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    fuyutsugu

    @fuyutsugu3

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    fuyutsugu

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    マイばじワンドロライ「天使」
    息を吸うように生存if、18歳になった場地が別の場所へ飛んで行ってしまうのを恐れたマイキーの執着。付き合ってません。
    タップ推奨です。

    手折りがいのあるふたつの骨 人間の骨なら、幾度も折ったことがある。
     男の背を眺めながら、そう思った。


    「っ、……う、っ、……はぁ、は――」
     地元から少し離れた、寂れたホテルの一室。
     照明を落としたベッドの上に、場地はどさりと倒れ込んだ。うつ伏せになり肩で息をしている男は、無惨なシーツを更にぐちゃぐちゃにしながら薄っぺらい枕に縋り付いている。足を大きく開いた股座から、吐き出したばかりの白濁が零れ落ちるのが見えた。その光景は堪らなく煽情的で、また腹の奥が熱を持ってしまう。久しぶりの逢瀬、抵抗しない男を際限なく揺さぶったばかりだというのに。
    「ぐえ~~……もう、当分セックスはいいわ……」
     体力が尽きた場地のギブアップ宣言に、マイキーは小さく唇を尖らせた。
    「足りねえんだけど」
    「マジ?こんだけ好き勝手しといてか?お前みたいなのゼツリンって言うらしいぜ」
     ゲホ、と苦しそうに咽た拍子に、場地の背筋が強張った。尖った肩甲骨がぐぐっと張り出して奇妙な形を作る。真っ白な身体は十八を迎えた今も骨と皮ばかりで、そこへしがみつく薄い筋肉が妙に目立っていた。腰のあたり、こびり付いたケロイドはいつ見ても不快だ。腹の傷は、もっと。
    「場地ぃ、病院行ってる?」
    「あ?もう行ってねえよ。何年経ったと思ってんだ」
    「……そっか」
     枕に突っ伏していた顔を上げ、場地は不思議そうにこちらを見た。
    「何嬉しそうな顔してんだよ」
    「んー。場地に会えたから?」
    「適当なことぬかしてんじゃねえ」
    「……でも実際、会うの久しぶりじゃんか」
     あれから四年――東京卍會は勢力を拡大し、関東一を誇るチームとなっている。しかし世間が呼ぶところの血のハロウィンで瀕死の重傷を負った場地は、退院後も長期的な治療が必要で、戦線離脱を余儀なくされてしまった。そして今の自分では戦力になれないからと、驚くほど呆気なく壱番隊隊長を辞してしまったのだ。
     残ってくれと周りがいくら説得しても、男は頑として譲らなかった。もう既に皆の知るところだが、場地は一度こうと決めたら視野が極端に狭くなる。生来の馬鹿なのだ。そして恐ろしいほど真っすぐな男。勢い余って東卍すら抜けようとしていた場地を説得したのは、意外にもパーちんだった。二人で何を話したか知らないが、場地は壱番隊の末端に名前を残すことだけは了承してくれた。
     実際、回復後のリハビリは相当過酷だったらしい。数か月のあいだ管に繋がれた生活を経て、筋肉も体力も落ちに落ちてしまっていた。しかし場地は持ち前の負けん気と強靭な精神力でそれに耐え切った。後から聞いた話では、大きな後遺症が残らずこうして以前と近い生活が送れているのは奇跡だという。だがやはり内臓の損傷は完璧に元通りとはいかず、以前のように己を顧みない喧嘩はできなくなってしまった。
     そうして日々の糧を無くし時間の余った場地は今、驚くことに――高校生をしている。
    「あの時は、場地でも受かる高校があるなんて思わなかったなー」
    「名前書けりゃオッケーだからよ、うちのガッコ」
    「ふーん、やっぱ俺も一緒に通えばよかった」
     毎日真面目に学校へ通う場地と今のマイキーでは、生活リズムが全く合わない。場地は規則正しい毎日を送っているし、東卍の集会があれば時折顔を出すものの、口を開くことなく端の方で話だけを聞き、会が終わると声を掛ける間もなく帰ってしまうのだ。曰く、明日も学校があるから――と。一度死にかけた場地の目標は、何とか高校を卒業して母を安心させることだという。それを邪魔できる人間は、この男の周りには存在しなかった。

    「お前には、やることがあんだろ」
     両腕に顎を乗せてこちらを見る場地は、軽々しくそんなことを言う。そう言われるたび、マイキーは無性に苛立ってしまうのだ。
     東京卍會はまさに今、時代を創っているところだ。本来ならば、そこに場地もいるはずだった。この男には執着というものがない。仲間を大切だと思うしそれに命も賭けられるが、肝心なところが抜け落ちている。チームのため仲間のためと言い、簡単に全てを手放してしまう。それでどの口が大切だなどと言うのか。こいつは呆れるほど自分勝手で、誰よりも薄情な奴なのだ。
     場地は知らない。自分が必要とされ、皆に愛されていることを。身体がついていかず無茶な喧嘩ができなくなっても、その鋭い視線がそこにあるだけで隊の士気は何倍にも膨れ上がるのに。いや、誰よりも――佐野万次郎の士気が。

    「お前がいないトーマンに慣れねえ」
     ぶすくれてそう告げると、場地の鋭い八重歯が零れ落ちた。
    「はっ、何年経ってると思ってんだよ」
    「……慣れねえモンは慣れねえんだ」
    「そうかよ」
     場地は鼻を鳴らすと、うつ伏せのまま腕を伸ばして背中を掻いた。また白い背からふたつの三角が盛り上がる。翼を想起させるその骨が動くたび、どうしてかチリチリとマイキーの胸を焼いていく気がした。行く当てのない焦燥。場地に会うたび、それは膨れ上がっていく。

    「なあ、場地。そろそろ戻って来いよ」

     ずっと抱いていた想いを、半ば自棄になって吐き出した。すると場地は微かに息を飲んだようだった。

    「……何言ってんだよ、マイキー」
    「来年の春、高校卒業してからでいい。俺を支えてくれ」
    「ドラケンがいるだろ」
    「ケンチンは副総長として俺とトーマンを支えてくれてる。場地には俺だけを見て、俺だけを支えて欲しい」
    「……は?何を――」
    「お前が側にいないと駄目なんだ」
     場地はいつもと温度の違う言葉に驚いたようで、腕を付いて半身を起こした。目の前で、また三角の骨が動く。
     洞を思わせる深い瞳が、真意を推し量るようにじっとこちらを見つめていた。負けじと見返したけれど、この縋りつきたくなるほどの切実さが伝わったかはわからなかった。

    「……マイキー、俺――」
     その声音に良くないものを感じ取り、思わず遮るように声を上げた。
    「聞きたくねえ。高校通って真っ当な道歩こうとしてるのに、悪いとは思う。だけど俺にはお前じゃないと駄目だって、ようやくわかったんだ」
     猫のような場地の目が、困惑に揺れていた。
    「これまで通り、時々会って抱くんじゃ駄目なのかよ。こんなことさせるの、お前にだけだぜ」
    「それだけじゃ駄目だ。とても足りねえ」
    「マイキー……?」
     こうなったら仕方ないと、秘密を打ち明けるように口を開いた。緊張から乾いた唇を、舌で湿らせる。
    「……昔から、喧嘩してると目の前が真っ暗になることがある」
    「真っ暗に?」
    「止められねえ怒りが全身に広がって、暴力を振るうことしか考えられなくなるんだ。昔はそこまで酷いモンじゃなかったのに、場地がいなくなってからおかしくなっちまった。最近じゃあそれで何人も殺しそうになって、そのたび誰かに止められる。止めに入ったそいつを殴っちまうこともあって――」
    「何だと?お前がか?」
    「ああ。こんなこと誰にも言わねえけど、最近はみんなおかしいと気付き始めてると思う。俺は――怖いんだ。自分が自分じゃなくなっちまうみたいで」
     怖いだなんて、生まれてこの方口にしたことがない。その言葉を聞いて勢いよく起き上がった場地は、顔を強張らせたままシーツの上に胡坐をかいた。お互い全裸だったが、それを気にするような間柄じゃない。縋るように、両膝に置かれた場地の手を握った。
    「頼むよ。お前が側にいてくれたら、黒い靄が晴れて息がしやすくなるんだ」
    「おいマイキー、俺なんかで、本当に――?」
    「ああ、場地だからだ。場地じゃなきゃ駄目だ」
     場地はとてもわかりやすく狼狽えていた。この男の弱点は、一度懐に入れた相手を一生切り捨てられないところだと思う。まさに、命が尽きるまで。
     駄目押し、とばかりに至近距離でその瞳を覗き込んだ。場地の目には、弱々しい仔犬にでも映っていたらいいと思う。
     場地は思考を巡らせるように動きを止め、少しして小さく息を吐いた。

    「――わかった」

     勝った、と思った。

    「ほんとか?戻って来てくれるのか?」
    「ああ、そういうことじゃ仕方ねえ。だが今の俺はマジで役立たずだぞ」
    「身体のことは勿論わかってる、ああ――場地……!」
     全身を駆け抜ける悦びに任せて、目の前の胸に飛び込んだ。その薄い身体に両腕を搦めて掻き抱けば、場地は「いてえよ」と困ったように笑う。
    「すげえ嬉しい!ありがとな、場地ぃ!」
    「だぁ、もう、はしゃぐなって……!」
     場地の背に腕を回し、ぎゅうぎゅうと抱き締める。場地の肩口に額を擦りつけながら、半ば無意識に手のひらを這わせ、探り当てた肩甲骨を指先でなぞった。
    「そこ、触んな。むず痒い」
     形を確かめるように撫でていると、場地は擽ったそうに身を捩る。
    「なあ。この骨、人間が天使だった頃の名残りだって知ってる?」
     そう言うと、耳のすぐ脇で素っ頓狂な声が上がった。
    「はあ?いきなり何ファンタジーなこと言ってんだよ」
    「子供の頃、エマが何かで読んだって。いつかそこからまた翼が生えて、飛べるようになるんだってさ」
     顔を上げると、場地は胡散臭げに頬を歪ませていた。全く信じていないらしいその表情に、思わず吹き出してしまう。
    「復帰までにもっと肉つけろよ、場地」
     脈絡も無くそう言えば、男はうんざりとした様子で鼻に皺を寄せた。
    「知ってんだろ、食っても太れねえんだよ。そーゆー体質」
    「いや、太ってもらわなきゃ困るぜ。簡単には飛んでいけねえくらいにな」
    「……お前、頭大丈夫かよ」
     べし、と後頭部を叩かれ、嬉しくて目の前の唇に噛み付いた。
     来年の春になれば、数か月に一度の逢瀬に焦がれることもなくなる。フラストレーションを持て余して余裕を無くすことも、場地を取り巻く全てに嫉妬を覚えることもなくなるのだ。場地が己の知らない空間で知らない人間に囲まれているという焦燥がなくなれば、この揺らぎっぱなしの精神もまともになるだろうと思えた。
     また、場地と飽きるほど共に過ごせる。子供の頃から一緒にいた幼馴染。大切な、無くてはならない唯一無二。

    「ああ――もう、離してやれねえな」

     口の中で噛み殺した言葉が愛しい男の耳に届くことはなかった。
     勝手に天国なんて行かせない。新たな場所へ旅立つのも許さない。
     いつかこの男に翼が戻りどこかへ飛び立とうというならば、迷わずその羽根をへし折るだろう。人間の骨を折るのは慣れているし、天使の翼だって大差ないはずだ。
     
     そう、きっと――うまくやれる。この男をここに縛るためならば。
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