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    komaki_etc

    波箱
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    北村Pの漣タケ狂い

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    鍋の具材を喧嘩する漣タケ

    お鍋 今夜は鍋にするから買い出しに付き合え、と無理やりコイツを連れてきたのが間違いだった。
     鮭が安かったから、石狩鍋にするのもいいな、と思ってカゴに入れようとした。味噌仕立ての、タンパク質たっぷりの鍋だ。ボクサー時代に先輩から教えてもらった。ここのところ、鍋と言えば水炊きかキムチばかりだったから、趣向を変えるのもいいと思った。のに。
    「オイ! 何サカナなんか買おうとしてんだ! 肉買え肉!」
     それを目ざとく見つけたアイツが耳元で吠える。タイムセールの時間を避けてきたから人は多くないけれど、それでもスーパーで大きな声を出して注目を浴びるのは勘弁だ。アイドルが鮮魚コーナーで喧嘩、だなんて見出しで週刊誌に載りたくない。
    「うるさい、金を払うのは俺なんだ。たまには魚の鍋にしたっていいだろ」
    「鍋っつったら肉だろーが」
     ああもう、どうせ作れば何だって食べる癖に。連れてきたのは俺の責任だ、ここで説き伏せなければならない。
    「味噌の鍋だぞ、濃厚でうまいんだぞ」
    「オレ様は肉の気分なんだよ。ホーレンソーと肉だけのヤツ、アレにしろ」
    「常夜鍋のことか?オマエが肉ばっか食うから金がかかるんだよ。ほうれん草だって今高いんだ」
    「チビが今日鍋にするって言ったんじゃねーか、鍋っていったら肉だ」
    「ああもう……」
     ああ言えばこう言う。食って黙らせる他ないのだから、結局俺は鮭を買う。
    「まずかったらショーチしねーからな」
    「食べてから言え」
     白菜と豆腐をカゴへ突っ込みながら、アイツがブツブツいうのをかわす。見てろ、絶対に美味いって言わせてやる。
     レジで会計しながら、いつもより多めに飯を炊こうと考える。どうせコイツはぺろりと平らげる。彼の口から「うめえ」と聞ければそれでいい。そこに感謝がなくっても、彼が健康であれと願う。
    「ホラ、帰るぞ」
     荷物をそれぞれ持ち、同じ家に帰り、同じ鍋を食う。小さな満たされた日常の中で、鍋の具材がいつもと違うことくらい、きっと些細な差だ。彼の鍋の選択肢のなかに、今夜の鍋が新しく追加されますように。さてと、腕によりをかけるとするか。
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    kurautu

    DONE一週間ドロライさんよりお題「クリスマス」お借りしました!
    雨とクリスマス 初めての恋にあたふたしてほしい
    雨は 冷たい雨が凍りついて、白く儚い雪へと変わる。そんなことは都合よく起きなかった。僕はコンビニの狭い屋根の下で、雑誌コーナーを背中に貼り付けながら落ちてくる雨を見上げていた。
     初めてのクリスマスだ。雨彦さんと僕がいわゆる恋人同士という関係になってから。だからといって浮かれるつもりなんてなかったけれど、なんとなく僕たちは今日の夜に会う約束をしたし、他の予定で上書きをする事もなかった。少しだけ先に仕事が終わった僕はこうして雨彦さんを待っている。寒空の下で。空いた手をポケットへと入れた。手袋は昨日着たコートのポケットの中で留守番をしている。
     傘を差して、街路樹に取り付けられたささやかなイルミネーションの下を通り過ぎていく人たちは、この日のために用意したのかもしれないコートやマフラーで着飾っていた。雨を避けている僕よりもずっと暖かそうに見えた。視線を僕の足元へと移すと、いつものスニーカーが目に映る。僕たちがこれから行こうとしているのは、雨彦さんお気に入りの和食屋さんだ。クリスマスらしくたまには洋食もいいかもしれない、なんて昨日までは考えていたけれど、冬の雨の冷たさの前には温かいうどんや熱々のおでんの方が魅力的に思えてしまったのだから仕方がない。
    1915