのに!」
「えぇっ!私の印象どうなってるんですか!?て、テイオーさんは何なんですか!」
「ボク?ボクはね〜、カイチョーのアクリルキ」
「べっつにいいでしょ!?アタシだって欲しいものくらいあるのよ!」
「別に否定はしてないだろ!?」
「ちょっとボクの話遮らないでよっ!?」
「だからマグロ添えの可能性は」
「それさっきもお聞きしましたわ!」
「あはは……。スズカさんは、何頼むんですか?」
話に追い付けずあわあわと慌てている彼女に話題を振る。
正直、彼女と約一年間付き合ってきたが何を頼むのかは全くもって分からない。
…新しい蹄鉄、とかだろうか。
「…私は…………、そうね…まだ決めていないわ。」
前のあの時のように、寂しい表情を見せてそう言った。
なぜ、そんな顔をするんだろう。
私はまだ全然彼女をしらない。
追い付けない。このまま彼女は、私よりも先を行くのかな。
「スペちゃんは…?」
「私、…私は、うぅん、」
今日私は、初めて彼女に嘘を吐いた。
「まだ決めてません!」
本当は、貴女が欲しいです。つきあいたい。貴女が好きです。
「ふふ、そう?スペちゃん、やっぱり人参ひゃっぽ」
「もうそのネタやめてくださいよっ!」
『〜あわてんぼうのサンタクロース〜クリスマス前に〜』
テレビの向こうから、聞きなれた歌が聞こえた。
✿
「スズカさん、」
話を終えて部屋に戻れば、変わらず雪が降らない外を眺めて彼女の名を呼んだ。
「どうしたの、すぺ、ちゃ」
何も降らない外に興味は示さない。ただ不意に、彼女に抱きついた。
暖かい。すき。この温もりは、私だけのものであって欲しい。
やっぱり駄目だなぁ。惚れた人にはやっぱり好きという気持ちを向けてしまう。
当たり前なのだけど、それを今回で実感した。
「寒いので、このままがいいです。」
寒いから、というのも理由に入るけれど、本当は彼女に抱きついていたいから。
彼女の体温を感じていたいから。
「ふふ、分かったわ。でも、ちょっと恥ずかしいかも…」
と、頬を赤く染めて目線を逸らされては駄目だった。
(好きでもない人に、そんな顔するなんて…狡いなぁ。)
「好きです!スズカさん!」
「私、も。好きよ、ふふ。」
返事はこない。返事はこない。
気付いていないから。
✿
「ただいまです〜!…あれ、」
扉を勢いよく開けても、おかえりは来ていなかった。
でも、椅子で姿勢を崩して、机に腕と頭を置いている彼女なら見つけた。
然し起きてはいない。きっと疲れたんだなぁ。
少しその様子を眺めていようと思ったけれど、彼女の机の上に何か紙が置いてあるのを発見した。
何か手紙でも書こうとしてたのかな、なんて少し覗いてみれば、手が、身体が、声が震えた。
「え、」
内容は、
『サンタさんへ
スペちゃんの心が欲しいです。』
なんて、こと、かいてあって。
何度も消した跡がみえた。大好きな、愛してる、可愛い、素敵な、そんな言葉が消しゴムによって消されていた。
けれど何度も書いたらしく、はっきりと残っている。
───スペちゃんの心が欲しいです。
すとんと心に落ちた。ただその一言が。
そんな、私の事好きなんですか、スズカさん、スズカさん。
嗚呼、好きだ。貴女のことが、好きです。
そんなのサンタさんに頼まなくても、私は、私は、とっくに。
外を覗く。
すれば白い雪が、降り始めた。
✿
今日はクリスマスイブの前日だ。雪はまだ積もらない。積もらない。
でも、きっともう少しで。
なんだか浮かれた気持ちだ。両想いだったなんてなぁ。スズカさん、今日の夜、サンタさんが来ますから。
✿
遂にクリスマス…と時が飛ぶことはなく、午後零時、クリスマスイブがやってきた。
既にサンタさんからのプレゼントを待ちすやすやと寝息を立てる彼女を見て、一つ覚悟を決めた。
(これじゃあ私がサンタさんみたいですね…。)
机の上で、私のサンタさんへのお手紙を書き綴る。
字は特別綺麗ではないけど、きっと私の想いだって伝わるはず。
まだイブなのに…、これではまるであわてんぼうのサンタクロースだなぁ。
…きっとサンタさんは、皆に早くプレゼントを渡したくて早く出ちゃったんだ。
そんなことを考えながら、彼女が用意した靴下にそれを入れた。
内容はこうだ。
『サンタさんへ
スズカさんの心が欲しいです。』