シーグラス 三人で海に来たら、それはもうあっという間に、それぞれが別行動をする。クリスさんは海の中へ、雨彦さんはどこかへふらふら、そういう僕も浜辺をうろうろ。波の音だけが僕らを繋いでいる。
ふと、足元にコツンと何かが当たる。太陽の光をきらきらと柔らかく反射するそれは、貝殻でも珊瑚でもない。拾い上げてみれば、曇ったガラスの欠けら。いわゆるシーグラスだ。緑色の小さな輝きを拾い上げて、太陽に翳してみる。ここに辿り着くまで、どれだけの冒険をしてきたのだろう。僕が名前を知らないどこかの沖で、昔々の海賊が宴会中に放り投げた酒瓶だったら、浪漫がある。それとも案外、この浜辺でうっかり瓶を割っちゃっただけだったりして。くすくす、と込み上げる笑いを波の音に乗せていると、「綺麗だな」と雨彦さんが近付いてきた。
「汚れ、はもういいんですかー?」
「ああ。ここの海は澄んでる」
雨彦さんは僕の手の中を覗き込んで、眩しそうに微笑んだ。
「お掃除の人としては、ゴミなんじゃないんですかー?」
「浜辺の清掃を仕事として依頼されてたら、そうだったかもな」
今は違うさ、と笑い、僕からシーグラスを受け取る。空へ伸ばした腕は、僕よりずっと太陽に近い。
「人によってはゴミ、人によっては宝物、ってか」
「輝きの、重さは人に、よりにけり。……僕、持って帰ろうかなー」
「ほう、珍しいな」
「海の浪漫を家に飾っておけるなんて、ちょっと特別でしょー?」
「何だか古論が言いそうなセリフだ」
もう一度、今度は二人でくすくす笑う。広い広い海の前で、ちっぽけな人間がふたり、笑っている。
海の方から、クリスさんが僕たちを呼ぶ声が聞こえる。雨彦さんがそれに応えるのを、僕は目を瞑って聞いていた。
波の音が込められたガラスの欠けらは、きらきらと柔らかく光っている。