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    クルリ

    @rice_kajii

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    ペンギンのかき氷機にまつわるOV天の話

    ※注意
    ・できてるOV天
    ・真説後設定
    ・とても短いです

    *****

     時刻は午後二時を少し回った頃。未だ日は高く、少し身体を動かすだけでじんわりと汗がにじむ。夏の盛りである。
     OVER城の厨も例に漏れず、格子窓から夏の陽気が差し込んでいる。そんな厨に人影が現れた。城主のOVERだ。長く伸びた白銀の髪を紐で括り、涼しげな麻の着流し姿の彼は、入ってすぐに目当ての棚へと向かう。食器が並ぶ棚の下の引き戸、そこに彼が目的とする物があった。
     カラリと引き戸を開け、かつてマルハーゲ帝国四天王最凶と謳われた男が取り出したのは、可愛らしいペンギンがあしらわれたかき氷機であった。
     技術が進む中で今時珍しい手回しのそれは、ルビーのリクエストで購入したものである。城で育った蹴人や、ルビーのために、毎年夏にはこのかき氷機を使って涼をとるのが、OVER城での習わしのようになってしまったのだった。

     今日は一番の猛暑日。このペンギンを出すには十分な気候である。普段なら面倒見の良い三文明がおやつがてら様々な味のかき氷を振る舞うのだが、今は出払っている。
     そろそろルビーや蹴人が冷たいものを欲しがる頃だろうと、不在の三文明の代わりに城主であるOVER自ら厨に出向いたわけだが、彼がここにいる理由はそれだけではない。
     今年の夏は、客人が来ているのである。OVERの興が乗っているのはそのためだ。

     ペタペタと、もう聞き慣れてしまった足音が近づいてくる。
     客人が厨の入り口に現れた。

    「お、いたいた。OVERちゃん。こんなところで何やってんの」
     「暇だから探してたんだぜ」などと言いながら入ってくるのは、マルハーゲ同窓会以降ふらりと城にやってくるところ天の助である。
    「いいタイミングで来たなお前。手伝え」
     後ろを振り返らずに声をかけるOVER。天の助が我が物顔で城内を歩くことはとうに気にならなくなっていた。皿でも出させるか、ルビーたちを呼んでこさせるか、思案しながらかき氷機のハンドルを回す彼は、少し経ちようやくところてんからの反応が無いことに気が付いた。

    「おい聞いてるのか」
     振り返りながら「天の助」と言いかけた言葉は、しかし途中で消えた。
     天の助は青い顔に汗をにじませ、腹を押さえてこちらを凝視している。
     打撃斬撃に対して自前の再生力で乗り切る天の助は、調子よく寝返るものの大抵はボーボボらと一緒に自然体でいることが多い。まして、今はOVERに対して怯える理由もない。
     初めて見る反応に戸惑うOVERは声をかけようとしたが、先に口を開いたのは天の助だった。
    「……そのペンギン」
    「あぁ?」
    「そのペンギン、なんでここにあんだよ……」
     OVERには、天の助の言葉が意図していることが何か分からなかった。
    「ペンギン……このかき氷機のことか?」
    「……かき氷機?」
     天の助は、ぱちぱちと瞬きをすると、机の上のかき氷機を見つめる。何かに気が付いたそぶり。そして、「はぁー」と長い息を吐くと顔を上げた。

    「なんだよもー!焦った!天ちゃん恥ずかしい!」
     照れ隠しのつもりかくねくねと動きながら近づいてくる天の助。しかし、引きつった笑顔は妙に痛々しかった。
    「おい、ペンギンに何かあんのか」
    「何もねえって!オレの気のせいだったわ。何手伝えばいい?」
    「おい」
    「あ、皿出そうか?それとも氷削る係か?」
    「おい」
    「このタイプのかき氷機使ったことないけど天ちゃんなら……」
    「天の助」
     OVERが名前を呼ぶ。すると、天の助が動きを止め、ばつが悪そうにOVERを見上げた。

    「……別にたいしたことねえんだけどさ。話すけど……笑うなよ」
     OVERに見つめられ、ぽつぽつと紫龍炎かまらとの戦いを話す天の助。
     かまらのアニマルMIX真拳で作り出されたドライアイスを吹き出すペンギンのせいで、あわや蒸発しかけた彼の話を聞き、OVERは先ほどの反応に合点がいった。
     いくら再生力に優れた天の助といえど、蒸発はすなわち死を意味する。たまたま形が似ていたペンギンのかき氷機は、天の助にとって死を想起させるものだったわけだ。

    「ちょっとびびっちまっただけだからさ。あの時ほんと死ぬかと思ったから……恥ずかしいけどよ」
     目を反らしながら呟く天の助に、OVERは一つため息をついて言葉を返す。
    「でも今生きてるだろ」
    「……?」
    「自分の実力じゃないにしろ、そのかまらって奴にも勝った。そうやって今までも生き残ってきたんだろてめえは。今生きてここにいる事実、それ以上に何が要る」
    「……十分だな」
    「そうだろ」
     天の助は思い出した。これまで不幸なこともたくさんあったが、結果的には生き残った。仲間もできた。この自分がだ。それを誇らずして何を誇る。
     おもちゃのペンギンを恐れる必要などなかったのだ。
    「ありがとなOVER」
     小声で礼を言う天の助に、「おう」と返事をするOVER。

    「あー、それに、」
    「それに?」
    「そういう奴は、次会った時に確実にぶっ飛ばせばいいだろ」
     「一度見た技に遅れは取らん」と言い切るOVERに、天の助が笑う。
    「OVERちゃんは頼もしいなあ」
     「オレも、次アイツに会ったらところてん促進してやるか!」と意気込む天の助を、OVERが拳で黙らせる。
    「調子に乗んじゃねえ」
    「理不尽!」
     ポカポカと彼の背中を叩き抗議の意を示すところてん。OVERはそんな天の助を軽く押しのけると、かき氷機に向き直った。

    「氷溶けちまったじゃねえか。作り直しだ。今度こそ手伝えよ」
    「分かったよ。……そういや、かき氷の味どうすんの」
    「宇治金時はどうだ」
    「ムカつく奴思い出すからヤダね」
     両手を広げた天の助は、ツル・ツルリーナ三世の配下である旧ブロック長と戦った時の話を語りだす。

     すっかり元の通りに戻った彼の表情にOVERは僅かに頬を緩め、再び氷を削り始めた。
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