酒のせい B級映画はアクションに限る。退屈さがいくばくか紛れるからだ。
スタッフロールの細々した文字の並びに、大きく伸びをした。休日前夜はこうして映画を見るのがオレと虎斗の習慣になっていた。部屋を暗くして、酒とツマミを広げて、二人で一つの毛布をかぶって。オレの部屋のソファベッドは寄り添うのにちょうどいい。
「眠いか?」
「いえ」
オレが大きなあくびをしている間に、虎斗も小さなあくびを噛み殺しているのが見えた。隠さなくてもいいのに、何を遠慮してるんだか。
「先輩は」
「いーや別に。でももう寝るか」
「え、あ」
「疲れたろ」
オレにもたれかかる体温が随分とあたたかいように感じた。やっぱり眠いんじゃないのか。テレビを消して、机の上を簡単に片づける。
「……あの」
「なに」
「……酔い、ました」
「……オマエそんな飲んでたか?」
虎斗はそんなに好んで酒を飲まない。グラスを見てもコーラに氷が溶けているだけだ。
「先輩の、ちょっともらったんで」
「ウイスキー飲めないだろオマエ」
「だから、酔ったんです」
く、と腕を引かれる。いつもより少し頑固なその口ぶりがおかしくて顔を覗き込むと、頬が赤らんでいた。はて、本当に酔ったのか。
「……先輩」
虎斗から誘うなんて珍しい。ゆっくりと唇を重ねる。しかし、その吐息にアルコールは感じなかった。虎斗の頬を摘まんで離す。
「何で嘘つくんだよ」
「……酔ってるんです」
そう言って虎斗は俺に覆いかぶさった。毛布が肩からずるりと落ちる。
「……酒のせいっすから」
再び交わすキスの合間に、笑いが零れ落ちる。酒のせいにでもしなきゃ恥ずかしいんだろう。頭を引き寄せながら、舌で唇をなぞった。
「じゃあ、起きたら何にも覚えてないな」
「……かもしれません」
「つまり、何でもしていいってワケだ」
虎斗は一瞬固まり、視線を左右に泳がせた後、小さな声で
「そうかもしれないっす」
と呟いた。
「酒のせいです」
「ハイハイ」
服の下に手を差し入れれば、緊張が肌から伝わってきた。本当に誘い方が下手なヤツ。
「オレとキスしてたら、本当に酔うんじゃねーか」
「……じゃあ」
オレの舌からアルコールを吸えばいい。不器用に近づいてくる唇を受け止めながら、今日見た映画を思い出す。ラブシーンはどんなだったか。随分チープだった気がするが、記憶に残っていないならその程度のものだったんだろう。
きっと、オレ達の方が、今宵に似合ったキスをしている。