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    hirose0315teni

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    寒い日の帰り道に白石くんの家に行く謙蔵のお話。

    #謙蔵

    寒い冬には、暖めて。 校舎を出ると、冬の寒さが身に染みる。現役時代はハーフパンツでコートを駆けていたことが信じられない。まるで遠い昔のことのようだ。隣を歩く忍足にそう告げれば、年寄りみたいやなと言われてしまうだろうか。
     そんなことを考えていると、隣から大きな悲鳴が聞こえてきた。
    「寒っ!! 信じられへん。なんちゅう寒さや……」
    「もう十二月やからしゃあないわ。心頭滅却すればなんとやらやで」
    「銀みたいなこと言うなや。気持ちでなんとかできたらとっくにやっとるわ」
    「スピードスターが弱気やなぁ。子どもは風の子やで」
    「そら金ちゃんだけや。スピードスターはもう大人やからあかん」
     十四歳も子どもだろう。そう喉まで出かかった言葉を我慢した。寒い寒いと震える忍足は、寒がる様子を全く見せない白石のことを恨めしく思っているようだ。言葉にしても変わるものではないから口にしないだけで、白石だって寒くないわけではない。
     だが、隣で震える忍足を見ていると、なんとかしてやりたいと思うのは惚れた弱みと言うやつだろうか。
    「そんなケンヤクンには俺が温かいココアでも淹れたるわ。うち寄ってかへん?今日はみんなおらへんねん」
    「ほんまか!? 珍しいやん」
     白石の提案は思ってもみなかったもののようで、忍足は途端に目を輝かせだした。白石の家へは距離があるというのに、面倒くさがるどころか二人きりでいられることを喜んでくれるようで、こちらまで嬉しくなってくる。
    「おお。女性陣はスイーツビュッフェでオトンは忘年会や。俺は帰って猫とカブリエルとケンヤに飯あげな」
    「ケンヤはペットやないわ」
    「はいはい。で、来るやろ?」
    「当たり前やんか! よっしゃ! 途中でコンビニで菓子買うて帰ろ」
     はよ行こうや!と途端に足取りを軽くする恋人に笑みが零れる。先ほどまで寒さに打ちひしがれていたのが嘘のようだ。「現金やな」と苦笑しながらも、白石もいつの間にか寒さが気にならなくなっていた。


     
    「はい、ココア」
    「おおきに。あっつ!」
     カップに注いだココアを差し出してやれば、忍足は嬉々として受け取った。ホットは冷ましてから飲むだろうというこちらの予想を反し、ぐいっと勢いよく飲み込んでしまった。熱さに驚きすぐに口を離す忍足に、白石は苦笑する。
    「淹れたてなんやから一気に飲もうとしたらあかんで」
    「はよ言うてや。舌ちょお火傷したわ。……ん、甘さ控えめで美味いやん」
    「ケンヤはコーヒーの方がええかもしれへん思うたけど、一杯くらいええやろ」
     忍足は青汁が好きだから、苦いものが得意だ。コーヒーも家ではいい豆を挽いているようで、お気に入りの種類があると口にしていた。その横顔に大人っぽさを感じときめいたことは内緒だ。
    「たまにはココアもええな。久しぶりに飲んだけどこれならいくらでも飲めるわ」
    「ココア一杯でおおげさやな」
    「それだけ美味いっちゅうことや。それより、白石もココア飲むんやな」
    「受験勉強の息抜きにな。こないだは友香里がマシュマロ入れてくれたんやで」
     部屋にココアを運んできてくれた妹は「クーちゃん頑張ってるから特別に入れてあげる!」と目の前でマシュマロを入れてくれた。マシュマロのおかげで甘さは増してしまったが、その優しさが嬉しかったものだ。
    「マシュマロなんて入れたことあらへんわ。美味いん?」
    「そういうと思うて持ってきたで。甘さ増すけど、これはこれで美味いで」
     まだ湯気を出しているカップの中にマシュマロを二つ入れてやれば、またしても忍足はすぐに口に運んだ。溶けていないマシュマロは邪魔なようで、眉をひそめている。
    「飲むん邪魔やないか?」
    「早すぎや。溶けてへんから何も変わるわけないろ」
    「待つん苦手やなぁ」
    「すぐ溶けるから待っとき」
     白石の言葉に渋々とカップをテーブルに置くと、忍足はこちらに向き合った。
    「それにしても、マシュマロ特別に入れたげる!なんて友香里ちゃんかわええな。俺も弟やのうて妹がほしかったわ」
    「ケンヤにはこないにかわええ白石クンがおるからええやろ」
    「自分で言うんか。せやな、俺にはこないにイケメンでかわええココアを淹れるんが上手い白石くんがおるからええわ」
     ツッコミながらも否定しない忍足に胸が暖かくなる。自室で二人きりになったからか、忍足が自分も見つめる瞳には恋人への甘さが満ちている。そんな視線で見つめられれば、彼に触りたいという欲求が溢れてくる。けれど、素直に告げるのは少し抵抗があるから遠回しに言葉にした。
    「……寒いな」
    「そうか? ココア飲んで暖かいけど……。暖房強うするか?」
    「はぁ……。白石クンはイケメンで積極的なのに、ケンヤクンは鈍いなぁ」
    「いきなりなんやねん」
     勇気を出して誘った言葉の意味を理解してくれない恋人にため息をつけば、忍足は怪訝な顔をする。じれったくなり忍足の唇を奪えば、目を見開き驚く顔が可愛らしい。気を良くしながら口づけを深めようとすれば、またしても待つことが出来なかった彼に先に舌を絡められた。ココアの味がする、なんて甘いことを思いながら熱いキスを交わす。
    「……暖めて言うとるんやけど」
     数十秒後、唇を離しハッキリと言葉にすれば忍足は困ったような嬉しいような複雑な顔をしていた。おそらく遠回しな誘い文句をじれったく思っているのだろう。
    「そういうんはハッキリ言うてくれへんとわからんわ」
    「そんなんやから女子にええ人止まりで終わってまうんやで」
    「白石以外にモテる気あらへんから別にええわ」
    「ケンヤ……」
     はっきりと告げられた言葉に感動する白石に微笑むと、今度は自ら口づけを贈ってくれる。瞳を閉じ忍足のキスを受け入れながら、唇一つで自分を幸せにしてできるのは彼だけだと伝わればいいと願った。
     唇を離すと、額をくっつけたまま甘く囁かれる。
    「嬉しそうでかわええやん、白石」
    「さっきから白石クンはかわええ言うとるやろ」
    「せやな。白石は誰よりもイケメンで、誰よりもかわええわ」
    「当然やろ。……ん」
     冗談を交わし笑い合いながら啄むような口づけを何度も何度も贈りあう。最後のキスは次第に深くなり、互いに夢中で求め合った。
     唇を離せば忍足の瞳はギラギラした熱で輝いている。自分を欲している彼の姿に鼓動が早まっているのは抱き合う身体から伝わっているはずだ。そして、白石の瞳にもきっと同じような熱が灯っている。
    「もう寒いなんて言えへんくらいめっちゃ暖めたるからな」
    「……お手柔らかに頼むわ」
     この先の展開を想像し頬を赤く染める白石に微笑むと、忍足は覆いかぶさってくる。彼の為に淹れたココアが冷めてしまうと思いながらも、そっと彼の背中に腕を回した。
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