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    kanagana1030

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    kanagana1030

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    同居中のまだ春趙になっていない春日くんと趙さんの話。

    下着の話。「春日くん、俺のパンツ履いてない?」
     午後になってやっと起きてきた同居人からそう声をかけられて、春日は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
     趙とはルームシェアという形で一緒に暮らし始め、しばらくしてから身体の関係だけが出来た。最初はお互い、酔っ払って前後不覚になったところで起きた事故な出来事だったが、二回目は酒も入っておらず、春日の意識もはっきりしていた時に趙から誘われて、なし崩し的に今の関係になった。多い時には週に二、三回。しない時は平気で二週間ほど間が空いたりする曖昧な関係だ。
     春日は趙のことが好きだった。なので、出来れば身体だけでなく気持ちも繋げたいと思っていたが、趙の方にはまるでそんなそぶりはなく、いつも欲求だけ満たせればそれで十分といった顔で春日を誘うのだった。
     昨夜も夜に映画を観ながら二人で飲んでいたら、自然とそういう雰囲気になって、趙の部屋に移動して、事に及んだ。久しぶりの情事で、春日にとっては重ねる趙の肌が愛おしくて、愛おしくて、最中に何度も自分の本当の気持ちを口にしそうになっては堪えた。
     事後は、春日は自分の部屋に戻って朝には起きたが、趙は疲れていたのか昼過ぎまで起きてくる様子がなく、やっと起きてきた趙からかけられた言葉がそれだった。
    「は、履けねぇだろ、そんなもんっ」
    「ええ~、履けるでしょ。俺たち、ほとんど体格変わんないじゃん」
     趙が寄ってきて、春日のスウェットの腰回りに指をかけた。下着を覗き込まれて、「ほらぁ、俺の履いてる」と責めるような声をあげられる。
    「えっ、嘘だろ」
     確かに昨夜は暗闇の中で下着を身に着けて、自室に戻った。そして、言われてみれば入浴後に履いた下着と今自分が履いている下着が違う気がしなくはないが、趙の下着を自分が同じように履けるというのは何とも解せない。
    「何で俺がお前の下着を履けんだよっ」
    「だから、サイズがほぼ一緒なんだって」
    「趙の方がほせぇだろ」
    「細くないし、第一、下着のサイズなんてそんなに細かく変わらないからね」
    「マジか……」
     趙の下着を自分が難なく履けるというのも驚きだったが、趙の下着を履いたのに気が付かず、今の今まで過ごしてしまっていた自分にもショックを受ける。趙への好意が無意識の行動に表れてしまったようで急に恥ずかしくなった。
    「す、すまねぇ。すぐに脱いで洗濯するからよ」
     そう、ソファから立ち上がろうとすると春日の腰を趙の腕が掴んだ。
    「いいよ。俺も今、春日くんのパンツ、借りて履いてるし」
    「えっ? そうなのか?」
    「だって、部屋に他に下着なかったし」
    「そ、そうか」
     春日が再びソファに腰を下ろすと、趙が春日の腰を抱いたまま、春日の腿を枕にしてソファに横になった。そうして、眠そうな様子で大きな欠伸を一つする。今は自分が趙の、趙が自分のお互いの下着を身に着けているのだと思ったら、なんだかまるで恋人同士みたいじゃないかと気持ちがソワソワとした。
    「眠いのか?」
    「うーん、そうだねぇ」
     今は固められていない黒髪に手を当てて、ゆっくりと撫でると気持ちよさそうに目を閉じるのが可愛い。でも、その眠そうな様子に昨夜のことを思い出した。
     趙は、いつも事が終わった後すぐに春日から身体を離してシャワーに行ってしまうのだが、昨日は終わった後も起き上がらずに裸でこちらの身体に寄り添ったままだった。春日としては、いつものように趙がすぐにいなくなってしまわない事が嬉しくて、もしかしたら、もう一度……などと思って「シャワーに行かねぇのか?」と聞いたりしたが、趙は怠そうに「今日はいいや」と答えるだけで動かずにいて……もしかしたら……。
    「昨日、無理させちまったか?」
    「無理?」
     趙が瞼を開けて、少し苛立ったように目を細めた。
    「昨日は一回しかしてないじゃん。春日くん、すぐ部屋に戻っちゃうし……あんまり溜まってなかった?」
    「えっ、いや、そんな事ねぇが……」
     昨夜は事後の趙の様子にいつものようにシャワーにも行けないほどに疲れているのかと思ったし、春日がもう少し一緒にいたいといつまでもベッドでダラダラとしていて、趙に気持ちを見透かされたり、迷惑がられたりするのが怖かった。なので、趙の返事を聞いた後は、慌てて部屋に戻ったのだが……。
    「あのさ、春日くんに大事な人が出来たら、ちゃんと言ってね。そしたら、俺も春日くん以外のやつ探すしさ」
     趙がなんでもない事のようにそんなことを言い出して、春日は慌てて膝の上の趙の顔を覗き込んだ。
    「はぁ? な、なんで、そんな話になんだよ」
     趙が他の奴となんて考えたくもない。そんな可能性を突きつけられるだけで、胸が苦しくてどうにかなりそうなことだった。
    「だってほら、春日くんに相手が出来たってのに気がつかないまま続けるのとか申し訳ないじゃん。それだけの話だよ」
    「だ、大事なやつなんて出来ねぇよ」
     お前以外に! 頭の中で大きく付け加えながらもこの思いを口には出来ないのがもどかしい。
    「いや、別に今はいないならいいんだけどね……何、怒ってんの?」
    「お、怒ってなんかいねぇ」
    「顔、怖いよ」
    「こりゃあ、元々だっ」
     趙がこちらの気持ちを伺うように見上げているのが分かる。分かりすぎる動揺をしてしまったかと後悔していると、趙の声が小さく続けた。
    「春日くん、俺に他のやつと寝て欲しくない?」
    「へ?」
     趙の問いに、一瞬、心の声が外に漏れてたのかと思う。が、そんなことはなかったはずと思い返して、こちらを見上げる趙の顔を見下ろした。
    「……ほ、欲しくないって言ったら、そうしてくれんのかよ」
    「それは春日くん次第かな」
    「俺次第って?」
     よっと勢いをつけて、趙が春日の膝から身を起こした。こちらに背を向ける趙に、不用意に深追いしすぎたかと自分の発言を後悔し始めた頃、趙がゆっくりとこちらを振り返った。
    「あのさ、昨日、春日くん、最中にすげぇ好き好きって言ってくるからさ」
    「はぁ?」
     堪えたはずの言葉が口から漏れて、あろうことか趙に届いていたらしいと知って、しまったと全身から血が引いていく。趙はそんな春日の表情を伺うように見ながら続けた。
    「それなのに終わったらすぐにいなくなっちゃうから、別のやつのこと思って、俺としてたのかなぁとか考えてたんだけど、そうじゃないなら……」
     そうじゃないなら? 趙の顔を見返して、その耳が赤いことに気が付き、心臓が音を立てて鳴り出す。趙が自分を真っ直ぐな目で自分を見ている。自分の勘違いでないとしたなら、そんな目をしている理由は……。
    「春日くん、俺のこと好きなの?」
     聞いてきたその頬に手を伸ばす。趙は春日の手を避けようとはせず、その手に摺り寄せるように頬を寄せた。胸に熱い塊が迫り上がってきて、その熱さに泣きそうな気持ちになる。
    「趙が好きだ。ずっと、趙も俺のこと、好きにならねぇかなと思ってた」
     春日の告白に、趙が熱っぽい目をして顔を寄せてきた。その唇が春日のものに柔らかく重なって、趙の腕が首に回ってぎゅっと抱きつかれる。
    「……そんなこと、俺だってずっと思ってたよ」
     趙の身体を抱きとめて、その口づけに答えながらも信じられない気持ちでいると、唇が離れ、趙の声が蠱惑的に春日の耳をくすぐった。
    「ね、パンツ、改めて交換しようか?」
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