抱いたのは貴方 -続き-やけに洒落たジャズが流れる店内でその場に似つかわしくない男がいた。そう、俺だ。この店の珈琲が好きで週に一回このカフェに通っている。他店とは違い、浅煎りの苦味が少なく酸味の強い珈琲が俺は好きなんだ。
大好きな珈琲を口にしてもなお、口から出るのはため息ばかり。カメラマンを目指して上京したものの、この世界は思ったよりも厳しくて今じゃ生活のためのアルバイトを掛け持ちしてその日暮らしを送っている。
木目の丸いテーブルに置いたカメラを手に取る。撮った写真はどれもパッとしなかった。ただ一枚だけ、唯一気に入った写真がある。それは山奥で肝試しをしている最中に撮ることができた写真だ。
心霊写真ではない。森の中を彷徨っていると開けた場所に出た。そこはどうやら遊歩道のようで、その中央に位置する湖と星空の美しさにハッと息を呑まれた。首にぶら下げたカメラを手に取り、ファインダー越しに美しい風景を眺めていると奇跡が起こったのだ。
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