だって、何も知らなかったから 電車を乗り継いで数時間。連れ出された先は夏の代名詞でもある海だった。
珍しく森くんの方から誘われたものだから、まだ僕に飽きてないんだと安心する反面、いつまで続けるのだろうかと憂鬱になりながらも浮き立つ心を隠せずにいた。
羞恥を押し込めてシャワーを浴びて後ろの準備をして、髪をセットして気に入りの服を素早く吟味して。そうして訪れた森くんのアパートの前。繰り返してきた行為をなぞるように深呼吸しようとして、腕を掴まれた。
びっくりして顔を上げれば、むっつりと黙り込んだ森くんが「海、行くぞ」とだけ僕に告げる。呆気にとられるままに流されてここにいる。
海に行くなんて思ってもいなかったから水着なんて持ってきてない。持っているのはビニール袋に入れられたローションとゴムだけだ。
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