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    Kameiyafwon

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    るつかめ第二話(これだけでおわる)

    ##るつかめ

    最強の連休、ゴールデンウィークも終わった初夏の放課後。オレたちは未来を書き込む用紙を片手に、教室で屯っていた。
    「どうするんだい」
    「本当にな」
    用紙の頭にはデカデカと『進路調査票』と書かれている。類のものは氏名とその下も埋まっており、オレのものはまだ氏名しか埋まっていない。
    「意外だね」
    君はとっくに決めているものと思ったよ。
    腕を組んで少しだけつまらなさそうに言う類の言葉が、ぐさりと胸に刺さった。

    今までは妹の咲希が気がかりで、将来はとりあえず無難に進学しつつ独学で学ぼうと考えていた。その必要が無くなった、急に自由を手にしたのが、高校二年生の途中のことだ。急に拓けた視界に、ひとまずやれることをやってみせようじゃないかと息巻いて、オレは今ワンダーランズ×ショータイムに居る。
    もう次を考えないといけないのか。そう気づいたのは、三年生に上がってすぐだった。一年もしないうちに、もう次の進路を考えないといけないのか。ついこの間、高校の進学を決めたような感覚なのに。時間が思いの外早く進んでいることに驚いた。
    手元にある大学の資料を眺める。三年生になる時、担任の教師とした二社面談の際に渡されたものだ。それは文系であるオレのために文学部の大学をまとめたもので、学力としてもオレに適した大学ばかり列挙されている。
    「なあ、類は理系の大学に行くのだろう」
    「そうだね。舞台演出のためにもロボット工学を学びたいから」
    類の進路調査票には、名だたる大学の名前がいくつか記入されていた。
    たしかあれはフェニランではイースターイベントの期間だったか。配布用の玉子を塗りながら会話した記憶がある。どこも東京の大学で、どこも有名な大学教授が居ると聞いた。その大学のいくつかには、オレが興味ありそうな学科もあるよ、と誘われたりもした。なんなら同棲しようとまで。その時は恥ずかしくて、何馬鹿なことを言っていると一蹴もしたが。
    夢のために、類はもう決めている。その事実が、オレの胸に重くのしかかる。
    オレと類は、二人三脚。えむと寧々もあわせて四人五脚。いつまでも、あの遊園地のショーを続けたいだなんて、甘いことを考えいるのではないかと。どこかで同じような考えなのだと思っていた。
    「……」
    ペンを一度、机に置く。
    「なあ類。オレはどうしたらいいと思う」
    「え?」
    「オレは今のままがいい」
    そう、今のままがいい。
    あのボロいけど懐かしさとワクワクをくれるあのステージで、四人と類の作ったロボットたちでいつまでも。甘い夢の中で、覚めない夢を見ているような時間を。
    「司くん」
    「なんだ……」
    「君は何と迷っているんだい」
    「何」
    何とは、はて。
    進路のことだが、とは言えなかった。声音はいつもの優しいままなのに、類の顔がとてつもなく怒っていたからだ。
    「落ち着いて。君には確かに無限の選択肢があるよ。でも、君はスターになるんだよね。今の続きを見たいんだよね。そのためには僕が必要だとも言っていたよね」
    「あ、ああ。そうだ」
    今の続きを、ワンダーランズ×ショータイムの続きが見たい。行き着く果てを見たい。その先で見られるであろう、みんなの眩い笑顔を見たい。類の手で作られた演出に、オレが応えたい。
    首を一回、縦に動かす。類はそれを見て、ようやく表情を柔らかくした。
    「じゃあ、まずは専門学校か大学かくらいは決めておいたほうがいいんじゃないかな」
    それでも、やはり少し怒っているというか。やや投げやりのように聞こえる。
    正直に言うと、今は目の前の進路調査票より類の機嫌のほうが気になって仕方ない。
    「類、怒っているだろ」
    「そうだね」
    「うっ……な、何に怒っているんだ一体……」
    皆目見当もつかない。類の不機嫌はそんなにあることではないから、余計に萎縮してしまう。
    類は組んでいた腕を解くと、次は頬杖に切り替えた。何をやっても様になるのだから、こいつはずるい。
    「わすれんぼだねぇ」
    「やめろ撫でるな恥ずかしいわ!」
    わさりわさりと乱雑に撫でてくる大きな手は優しい。これはあれだ、類の計算外のことをオレが連発したときの照れ隠しだとか、何か誤魔化そうとしているときの動きだ。
    そういえば前に一緒の大学に行こうだとか言っていた時も、最後は撫でて冗談だよとか言って──……
    「あ」
    「ん?」
    「類、一緒の大学に行きたいのか」
    「へ」
    ぼんっ。類の顔から煙が出る。いや比喩表現だが。でも確かにそのくらい顔を真っ赤にした。
    これは当たりだ。
    「前に文学部で脚本を突き詰めたり、芸術学部もあるところで舞台演技を学んだりも出来ると言っていたのは下心ありきだったんだな。ああ、もしかしてそれに気づいていないオレに腹を立てていたな?」
    「だ、あっ、そうだけどッ!今言うことないだろう!」
    「ハッハッハッ!図星か、そうかそうか!」
    真っ赤になって焦る類は、どことなく年下の誰かを思い出す。普段の余裕あるところからは想像できないくらい、可愛らしいものだ。
    きっと類のことだ、オレと一緒の大学に行くとただの憧れなどではなく、確固たる決定事項で当たり前のことだと認識していたのだろう。だからオレに『二人で行くこと前提』で候補に入れた大学の話を振っていた。だが、オレがどうしようかと悩んでしまったから、ブチ切れてしまった。
    ああ、なんと可愛いことか。俺の恋人は演出においては完璧なのに、劇じゃない演出は時々下手っぴなのだ。ことオレに関しては尚更。
    「仕方ないな」
    上から、類と同じ大学名を同じ順番で記入する。
    「類、お前が焚き付けたんだ。しっかりこの学校のことを教えてもらうからな」
    にやり。
    いつぞやの脚本でやったヴィランスマイルを形作れば、類はそれはもう嬉しくて嬉しくてたまらないといった表情を浮かべた。
    「勿論だとも!」
    ああ、オレはこの笑顔を見るためにスターにならねばいけないな。いつまでも、類が笑っていられるように。
    こいつは何故だか迷子になりがちだからな。いつまでも明るく照らしてやらないと方角を見失ってしまうだろう。そうならないように、オレがこいつの北極星になってやらねば。
    強く拳を握って、オレはそう決意した。
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