からん。軽快なドアベルの音が鳴り、店内に入ってきたのはフレアワンピースを着た可愛らしい女だった。伸びた爪は桃色に彩られている。
いらっしゃいませ、乾の声は聞こえていないのか。バイクなんて全然乗らなそうなその女は、やはり周囲を見ることなく一直線に奥で作業中の龍宮寺へと向かっていく。
「あの、龍宮寺さん」
鈴のなるような高い声だった。
あからさまな媚びた声に気づいてないのか、はたまた実家で耐性がついているのか。たぶん後者であろう。特に顔色を変えることなく、龍宮寺は「ああ、どーも」と小さく会釈をした。
「この間はありがとうございました。あの、これ。よければ召し上がってください」
そこでソファに座っていたアルバイトの万次郎は、読んでいる雑誌から顔を上げた。お手製の昼飯を届けに来てくれて、そのまま乾や九井と歓談していた三ツ谷。龍宮寺に笑いかける見知らぬ女。また、三ツ谷。二度ほど視線を往復させて、ゆっくり口を開いた。
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