Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    XKitamaru

    @XKitamaru

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    XKitamaru

    ☆quiet follow

    TLで大流行中のあれ。

    #ハン趙
    hanZhao
    #妖怪パロ
    #山藤

    狐狸話 アヤカシ、妖怪、神――様々な呼ばれ方をするが、それは人の世の都合に過ぎない。山崎は単に山崎という存在でしかない。山崎という名さえ、人がそう呼んでいるだけのものだ。気づいたらこの森にいて、何の目的もなくただ生きているだけの存在だった。
    「やまらき!」
     久しぶりに狐の姿で寛いでいると、そんな甲高い声と共に腹の辺りに何かが体当たりしてきた。長い毛の中に埋もれているのは、覚え立ての変化(へんげ)で人の姿になった平助だ。
    「私は、あなたの母ではないので乳など出ませんよ」
     腹の辺りを懸命に押しているが、生憎とそうされたところで彼に提供出来るものなど何もない。狐の顔では笑みも浮かべられないが、気持ちだけは苦笑を浮かべていうと、平助は長い山崎の毛から顔だけ出して「しってるよぉ」と口を尖らせた。
     まだ歩き始めの赤ん坊のような平助は、裸のままヨチヨチと山崎の顔の辺りまで歩いてくる。口を開ければそのまま丸呑みにできそうな大きさの赤ん坊が、鼻先に頬ずりしてくることを、山崎はこれまで感じたことのない心持ちで受け入れていた。
    「やまらき、どお?」
     堅い鼻先への頬ずりに満足したらしい平助は、数歩後ろに下がって両手を腰に当て、誇らしげにぽっこりと膨らんだ腹をこちらに突き出して見せた。人でいえば物心ついたかどうかという頃の姿で、そんな風にされてしまえば愛らしい以外の感想が出てこない。
     彼が人に化けられるようになったのはごく最近の話だ。おそらく自分たちのような生き物としては相当に遅咲きだろうと思う。山崎が平助と暮し始めてから十度目の春が過ぎようとしていた。拾ったときの年齢は知らないが、そこから数えても十年が経過してようやく人への変化ができるようになったのだ。そのせいか、獣の身体は大人でも、人への変化はまだ赤ん坊に毛が生えた程度でしか化けられない。
    「上手になりましたね。尻尾が上手く隠れていませんが」
     着物が作れていないことはいわずに、山崎は尻の辺りから伸びているふさふさとした毛の塊に視線を向けた。
    「え? ほんとに? ……あ、しっぽがあるぅ」
     山崎の言葉と視線で、自分の背中に目を向けた平助が、誇らしげな顔から一転して泣きそうに歪む。
    「大丈夫ですよ。その内もっと上手になります」
     人に変化していれば、その髪を撫でてやることもできるが、今はできない代わりに、平助の頬を少し舐めながらいってやると、泣きそうな顔が今度はくすぐったそうな笑みになる。人の子そのままに表情をクルクルと変える平助の変化を楽しみながら、山崎はもう一度平助の頬を舌先でつついた。
    「そぉお?」
    「私も、子どもの頃は耳や尻尾をしまうのが下手くそでしたから」
     化け始めは誰しも下手なものだ。山崎はそれを誰からも教わる事なくやってきたが、化けるたびに池の水面に姿をうつして何度も確認したものである。何度やっても耳が隠れず、一人で膝を抱えて泣いたこともある。それも、いずれ年月が解決し、何にでも化けることができるようになるのだ。平助も経験が足りないだけで、いずれそうなる。もう獣の身体は大人になっているから、時間の問題だろう。
    「そっかぁ。おれも、やまらきみたいになれるかな?」
     舌っ足らずなのも、上手く化けられていないからだ。赤ん坊のような見た目どおりの発話に、山崎は目を細めた。
    「なれますよ。きっと。我らは長寿の生き物ですから、時間はありますし」
     実際どれだけ生きるのかはわからない。だが、十年二十年という話ではないことだけは確かだ。何せ山崎自身が、百はくだらないほど生きているのだ。それほど生きても不調は来ないから、おそらくはまだ相当先まで生きるのだろう。きっと平助もそうやって生きて行く。時折この山を通り過ぎる同類も、皆数百歳という連中ばかりだから、あながち根拠のない話ではなかった。
    「じょうずになったら、おれも、さとにつれていってくれる?」
     そういって、平助は、ぼふん、と山崎の身体の上に抱きついた。眠たげな声だと思ったら、もう変化は解け、獣の姿に戻っている。変化は慣れぬ内は随分と疲労するものだったことを平助の様子を見て思い出す。
    「里だけではなく、都にも連れて行きましょう。都には沢山面白いものがありますからね」
     まだ普通の狸そのものの姿をした平助の背中を舐めてやりながらいうと、平助はうゆんと曖昧な返事をして寝息を立て始めた。


    ◆◆◆


     平助はあっという間に変化が上手くなった。最初に人の赤子に変化できたかと思ったら、もうすっかり子どもの姿になっている。着物もしっかりと形作れるようになっていて、これならば里には連れ出せるかと、山崎は初めて平助を伴って里へ下りた。
     初めてその中に入る人の里は、平助にとっても相当楽しかったようで、すぐに帰るつもりがすっかり日が暮れるまでいる羽目になってしまったのだ。
     山の住処へ帰るべく、里を後にして街道を下る。眠たげにぽてぽてと歩く平助の手を引き、歩き始めてしばらく経った頃、平助の足が止まった。はしゃぎすぎて疲れたのかと振り返った山崎を、平助は子ども特有の大きな目で見上げている。
    「やまらきぃ……俺、なんか変……」
     人に変化(へんげ)しているはずの平助の輪郭が崩れかけている。真夜中のことで人通りはない街道であったが、山崎は慌てて平助を抱え上げ、そのまま街道をそれて山の中へと駆け込んだ。
    「どうしました? 気分が悪いですか?」
     人の目からは隠された藪の中まで移動し、耳が狸に戻っている平助の額に手を当てると、いつもより少し熱い。しゃがみ込んだ山崎と、立っている平助の目線が丁度合う。潤んだ瞳に紅潮した頬は、人に変化して夜目が利きづらくともわかるほどだ。
    「気分…悪いのかなぁ……なんか、フワフワする」
     まだ、ほんの子どもという風情の平助は、そういって小首をかしげた。思いのほか元気そうで、病のような気配は感じない。そもそも自分たちのような種族は、余り病にはならないのだ。となれば、原因には覚えがある。
     人間の姿では、五つか、六つという風貌をしているが、共に行動し始めて十年ほどが経っている。そろそろ来る頃かと思っていたが、これほど唐突にその日がやって来るとは思わなかった。
    「人の気配はありませんから変化は解いて構いませんよ」
     袴の尻の部分が不自然に盛り上がっているのは、耳だけでなく尻尾まで出てきたのだろう。これは苦しいに違いない。いっそ、元の姿に戻ってしまった方が少しは楽になることは、山崎も経験しているから、そう告げてやるが、平助は小さく首を振るだけだ。
    「元に、もろれ、ない」
    「平助?」
    「おれ、ろうなちゃうの? このままニンゲンになるの?」
     平助はそういって、不安げにこちらを見ている。その目の端から、ポロリと涙がこぼれ落ちる。そこからは堰を切ったように、涙が後から後から零れ、ついにはしゃくり上げ始めた。
    「大丈夫です。落ち着いて」
     こういう時にどうすべきなのかはわからない。しかし目の前にぽろぽろと泣いている頑是無い子どもがいるという事実に耐えきれず、山崎は手を伸ばして平助を抱きしめた。軽い身体がふわりと倒れ込んでくる。
    「やまらきぃ……こわい、よ」
    「怖くはありません。誰しもが通る道です」
     しがみついて泣く平助の背中を撫でてやる。今平助の身に起こっていることは決して、恐ろしいことではない。獣であれ、人であれ、誰もが永遠に子どもではいられないというだけだ。平助にというより、自分に言い聞かせていた。
     抱きしめている内に、平助の呼吸も落ち着いてくる。そのまま抱え上げて住処へ帰って寝かしつけようと思い始めたところで、首筋のくすぐったさで我に返った。
    「山崎ぃ、イイ匂いすりゅ」
     そういって平助が山崎の首筋の当りで鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。抱きしめている平助の身体がモジモジと動いていた。何気なく触れた股間が硬く尖っている上に、山崎の鼻先に漂ってくる平助の香りが、暴力的なまでに本能を突き上げる。その衝動に身を任せてしまいたいと理性が揺らぎかけるのは、良くない兆候だ。
    「やまらきぃ……イイ匂いぃ」
     ウットリと頬を寄せ鼻を鳴らす平助の身体を、山崎は危うく引き離した。
    「へ、平助! いけません!」
    「なんれ?」
     突然声を荒らげられ、平助は不満そうに口を尖らせる。
    「なんでもです! 子どもは家に帰って寝ますよ!」
     これは、まだ子どもなのだ。永遠に子どものままではいられないが、今はまだ、子どもであるべき年頃で、自分は彼を教え導く立場にいなければならない。せめて彼がもう少しだけ大人になるまでは――。
    「もっとぉ……イイ匂い、嗅ぎたい」
     平助がすっかり何かに取り憑かれたように抱きついてこようとする。
    「ダメです」
     山崎は平助の懇願をにべもなく拒絶し、まとわりつく平助を抱き寄せて、そのまま小脇に抱えて立ち上がった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💞💞♓♓💞💞💞💞💞💞👏👏☺☺☺☺☺💯💒💒💒💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works