漫画の中の人間たちはみな、一人につきたった一つだけ愛を持って生まれてくる。紆余曲折を経たとしても、その愛を受け取れるのはまた世界にただ一人だけ。その明快さを、ニェンはそれなりに気に入っていた。
物事はなんだって分かりやすい方がいい。ペットたちのカーストも、お化け屋敷の注意書きも、道路標識も、ルールが目に見えて存在するというだけで心が安らいだ。形ないものは信じるしか方法がない。でもこの世界には嘘ばかりがあふれていて、真実なんてものは一握りのキャンディほどしか存在しないとニェンは考えている。揺らいでしまわないように、最終的に信じるのはご主人様と自分、あとは少しの音楽だけと決めていた。
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リビングに掃除機はやって来ない。
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