虎於が悠に「俺のどこが好き?」って聞く話「なんで俺だった?」
前を歩く悠が振り返って、きょとんとした顔を見せる。
「今さらそんなこと聞く…?ていうか言わなかったっけ」
「最初のほうに聞いた気がするが、よくわからなかった」
最初のほうというのは、悠のアプローチが明確に始まったころという意味だ。普段の行動や視線からなんとなく好意は感じていたものの、ささやかなアピールはすべて流していた。痺れを切らしたのかそうすると決めていたのか、高校を卒業したタイミングでとうとうはっきり「好きだ」と言われた。男からの告白が嫌だとか気持ち悪いとかそういう感情はまったく湧かなかったが、応える気もなかった。高校を卒業したとはいえまだ子どもだし、男同士だし、アイドルのメンバー同士だし。とにかくそういう対象として見ることができなかったから極力傷つけないような断り方を必死で探した。
『虎於、好きだ』
『好きだよ』
『好き』
何度も愛の告白を受けているうちに「いつもの」みたいになってきて、ああこれは近いうちに笑い話にできるようになるんじゃないかなんて悪いことを思った。だって悠はまだ10代で、なんだって選択できて、きっと俺とじゃなくたって、いや俺とじゃないほうが幸せになれるはずだ。言い訳を並べたてて、真剣な悠の気持ちを茶化そうとしたことを正当化したかった。かわいそうだから付き合ってやるとか満足するまで適当に付き合ってやればいいとか、そんなのを悠にしたくないから真面目に断ってたのに、結局俺はどうしたって本当の優しい人間にはなれない。そんな風に思っていた…いや、今もそんな風に思っている。だっておかしい。
『虎於は最初から優しくないってわかってるから』
そうだよ。そう言ってただろ。なんでそいつを選んだ?
「お前からの告白が始まったときは正直勘弁してくれと思った。仲間でいいだろ、関係をぶっ壊そうとするなよってな。でもお前が俺を避けてた時期があっただろ」
悠がアピールをぱたりとやめて、虎於に必要以上に構わなくなった時期があった。それは好きな気持ちが消えたわけではなく「押してもダメなら引いてみろ」という言葉に従って動いた結果だった。
「お前が俺を諦めたのかもしれないと思ったとき…嫌だと思ったんだ。あんなに俺を好きだって言ってたくせになんだよって腹が立って…」
言葉にしながら、自分で自分の言葉に驚いていた。虎於自身も理解しきれていなかったものが明確な形になっていく。
「お前がいなかったら俺はさっさとŹOOĻをやめてた。引き留めてくれたこと、感謝してる。いつだって、どんなにしんどくても折れずに、自分の意思で決めた道を進むお前のことを尊敬してる」
普段なら決して口に出さないような恥ずかしいことを言っている自覚はあった。しかしこの男にだけは、少なくとも今この時だけは本心を伝えなくてはならない、という漠然とした想いが口を回し続ける。
「いつまでも子ども扱いし続けるのは失礼だと思ったから、本気で考えた。男同士だとか歳だとか全部なしにして、悠をどう思ってる?俺はどうしたい?ってな。そうしたら……すごく簡単に答えが出たんだ」
悠は少し泣きそうな顔をしながら、虎於の顔を両手で挟んで思い切り引き寄せた。