聖王と英雄王「クロム、君もまた、ぼくが過ごした時よりも過酷な日々を送っていたんだね」
「…ああ、英雄王。お前が俺のことを分かってくれるのはまあ嬉しいが…」
アスク王国の王城で、二人の青い髪の男が何か語り合っている。
アリティア王国の王子で、後の時代では英雄王として語り継がれている青年・マルスと、イーリス聖王国の王子でクロム自警団の団長を務め、現在は聖王に即位した青年・クロム。
二人の王子が今、お互いの境遇について話し合いをしている最中だ。
現在ここにいるクロムは聖王の戦闘服とされる銀色の鎧装束を纏っている。彼は姉でありイーリス聖王であったエメリナが自害した事により悲しみに暮れていたが、自警団の仲間たちによる激励により聖王代理に即位する事を決意、国を背負う存在になり平和を守るために新たなる敵と戦う覚悟を決め、最終的には聖王になったのだ。
「大切な姉さんが自らの命を犠牲に俺たちを助けてしまうと気づいてしまった時、俺は姉さんを助けようとしたが、止めることができなかった…」
「エメリナがクロムたちの為に亡くなった、か…ぼくは暗黒戦争の時はドルーアの捕虜にされた姉上を仲間たちと共に助けたし、英雄戦争の時はマリクのおかげでガーネフに囚われていた姉上が解放されたから、君の境遇はぼくと似て非なるよ」
「英雄王の姉…確かエリス王女の事か」
マルスもクロムと同じく王族である姉がいた。アリティアの王女・エリスは暗黒戦争・英雄戦争に巻き込まれたものの、マルス達によって助けられ、最終的にはカダインの魔導士・マリクと結ばれたのだ。
マルス自身も暗黒戦争の後にタリスの王女・シーダと婚約し、英雄戦争の後には結婚している。姉弟共に裕福なのは誰もが羨むように見えるが…。
「姉上はぼくをアリティアの陥落から逃がしてくれた。姉上やマリクと平和な日々を過ごしていた頃やタリスでシーダと過ごしていた頃が懐かしいなぁ…」
「俺も子供の頃は姉さんとリズ、そしてフレデリクと過ごしていた。何かとヴェイクに喧嘩を売られていた時もあったが…」
「け、喧嘩を売られた、って…」
戦場に立つ前の出来事にマルスが苦笑いしつつも、二人の語り合いは続く。
「だが、俺はルフレに出会ってから、あいつに助けられている気がした。あいつの半身としても、国の為に、仲間の為に生きなければならなかった…」
「ぼくもクリスに出会ってから何か変われた気がするよ。クリスはぼくの影として、戦いを支えてくれたから。」
今度はお互いの大切な仲間について語り合い、あっという間に時間が過ぎていった。
「じゃあ、ぼくはもう君に話したいことは全て語ったから、この辺で失礼するよ」
「こちらこそだ、英雄王。今度、また話せるのを楽しみにしてるぞ」
英雄アンリを思わせる赤い衣装を纏ったマルスは、クロムの前で立ち去った。
「英雄王の境遇、か…」
クロムはぽつりと呟いた。
「今日の事はルフレに言っておこう。あいつがどういう反応をするか楽しみだ」
そう発言すると同時に立ち上がり、白く輝くマントを翻して歩く。クロムはルフレを探すかのように去っていった。