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    kanagana1030

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    kanagana1030

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    ずっと書いていた春趙の期待外れの温泉旅行の最後です。支部にまとめたのをあげてあるので、最初から読んでくださる方は支部からよろしくお願いします。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20397686

    #春趙
    springZhao

    期待外れの温泉旅行⑥「何がだよ」
    「なんかこのまましたら、すごい思い知らされそう」
    「いいじゃねぇか。俺の思いを思い知ってくれよ」
     言葉で伝わらないなら行動で、と思う。趙の首筋から喉元に唇を当て、さきほど趙がしてくれたみたいに強く吸い付く。腕の中の趙が身体をよじって、何故か、春日の唇から逃れようとする。
    「何だよ」
     逃げる趙に不満を漏らすと、趙は顔を真っ赤にして春日のことを見上げていた。
    「今度は俺がタンマ。ちょっと待って」
    「嫌だったのか?」
    「い、嫌じゃないんだけど……なんか……ドキドキしてきちゃった」
     何をいまさらと思う。さっきから、自分の心臓は高鳴り過ぎて壊れそうなほどだ。
    「それなら俺もしてる。お互い様だろ」
    「……だって、春日くんのは違うだろ」
    「何が違うんだよ」
    「何って……」
     覗き込んだ趙の目の奥が不確かなものを定めようとするかのように揺れる。そのことでまだ自分の気持ちを信じてくれていないのかと思う。
    「趙のことが好きだ。趙は俺の言葉が信じられねぇのか?」
    「……その言い方はずるいよ、春日くん」
     俺が君の言葉を信じないわけないじゃん、と観念したというように趙が春日の首に両腕を回してきた。引き寄せられるままに趙の唇に自分の唇を押し付ける。趙の口髭が口の端に触れてこそばゆい。それすらも愛おしくて、口に含みたくなる。その気配に気がついたのか、趙が小さく笑って唇を開き、より深くへと春日を誘った。春日も同じように唇を開いて口づけると趙の舌が入ってきて、自分のそれに絡まってくる。
     温かく柔らかい。そして、何より気持ちがいい。舌を絡めて深く深くキスをしていたら、もう後戻りが出来ないほどに興奮してきて、春日は組み敷いた趙の身体を掌で探った。その形を確かめるように胸に触れて、脇腹を撫でる。先ほど目にした趙の身体にこんな風に触れることが許されるなんて思ってもみなかった。そんな感慨に打ち震えながら、趙の肌に熱を移すように触っていくと趙が身体を小さく震わせたのが分かった。そんな反応も可愛くて春日が脇腹から腰まで辿り、下着に指を差し込んで、手探りで趙のをそっと握るとその喉が甘く小さく鳴った。唇が離れて、趙が伺うように春日の顔を見上げる。
    「そう言えば、春日くんって男としたことあるの?」
    「えっ? い、いや……」
    「……でも、躊躇わないんだね」
    「そりゃあ、な。趙だし……な」
     確かに掌に他人の男性器を握り込むなんて初めての経験だったが、不思議とそこには興奮しかない。だって、相手は趙なのだ。好きで好きで、何度もこんな風に触れることを夢想した相手だ。
     緩々と手を上下に動かしていくと、趙が小さく声をあげて眉を絞った。
    「気持ちいいか?」
    「うん……」
     趙が顔を見られたくないとでも言うように腕に力を込めて春日の頭を引き寄せるので、春日は趙のこめかみに口付け、ピアスがついた耳たぶを口に含んだ。普段、触れたくても触れられないそれの感触を唇で確かめて、耳元に囁く。
    「俺は先の方いじんのが好きなんだけど……趙は?」
     春日の声で、手のひらの趙のが小さく跳ねてさらに質量を増す。
    「……おれもすき」
     こちらの耳にかかる趙の吐息も熱っぽく、趙も自分と同じように興奮してくれているのだと感じる。自分のを扱くように、趙のを触っていくと掌の中、それが張り詰めて固くなっていくのが分かる。趙が自分の手で……と思うと、それだけでひどく昂ることだった。
    「ね、かすがくん、後ろも触ってほしい」
     誘うようにそう言われて、どきりとする。身体を上げて、趙の顔を覗き込むと趙が伺うように春日を見上げていた。
    「いや?」
    「や、嫌じゃねぇっ!」
     むしろそんなことまで自分に許されていいのかと思うほどのことだ。趙が、慌てた様子でちょっと待ってね、と春日の元から這い出て起き上がり、自分の荷物の方へと行って帰ってきた。
    「はい、これ」
     そう手渡されたのは、ゴムとパウチのローションで……。
    「……なんでこんなの持ってんだ」
    「言ったでしょ。あわよくばって思ってたって」
     少しきまり悪そうな顔をして、それでも興奮に染まったままの顔が可愛い。再び顔を寄せて口づけて、その身体をベッドに押し倒す。
    「もう、たまんねぇな……夢だろ、こんなん」
     呻いて、趙の下着を脱がしてその足の間に身体を入れると趙も誘うように足を開いてくれる。
    「あはは、俺も同じこと思ってるよ」
     パウチを破ってローションを手に取り、趙の後ろに指を伸ばす。あいにく後ろを使ったセックスの経験はないが、生育環境ゆえに性に関する様々な知識だけは嫌というほどあるので、同じようなもんだろうと思う。
     縁を確かめるように撫でてなぞると趙が甘く喉を鳴らした。それに気をよくして、まずは中指だけを……とローションの滑りに任せてゆっくりと指を挿し込んでいく。
    「んっ……」
     趙が腰を揺らして小さく声を上げるので「痛かったか?」と聞くと横に首を振られた。
    「春日くんの指が俺の中に入ってると思うとすごい興奮しちゃうね」
     欲求に潤んだ目でそんなことを言われると、こちらこそ興奮でおかしくなりそうだと思う。そうでなくとも指を締め付ける中の感触に煽られ、春日の股間は爆発しそうな状態なのだ。
    「ね、俺、後ろ慣れてるから、慎重にしなくても大丈夫だよ」
     中を探るように指を動かしてたら、焦れるように趙がそんなことを言い出した。
     慣れてるってことは……つまり他の男ともこういうことをしたことがあるって事なのか、と想像してしまって、嫉妬で後頭部がヒリヒリとする。
    「……じゃあ、指増やすな」
    「うん」
     こんな風に趙の内側に触れた奴が自分以外にいる……そいつとはちゃんと付き合っていたんだろうか? それともゆきずり? 慣れてるってことは最近まで関係があったってことか? それとも今でも?
     嫌な考えが頭の中をぐるぐると回り、行為に集中していないことに気がついたのだろう、趙が春日の肩を指で撫でた。
    「どうしたの?」
    「えっ? い、いや……」
     いい歳して、子どものような嫉妬に駆られているなんて気がつかれたくないと思いながらも、不安げに揺れる趙の目に隠し事は出来なくなる。
    「……慣れてるって他の奴とだろ? 最近まで付き合ってた奴がいんのか?」
     恐る恐る聞くと趙は驚いたように目を開いた。
    「春日くん、妬いてるの?」
    「そ、そうだよ。悪りぃかよ」
    「いいや、悪くないよ」
     何故か、趙は嬉しそうに笑って春日の頬を掌で撫でた。
    「本当に好きでいてくれてんだね、俺のこと」
    「……まだ疑ってんのかよ」
     不満に口を尖らせると趙が笑って、髪を撫でてくれた。
    「そんな春日くんにいいこと教えてあげるよ」
     趙が自身の中を探る春日の手の甲に自分の手を重ねて来た。春日の指に沿わせるように自身の中へと指を挿し込む。
    「俺の、いいとこ、この辺だから……よく覚えておいて」
     趙の中で指が触れて、絡むように内側を導かれる。興奮で血が上り、自分の顔がかっと熱くなる。
    「お、お前……」
    「ふふふ、顔真っ赤だよ」
    「あ、赤くもなるだろ……エロ過ぎんだよ……」
    「がっかりだった?」
    「んなわけあるかっ!」
     むしろ、興奮して頭の血管がはちきれそうだ。笑った趙がかき抱くように春日の頭を片手で引き寄せて、唇をつける。趙から唇を開いて、春日の舌を求めてくれるので自分と同じぐらいの熱を趙も感じていてくれているのだなと思う。
     趙が以前、誰かと関係を持っていたとしても、今、一緒にいて、こうしているのは自分だ。何も心配をすることはないと言われた気がして、改めて、趙の度量の深さを感じる。
    「ね、春日くん、俺、もう大丈夫だから」
     少し離した唇でねだるように言われて、下腹部がずんと重くなる。趙が指を絡めて、春日の指をそこから離した。
     春日は慌てて趙に背を向けて、先ほど渡されたゴムの袋を破って、自身につける。指はローション塗れだし気持ちだけが焦って上手くいかずに舌打ちをしていたら、背中越しに趙の笑い声がした。
    「焦んなくても俺は逃げないよ」
    「わ、わりぃ」
     何とか装着して趙へと向き直り、春日は自分のを握ると趙の後ろへと当てた。縁が吸い付くように春日の先端に触れてきて興奮で眩暈がする。
    「いれんぞ」
    「うん」
     ゆっくりと腰を進めて、趙の中にはいっていく。
     セックス自体が初めてという訳ではないのに、何だか気持ちが急いて鼓動が高く、誰かの中にこんな風に入るのは初めてだというような気がした。
     趙は自ら言っていたように力を抜き慣れているのだろう、挿入は思いの外スムーズで、それでも趙の中は狭くって、熱くて、今まさに趙と自分が繋がっているのだという実感をまざまざと春日に思い知らせる。
    「…………っ」
     おおかた収め終わったところで動きを止めると、趙が深く息を吐いて腹筋が大きく上下するのが見えた。苦しいのかと顔を上げてその表情を伺うと、目の下を赤く染めてなんとも扇状的な顔をして趙は春日を見ている。
    「……何て顔してんだよ」
     思わず溢すと、趙は片頬だけ上がって小さく笑顔を浮かべた。
    「春日くんこそ見たことない顔してる。……そんな顔すんだね」
     趙の指が春日の頬に伸びてきて、その輪郭を確かめるように撫でた。
    「もっと、淡白なのかと思ってた」
    「がっついてて悪かったな」
     ふふふ、と趙が喉で笑って、その振動が春日にも伝わってきて、ドキドキする。
    「嬉しいよ。俺で興奮してくれて。俺の想像の中の春日くんは受け身な一方だったから……なんか意外なだけ」
     趙の言葉に思わず喉が鳴りそうになる。その顔をもっとよく見ようと趙の片足を肩に担いて身体を倒すと、趙が「んっ」と短く声を上げた。その様子が可愛くて、緩々と腰を動かし始める。
    「……俺のこと想像して、一人でしてたのか?」
    「そりゃ……するでしょ、好きな、人だし」
     趙が感じいるように言葉を震わせて、春日を見る。その目の奥の熱に吸い込まれるように唇をつける。唇を割って舌を絡めると趙の方からもそれに応えてくれて、お互いの舌を深く絡めるのが気持ちいい。もうずっとこうしていたいと思うが、キスをしたままだと動きながら趙の反応が見えないのがもどかしくて、苦渋の決断で唇を離す。と、趙の唇と指がまだ足りないとばかりに追ってきた。
    「きす、しながら、ついてほしぃ……」
     そんな風にねだられて断れる奴がいるだろうか。再び、唇をつけて深く口付けながら緩々と腰を動かす。浅く抜き差しを繰り返して、先ほど趙が自ら示してくれたところを思い出して突いていると、キスをしながらも趙の反応が変わったのが分かった。繰り返していると堪らないというように趙から唇を離して春日の背に腕を回してしがみついてくる。趙の指が自分の肌に食い込む感覚にくらくらとするような幸福感を覚える。
    「趙っ……ちょうっ……」
     もっともっと趙の中に深く入りたくなって押しこむように腰を進めて奥へと入る。深く中を侵していると趙の春日を抱く腕に力がこもって、さらに強く抱きつかれた。セックスの最中に相手に抱きつかれることが、自分を求められていると感じられてこんなにも嬉しいものかと思う。
    「はぁ……好きだ……好きだ……」
     気持ちが昂りすぎて訳が分からなくなる。無我夢中で腰を振りながら、趙の肌に噛み付く。趙が甘い声をあげて春日の背中に爪を立てた。普段は器用に動く趙の黒く塗られた指が今はあられもなく自分の背に食い込んでいることを思うと興奮に拍車がかかった。
     今、自分が身体を繋げているのは趙で、趙もまた自分とこんな風にしたいと思っていてくれたのだと思うと、改めて幸福感で胸がいっぱいになる。
     趙が好きだ。もう誰にも渡したくないと強く思う。
     趙の呼吸が荒くなって、もう限界だと春日に告げる。腰の動きを早めて、少し首を捻って間近にある趙の顔を覗き込む。趙の薄く赤らんだ顔が気持ちよさに歪んで、なんとも色っぽい。そんな顔を見せられたら堪らないと思う。愛しさを込めて、趙の唇に自分のものを当てて、再び深く口づける。趙の舌を探って絡めると腹に当たっていた趙のが跳ねて白濁を吐き出した。
    「………っ!!」
     同時に中も締め付けられて、たまらずに春日も趙の中に放つ。頭の中が真っ白になるほどの快感に思わず、低く声を上げながら、趙の身体を掴んで吐き出してなお止まらない腰を揺らして最後まで注いだ。
     趙の上に倒れ込んで、二人重なったままで荒い息を吐き出しながら、余韻を身体から逃がす。その呼吸が少し落ち着いた頃に、趙が緩々と春日の背中を撫でた。顔を上げて、趙の顔を覗き込む。
    「……気持ち良かった?」
     たまらない表情をしてそう聞いてくる趙の唇を追うと趙が少し笑ってキスに応えてくれた。
    「最高だった。趙も? 大丈夫だったか?」
    「大丈夫。良すぎておかしくなりそうだったけど」
    「俺も」
     趙の少し乱れた髪を撫で付けて、愛おしさのまま、その顔に唇をつける。趙が「ちょっと、くすぐったいよ」とまた笑い声を上げた。趙の笑い声でまた勃ちそうになって、慌てて身を起こして自身を抜く。ゴムを縛って処理をしていたら、趙が春日の背中に抱きついてきた。その温もりにじわじわとまた幸福感が湧き上がってくる。
    「せっかくだから、また一緒に風呂に入るか」
    「いいけど、そこまでするといよいよ言い訳出来なくなっちゃうね」
    「言い訳?」
     首を傾げる春日の耳を趙が軽く引っ張る。
    「春日くん、俺たち、二人ほど部屋から追い出してるのに気がついてる?」
    「えっ? あ、ああっ!」
     そう言えば、先ほどナンバにはとんでもないところを見られていたなと思い出す。きっと見かけによらず気を使うナンバのことだ。ハンジュンギにもそれとなく牽制をかけてくれてることだろう。
    「あそこまでなら、胸張って言い訳出来たのにね」
    「しょうがねぇだろ……後でちゃんと言うよ」
    「えっ? 正直に言うの?」
     とんでもないと趙に真顔で止められて、春日は二人の関係を公にしてはいけないのかと面白くない。
    「なんだよ、他の奴に話しちゃダメなのかよ」
    「いやいや、知り合いのそんな生々しい話、二人だって聞きたくないでしょ。俺だって気まずいしさ」
    「付き合うことは言ってもいいだろう」
    「えー、どうだろうねぇ」
     煮え切らない趙の態度に不安になる。
    「俺のこと、好きなんじゃねぇのかよ」
    「好きだよ」
    「じゃあ、いいじゃねぇか」
    「うーん……」
     趙が背中から離れていく気配がして、振り返るとベッドから立ち上がるところだった。
    「一緒にお風呂、入るでしょ?」
    「お、おうっ」
     先のことより目の前の誘惑に負けて、春日は趙の裸の背中を追った。




     その後、二人で露天風呂でしばしイチャイチャした後、春日としてはそのまま趙と二人っきりで夜を越したいところだったのだが、趙が団体旅行でそんなわけにはいかないだろうというので二人して何食わぬ顔で宴会部屋に戻って、皆に合流した。すっかり出来上がった仲間たちは二人の不在など、全く気がついていないようだったが、ナンバだけは複雑そうな顔をして二人を見ていた。

    「おい、一番。昨日のは一体なんなんだよ」
     朝、朝食を終えて名残惜しくも宿を後にしようと、皆で思い思いに帰り支度をしている際に、ナンバが寄ってきて耳打ちのように春日に聞いてきた。
    「何って何がだよ」
     とぼけるがナンバが咎めるような目で見てくるので白状する。
    「二人で野球拳してたんだよ」
    「はぁ? なんだ、それ」
    「嘘じゃねぇよ」
     その後にあったことはあったことだが、嘘はついてない。春日の目に嘘はないことが分かったのか、ナンバは「なんだよ。紛らわしいんだよ、お前ら」と言ったきりそれ以上の追求はしてこなかったので、静かに胸を撫で下ろす。
     春日としては、ナンバにぐらい話しても良いことではないかと思うが、趙からせめて三ヶ月は誰にも話さないでと釘を刺されている。そんな趙の目の奥に、二人の関係がすぐに駄目になるかもしれないという不安を見ている春日としては趙の気持ちを尊重したかった。言いたければ、またこの関係が安定してからでも遅くはない。
     荷物を詰めて、忘れ物はないかと部屋を見渡す。と、昨夜、趙と潜り込んだベッドが目に入って、改めてたまらない気持ちになる。昨日は思う存分に趙に触れられた。何度したか分からないほどにキスをしたし、それ以上のことも沢山した。それなのに満たされるどころか、また趙に触れたくて仕方がない。
     昨夜は宴会場に戻った後、春日も半ばやけ酒のように飲んで飲んで酔い潰れて、その場に雑魚寝で気がついたら朝だった。
     本当ならあのまま、趙と二人きりでいちゃいちゃしながらベッドで一緒に朝まで寝て目を覚ましてみたかった。朝起きたら趙が腕の中にいて、その趙にまた思う存分に触れられたら……。
    「春日さん? どうかしましたか? 皆さん、もうロビーに揃ってますよ」
     ベッドを眺めながら夢想に耽っていたところにハンジュンギにそんな風に声をかけられて、慌ててその後を追う。ロビーに出るとロビーの椅子に腰掛けているもの、売店でお土産を見ているもの、外でタバコを吸っているものと、皆が思い思いに過ごしていて、当の趙はといえばフロントでチェックアウトの手続きをしているようだった。そっとそちらに近づいて、その様子を伺っていると気配に気がついたのだろう、趙が振り返った。
    「春日くん、どうしたの?」
     その表情はいつもとまるで変わりがなくて、それだけ見ていると昨日の夜のことが夢だったのではないかとも思えてくる。実際、朝になってからは、周りに誰かしらがいたせいで、まだ一度も趙に触れられていない。
    「い、いや、なんか手伝うことあるか?」
    「ないよ。ありがと。先に車に行ってていいよ」
    「そうか。……荷物持ってくか?」
    「大丈夫だって」
     サングラスの奥、春日の気持ちを見透かすように少し困ったように趙が笑う。それだけで、春日の心はときめいて、趙に触れたくて仕方がなくなる。
    「趙……」
    「春日くん、約束したよね?」
     距離を縮めた春日に、趙が低い声で牽制をかけてくる。
    「……そうだったな」
    「ほら、みんなでもう車に行ってて」
     追い払われて、仕方なく皆の元に戻る。ちょうど、一服終えた足立が車を玄関まで回してくれていて、皆でゾロゾロと乗り込んだ。春日としては、もしかしたらとの期待を込めて車の最後部の二人席に腰を下ろしたが、最後に入ってきた趙は当たり前のように窓側の一人席に座ってしまった。分かっていることではあるが春日としてはひどく寂しい。
     趙の横顔を見ながら、昨夜のあれこれを思い出して、また早く二人っきりにならないかと思考を巡らせる。二人っきりになったら、昨日のように趙に触れたりキスをしたりしたい。思っただけで堪らなくて、触れたいのに触れられない今の状況がもどかしい。
    「春日? どうした? やけにおとなしいじゃねぇか」
    「また具合でも悪いの?」
    「社長、車、弱かったんでしたっけ?」
     仲間たちが口々にそんな風に心配してくれるのは申し訳ないが、今は春日の頭の中は趙のことでいっぱいでそれ以外の余裕がない。
    「んなことねぇよっ。いいだろ、たまには静かにしてたって」
     八つ当たりのように怒ると、元気が出て来たじゃねぇかと笑われて、何となく心外な思いがする。
     不貞腐れて唇を尖らせながら、窓の外を流れていく景色へと目を向ける。皆はすぐに別の話題に移ったようで、ラジオから流れる曲を聞いてわいわいと言っている。一人窓の外を眺めながら、そういえば、行きでもこんな風に趙のことを思って、心惑わせていたなと思い出す。あの時はこの思いはもう叶うわけがないと思っていた。
     窓から目を離して趙の方を向くと、いつからだろう、こちらを見ていた趙と目が合った。思わず、隣の座席に掌を上にして伸ばすと、趙がしょうがないなという顔をして、猫みたいな身軽さで春日の隣の席に移ってきて、春日の手を握ってくれた。
    「……」
     握られた手に静かに感動していると、趙が顔を寄せてきた。
    「春日くん、明日は? 早いの?」
    「えっ? いや、いつも通りだけど」
    「異人町に戻ったら、俺んち来る?」
    「行くっ!」
     思いもよらないお誘いに思わず大きな声が出る。趙に軽く睨まれて、慌てて身を縮めながら声を潜める。
    「……行きます。行かせてください」
     懇願のように言うと趙が繋いだ手に力を込めた。
    「じゃあ、いちゃいちゃはまたその時にね」
     囁かれて体温が上がる。「お、おう」と答えながら、春日も趙の手を強く握り返した。
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