フラッグシップの恋だった【後編①】side:武道
目の奥がじくじくと熱を孕むのに気付かないふりをしたのは、一体いつだっただろう。
記憶の糸を紐解けば、男が燃える液体を引っ掛けた日であることが思い出される。
自分の全てを受け入れると豪語した酔っ払いの戯言が涙腺を刺激するのだから、実に馬鹿げている。
毒にも薬にも姿を変える男の信念は、武道にどちらの効果ももたらした。歩み寄れば全てを包み込み、距離を置こうと立ち止まればそれもまた受け入れる男の優しさは、居心地の良い安心感の中に一抹の寂しさを抱かせた。
そんな身勝手な失意だが、それを差し引いても武道にとっては都合がよかった。
何も言わない自分を丸ごと認めてくれる甘美な特効薬に、毒の作用なんてものは微々たる苦味だ。それを補って余りある恩恵にささくれ立った心が歓喜に震える。
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