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    2022/03/06 21日の新刊予定だった漫画、絶対間に合わねぇ…ってことで全然違う内容の小説にします。現パロ大学生ルルスザ(付き合ってない)の同居短編集の予定です。尻叩きにプロローグ。まだ推敲してないんですが、蛇足が多いので本になるときはだいぶ変わると思います。

    おはよう、おやすみ、いってきます すっかり明るい空を見て、夏が近いなとスザクは思う。
     午前五時三十分。起床時刻にしては少々早いが、スザクにとってはいつものことだ。幼い頃、懇意にしてもらっていた武道教室の師匠の元で生活をしていた時期があり、そのときにすっかり身についた癖のようなものである。目覚ましがなくても、夜のどれだけ遅い時間に就寝したとしても、身体は目覚めの時間をしっかりと覚えているらしい。……引っ越し祝いにと師匠からもらった目覚まし時計は、結局今日も役目を与えられぬまま、かちかちと針の動きを進めているだけだ。
     ううん、と腕を大きく伸ばして、スザクは洗面所へと向かった。


     スザクが住んでいるのは、通っている大学から徒歩で十五分ほどのマンションである。キッチンにトイレ、風呂、洗面所があり、さらに六畳ほどのフローリングの部屋が三つ。駅から近くはないとはいえ、大学生が住むには贅沢すぎる物件だ。自身のアルバイト代のみで生活費や授業料をまかなっているスザクに、普通であればこんな部屋を借りる余裕などない。
     スザクだって、大学進学が決まり実家を出ることにした当初は、身の丈に合った安いワンルームのアパートでも借りようと思っていたのだ。だが、敷金と礼金のいらないできる限り安い物件を探していたところで、幼馴染みからある提案を受けた。それは、思いがけないルームシェアの誘いであった。
     彼——ルルーシュは、スザクが小学四年生のときに隣に引っ越してきて以来、家族ぐるみでの付き合いを続けている同い年の幼馴染みである。家族ぐるみといっても、スザクに兄弟はいないし、父親も多忙の身で滅多に家には帰ってこなかったので、スザクひとりがランペルージ家と仲良くしていただけであるが。
     それまで正月やクリスマスなどは、気を遣ってくれた父方の祖父母や武道教室の師匠が家へ招いてくれて、そこでお客さんとして過ごすのが常だった。それが、隣にルルーシュたちが引っ越してきてからは、誰に遠慮することなくのびのびと楽しめるようになった。もちろんそれまでだって十分に恵まれていたし、自分を気にかけてくれていた人たちには感謝してもし尽くせないとスザクは思っているが、それでもやはり、同年代の気の置けない友人というのは、なににも替えがたい存在だったのだ。
     しかし実を言えば、ルルーシュとの最初の出会いは最悪だった。初対面にも関わらず、二人はなんと殴り合いの喧嘩をしたのである。そこまで激しい諍いになったのには、互いに深い事情や思い違いがあったのだが……とにかく、最悪のファーストインプレッションを経てではあったが、二人はやがて互いを認め合い、信頼するまでの間柄になった。十歳からはじまった付き合いは、中学、高校まで続いた。いくら腐れ縁でもさすがにそこまでだろうと思っていたのが、なんと、大学まで同じところへ進学することになったのだ。それだけでも驚きだというのに、彼からルームシェアの誘いを受けて、スザクはさらに驚いた。ルルーシュが、わざわざ実家を出る理由が思いつかなかったのだ。
     大学は、二人の実家からも通えない距離ではない。実際、同じ地域から電車を利用して通学する学生もいるようだった。実家とはいえ、ほとんどひとり暮らし状態のスザクならいざ知らず、ルルーシュには目に入れても痛くないほど溺愛している妹と弟がいるし、父親との折り合いは少々悪いようではあるが、家族関係はおおむね良好のはずだ。社会人になる前にひとり暮らしを経験したいというのであれば、スザクとのルームシェアは本末転倒だし、考えれば考えるほどスザクにはルルーシュの誘いの意図が分からなかった。
    「別に深い理由があるわけじゃない。ただ、電車での通学が可能といっても……あんな長時間、見知らぬ他人に囲まれての移動を毎日繰り返すなんて、考えただけで気が滅入る」
    「まぁ、たしかに……それは、そうなんだけど……」
    「なんだスザク、そんなに俺との二人暮らしが気に食わないのか?」
    「そういうわけでは」
    「じゃあ決まりだな」
     そんなやり取りを経て、気がついたときには、スザクが想定していたものよりワンランクもツーランクも高い物件との契約が終了していた。驚くべきことに、それでも家賃は(ルルーシュとの折半とはいえ)スザクの考えていた予算よりはるかに安かったのである。
    「いったいどんな汚い手を使ったんだ」
    「失礼な奴だな。ちゃんと合法だ」
    「…………」


     そうして、ルルーシュとルームシェアをはじめてから二年と少し。
     試行錯誤を続けて、今では適材適所で家事を分担し、たまには喧嘩もあるものの、おおむね快適な毎日を過ごしている。最初こそ自分以外の誰かが同じ屋根の下に暮らしていることに戸惑いがあったものの、二年も経てばそれにも慣れて、むしろひとりで寝起きしていたときを忘れてしまいそうな気さえしている。
     気づけばスザクは、ルルーシュとのルームシェアを、これ以上ないほどに満喫していた。


    「えぇと……あぁ、卵がそろそろ賞味期限近いかな。あとはハム……はこの前使ったから……」
     冷蔵庫を漁りながら、朝食のメニューを考える。
     日課のランニングを終えシャワーを浴びて、現在の時刻は六時三十分。そこからルルーシュが起きる七時までの間に朝食を作るのが、ルームシェアにおけるスザクの役割の一つであった。
     夕食はふたりで分業しているが、平日はほとんどルルーシュの担当だ。ルルーシュは毎回のメニューを事前に計画立てて買い出しを行っているが、一方のスザクは冷蔵庫の中身と相談しながら、さてなにを作ろうと考えるのが常である。ルームシェアをはじめて間もない頃、ルルーシュが今夜のメニューにと準備していた食材をうっかり使ってしまい逆鱗に触れてしまったことがあるので、以来、それだけには気をつけている。それから、あまりにも長く冷蔵庫を開けているとルルーシュの小言がうるさいので、彼が起きているときにはそれにも気をつけるようにしている。
     ふと、冷蔵庫の片隅に置かれた賞味期限間近の納豆パックを見つけ、あぁそういえばこの前ルルーシュと喧嘩したんだったなぁと、スザクはなんの気なしにそんなことを思い出した。元々は三連パックだったそれは、喧嘩をした翌日の朝食メニューとして食卓に並べたものの残りである。もちろんルルーシュが納豆嫌いなことを知った上での行為だ。罪のない納豆には申し訳ないとは思ったが、それだけあのときのスザクはルルーシュに腹を立てていたのだ。納豆(しかも大粒である)を見つめるルルーシュの険しい表情と、若干涙目になりながらも無言で完食していた様を思い出しつつ、これは今度ひとりのときにこっそり食べようと決めて、スザクは冷蔵庫から卵とウインナーを取り出した。
     換気扇のスイッチを入れて、フライパンを火にかける。ほどよく温まってきた頃を見計らってウインナーを六本、菜箸でころころ転がせば、やがてじゅうじゅうと美味しそうな音が立ちはじめる。充分に焼き色がついたところで皿に移し、今度は中火にしてフライパンにマーガリンを一欠片入れた。以前は特にこだわりもなく、炒め物ならなんでもサラダ油だったのだが、ルルーシュがバターでオムレツを作っているのを見て以来(そしてその美味しさに感動して以来)、オシャレな卵料理のときはバターでとスザクは決めている。短絡だな、とルルーシュには笑われそうな気がするが。バターが溶けた頃合いに、軽く溶いた卵を流し入れて今度は弱火に。じゅわじゅわという音を聞きながら、トースターをセットする。これであと数分と置かず、ウインナーの添えられたスクランブルエッグと、こんがり焼けたトーストを食卓に並べられるはずだ。
     朝食作りを終えたスザクがテレビのスイッチを入れれば、ちょうど今日の星座占いがはじまったところだった。蟹座が三位、射手座が五位だったことを確認して、スザクはこんこんとルルーシュの部屋の扉をノックする。
    「ルルーシュ、そろそろ七時だよ」
     数秒待つが返事はない。スザクは「開けるよ」と一言断りを入れると、ノブを捻って扉を開けた。次いで、ぴっちりと几帳面に閉ざされたカーテンを勢いよく引いて、室内に日差しを取り込む。そのままベッドへと歩み寄り、突然の眩さに眉をひそめたルルーシュの肩を優しく揺らした。
    「ほら、早く起きて。射手座は五位だってさ。ラッキーアイテムは梅昆布茶」
    「……まだ…十秒ほどあるはずだろう……」
    「ルームシェアをはじめた頃にきみが言ったんじゃないか。起きてこなかったら起こしてほしいって」
     スザクが言い終えたちょうどそのとき、枕のかたわらに置かれたスマホがピピピと鳴り出した。七時のアラームである。それを緩慢な動作で止め、もぞもぞと起き上がったルルーシュに、スザクはあらためてにこりと笑った。
    「おはよう、ルルーシュ」
    「……おはよう」


     野菜はないんだけど、とスザクが前置けば、そんなものは昼と夜で補えばいいと、ルルーシュはたいして気にしていない様子で、そのままいただきますと手を合わせた。ちら、と横目で見遣ってくるそれは、スザクの反応待ちだ。
    「あぁ、召し上がれ」
    「ん」
     ルルーシュはどうやらこういうところも几帳面らしい、とスザクが知ったのは、実はルームシェアをはじめてからのことである。
     いただきますは手を合わせて、作った相手に伝わったことを確認してから食べはじめる。おはようとおやすみだって欠かさない。
     いつだか、ルルーシュが一日中部屋に閉じこもってレポートを作成していたことがあった。彼にしては珍しいが、どうも手抜きの計算を見誤ったらしい。自業自得ではあったが、邪魔をしてはいけないとスザクもその日は一日、自分の部屋でおとなしく過ごしていたのだ。……やがて夜も深まった頃、それは起こった。そろそろ寝なければとスザクがベッドに潜りこもうとしたその瞬間、バンッ、と、勢いよく部屋の戸が開かれたのである。何事かと振り向けば、そこに立っていたのは、目の下に深い隈をつくった疲労困憊といった様子のルルーシュだった。幽霊も逃げ出しそうな様相であった。突然の出来事に驚き固まるスザクに、対するルルーシュは、どうにかこうにか声を絞り出して「おやすみ」とだけ告げると、ふらふらと自分の部屋へ戻っていったのだった。律儀なものだと、スザクは改めてルルーシュを感心した。
     それ以外にも、いってきますやおかえりの挨拶も、二人は必ず交わすことにしている。喧嘩をしているときも最低限のやり取りは行うべきだと、ルームシェアをはじめた頃にあらかじめ二人で決めた約束だった。
    「今日は一限からだったか?」
    「ん? ……あぁ、講義は午前中で終わるけれど、バイトがあるから帰りは八時くらいになるかな」
    「じゃあ夕食もその時間だな」
     今夜の当番であるルルーシュが、ウインナーを咀嚼しながら思案顔になる。かれこれ三年目になるルルーシュとのルームシェアだが、いまだに彼の作る夕食は楽しみで仕方がない。スザクは特にルルーシュの作るハンバーグが好きで(特にデミグラスソースが絶品だ)、誕生日などのご馳走には必ずそれをリクエストするくらいだ。あの味を思い出しながら、昨日手に取った近所のスーパーのチラシを思い起こす。少しの下心とともに、あのさ、と口を開いた。
    「……大学前のスーパー、今日は挽肉が安いよ」
    「ハンバーグは先週作ったばかりだろう」
    「べ、別にそういうわけでは……」
    「顔に書いてあるんだよ。お前は分かりやすすぎる」
    「……そうかな」
    「あぁ」
     あっさりと図星を突かれて、自分でも分かるほどに顔が赤くなる。
    「……ハンバーグはまたそのうちに、だな。今日はキーマカレーにしよう。野菜も補えるだろうし、余りは冷凍しておけば、誰かさんが腹を空かせて帰ってきたときにすぐ食べられる」
    「人を食い意地の塊みたいに言わないでくれよ……」
     スザクが拗ねたように口を尖らせれば、ルルーシュはとうとう堪えきれなくなったらしく、ぷっと吹き出し笑いはじめた。まるでてのひらの上で転がされているようで、なんだか悔しくもなるのだけれど、けれどそれが嫌いではないから、結局はスザクもつられて笑ってしまう。


    「じゃあ僕、先に行くよ。ゴミだけ持っていくね」
    「あぁ。俺は二限からだしな。洗濯物を干してから出るよ」
    「ありがとう。よろしく」
     今日は可燃ゴミの日だ。一つにまとめたゴミを片手で持ちながら、スザクは玄関へと歩いていく。時刻は八時ちょっと過ぎ。ゆっくり歩いても、一限の講義までには充分に間に合うだろう。そんなことを考えながらドアノブに手をかけたときだ。
    「スザク」
     背中越しに、声をかけられた。振り向けば、いつの間に来ていたのか、ルルーシュがすぐそこに立っていた。
    「なんだい?」
    「…………」
     問うが、ルルーシュは佇んだまま、返事をするつもりはないらしかった。困ったスザクが首を傾げるが、ルルーシュは無言でこちらを見つめ続けるだけだ。
     二人の間に無言が落ちる。きっと、満足のいく答えが得られるまでルルーシュはスザクを解放してくれないだろう。仕方がないな、と心の中で嘆息して、スザクはさっと視線を巡らせた。着替えは済ませているが、一緒に外に出ようとここまで来たのではないだろう。手になにか持っていることもなく、なにか忘れ物を届けにきてくれたというわけでもなさそうだった。……と、そこまで考えて、あ、とスザクは正解に思い当たる。
     そうだ、ひとつ、忘れ物があった。とても大切な忘れ物が。
     むずむずしたこそばゆさを感じながら、ぐ、と拳を握りしめる。この二年間で、スザクにできた新しい習慣。
    「……いってきます」
    「あぁ、いってらっしゃい」
     ルルーシュの満足そうな表情を見るに、スザクの答えはどうやら「当たり」だったらしい。それにほっとして、同時にこみあげるあたたかなものを感じながら、スザクは「うん」と笑って家を出たのだった。


     ルルーシュとルームシェアをはじめて二年と少し。ルルーシュとの生活は、スザクに、新鮮な驚きといくつもの発見をもたらした。
     スザクはそれまで知らなかったのだ。おはようを言える相手がいることが、いってらっしゃいと送ってくれる誰かがいることが、こんなにも嬉しいことだったなんて。帰ってきた家に灯りがともっている、玄関を開けてただいまを言えば、おかえりの声が返ってくる、それだけで、こんなにもあたたかな気持ちになれるだなんて。
     今夜はお腹を空かせて帰ろう、とスザクは心に決めて、歩く足を速めた。
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    x_spr1

    SPUR ME2022/03/06 21日の新刊予定だった漫画、絶対間に合わねぇ…ってことで全然違う内容の小説にします。現パロ大学生ルルスザ(付き合ってない)の同居短編集の予定です。尻叩きにプロローグ。まだ推敲してないんですが、蛇足が多いので本になるときはだいぶ変わると思います。
    おはよう、おやすみ、いってきます すっかり明るい空を見て、夏が近いなとスザクは思う。
     午前五時三十分。起床時刻にしては少々早いが、スザクにとってはいつものことだ。幼い頃、懇意にしてもらっていた武道教室の師匠の元で生活をしていた時期があり、そのときにすっかり身についた癖のようなものである。目覚ましがなくても、夜のどれだけ遅い時間に就寝したとしても、身体は目覚めの時間をしっかりと覚えているらしい。……引っ越し祝いにと師匠からもらった目覚まし時計は、結局今日も役目を与えられぬまま、かちかちと針の動きを進めているだけだ。
     ううん、と腕を大きく伸ばして、スザクは洗面所へと向かった。


     スザクが住んでいるのは、通っている大学から徒歩で十五分ほどのマンションである。キッチンにトイレ、風呂、洗面所があり、さらに六畳ほどのフローリングの部屋が三つ。駅から近くはないとはいえ、大学生が住むには贅沢すぎる物件だ。自身のアルバイト代のみで生活費や授業料をまかなっているスザクに、普通であればこんな部屋を借りる余裕などない。
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