狐狸パロ 山崎は途方に暮れていた。
自分が子どもであった時分のことなど、とうの昔に忘れている。何を食べさせ、何をしてやれば良いのかもわからない。
山崎が本性を現して食いつけばひと吞みで腹の中に収まりそうなほど小さな狸がジッと自分を見つめている。
「うゆん」
どうしたものかと思案していると、胡座をかいた山崎の足の上に子狸が這い上がってきた。寒そうに身を震わせ、山崎の温もりを求めるように身体を擦り付けてくる。少なくとも「へーすけ」と名乗ったこの小さな存在には温かさが必要らしい。人の姿のままでは彼が必要とする温もりは与えられないだろう。
山崎は変化を解いて本性を平助の前にさらした。人の姿はさして大きくはないが、本来の山崎は大狐の名に恥じぬ大きさをしている。熊でさえ、山崎の姿を見ればすごすごと去って行く程度には大きい。巣穴がやけに大きいのは本性の自分を納めるためだ。
「きちゅね!」
大狐を見た平助は、驚いたように叫んだが、怯えているわけではないらしい。嬉しげにうゆんうゆんと鳴きながら小さな身体で飛びついてきた。ほとんど意識せず、平助の身体を毛並みの豊かな尾で包み込んでやると、小さな身体は長い毛に埋もれてほとんど見えなくなる。
尾を平助ごと身体の方へ引き寄せ、身体を丸くすると、丁度平助を抱きしめているような格好になった。これで少なくとも平助が寒さに震えることはあるまい。
「やまらきぃ」
安堵して目を閉じたところで、長い毛の中から小さな声が聞えた。
「どうしました?」
鼻先で毛を掻き分けて尋ねると、尾の中で平助がモゾモゾと身じろぎをしている。
「くるし……」
「あっ! すみません。力の加減がわからず……どうですか?」
慌てて尻尾の力を抜きながら尋ねる。
軽く力を入れたつもりだったが、平助の体格には力の入れすぎだったのだろう。思えばこんな小さな者とこんな風に過ごしたこともないのだ。長く生きてもまだ知らないことがあるのだと、妙な新鮮さを感じた。
「らいじょぶ」
そういいながら長い毛の中から頭だけを出して、平助はうゆんと鳴いた。獣ならざるものと獣の狭間にいる彼にとってはどちらも言葉なのだろう。
「苦しかったらいって下さいね」
もう一度自分の尾に力が籠もっていないことを確認し、触れればすぐに壊れる雪の結晶でも抱きしめるように平助を包み込んだ。顔だけを出すようにしてやると、平助はつぶらな瞳でこちらを見る。
「あい。やまらきのしっぽ、あったかぁい……おれ、ねむくなってきた」
目が合うと、嬉しそうにそんなことをいうが、その声はもう寝息に半分溶けかかっている。彼にしてみれば、親とはぐれ、見知らぬものに拾われ、大変な一日だっただろう。相当に疲れているはずだ。
「子どもは寝る時間ですからね。眠ってください」
「あーい」
まだ、この世を知り始めたばかりの子どもと、知っていたつもりになっていた大狐は、静かな森の奥深くで眠りに落ちていった。