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    XKitamaru

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    お遊びでお題ガチャ回してたら「若イチのお話は
    「もうずっと前から消えてしまいたかった」で始まり「ふと思い付いて、ごく自然に筆を執った」で終わります」って出たので、書きました。
    諸々精査してない部分も多いので片目つぶって読んでちょ。

    【若イチ?】別れをば。 もう、ずっと前から消えてしまいたかった。
     あの時、何故死んでしまわなかったのかと思わない日の方が少ない。朝、目が覚めると、生きている自分に絶望する。楽しいことなど何もない一日を死んだようにやり過ごし、決まった時間に死んだように眠る。明日の朝こそは死んでいないかと思うが、目が覚めるとやはり死んでいない。そんな年月をどれほど過ごしただろう。
    「826番、面会だ」
     作業をしていると、刑務官がやって来て告げる。月に一度か二度、そう語りかけられることだけが、今の荒川真斗にとっては変化だ。それ以外の変化はほとんどない。割り当てられた作業内容が変わることもあれば、同室の人間が入れ替わることもある。だが、塀の中で淡々と過ごすということに変化はなかった。
    「誰でしょうか」
     変化でさえないなと思いながら作業の手を止め、直立不動の姿勢で対応する。
    「春日一番だ」
     思った通りの答えだ。ここへやって来た当初は、全く知らない人間がやって来ることもあったが、今はそれも途絶え、春日の名ばかりが告げられる。
    「お断りします。会いません。作業、戻っても良いでしょうか」
     毎月毎月、どれほど断っても必ずやって来るあの男は、今、どんな顔をしているだろうかと思いかけ、真斗はその思いを捨てた。
    「本当にいいんだな?」
     受刑者にとって面会者は数少ない変化であり、面会の回数で受刑者の序列が決まることもあるほどの重大行事だ。それを何度も断り続けている真斗を不思議なものでも見るような顔をして確認する。言を翻すなら今しかないぞというつもりなのだろう。
    「はい」
     真斗が頷くと、刑務官はそれ以上聞かず、その場を去って行った。

    ――サッサと忘れちまえ。バカ。

     刑務官には何の落ち度もないが、さしあたりその背中に向かって内心で悪態をつくしかない。一度たりとも受け取ったことはないが、あの男から月に何度か手紙が来ていることも知っている。
     何故放っておいてくれないのだろう。真斗がこの場所に来て十年は経っている。彼には彼の生活もあり(きっと結婚などして子どもがいたりもするかも知れない)すべての罪を濯いだ彼は幸せに暮しているはずだ。そんな人間が自分のような人間を思い出し、気にかけるだけでも時間の無駄だ。もしや、生涯この世界から出ることが出来ない自分への復讐として面会に来ているのかと思ったこともあるが、あの男に限ってそんな陰湿な復讐の仕方をするはずがなく、その考えはとうの昔に捨てた。会ってももらえない相手のために時間をかけてこの場所までやって来て、会ってもらえないことを確認して去って行く。それをもう十年も毎月続けている。
     消えてしまいたいのだ。そしてあの男に忘れられたときこそが、自分が真の意味で「消える」ときだ。だから、サッサと忘れて欲しい。自分のために無駄な時間を使ってくれるな。自分のためにその真っ直ぐな心を費やしてくれるな。きっと直接告げるしかないのだろう。避け続けているだけでは伝わらないのだと、この十年でようやくわかった。
     すべてを諦め、真斗は申請を出した。
     手紙を書くのだ。あの男に、たった一言「自分を忘れてくれ」という手紙を書く自由さえない場所だからそうせざるを得なかった。段ボールに詰め込まれた大量の手紙はそのままにして置いてくれと頼み、はがきを買う。

    ――イチ、今度こそサヨナラだ。

     いざ手紙をと思ったところで、あの男と自分の間に横たわる感情は、全く複雑で何を書くべきか、言葉が出てこない。もうすぐ消灯時間だ。早く書かねばと思うほど言葉は出てこない。もう長い間最低限の言葉しか喋っていないこともあるのかもしれないなと思う。
     鉄格子のはまった窓から良い風が吹いてきて、ふとそちらに目をやると、刑務所の中とは思えないほど満開の桜が目に入ってきた。こんな所に桜の木があったのかと驚く。十年ほどこの部屋にいて初めて気づいた。
     この桜とそれを揺らした風だけは、外の世界と同じかと思う。そして長い間燻っていた言葉をふと思い付いて、ごく自然に筆を執った。
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