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    namo_kabe_sysy

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    800文字(前後)チャレンジ
    50
    アル空 空くん独白。眠るアルベドくんとの話。

    #アル空
    nullAndVoid
    ##800文字(前後)チャレンジ

    50 アル空三日前のこと。「この日の十八時、モンドの研究室に来て欲しい」とアルベドから頼まれた空は、定刻通り研究室前に到着していた。手土産にはアルベドが好んで食べるスイーツを選び、それを二人分持ってきている。
    「アルベド、来たよー。入ってもいい?」
    実験中というプレートはさがっていても、構わず入っておいでと最初に言われている。そのためノックをしつつ室内に向けて声を発するが、中からの応答はなく、扉も開かれないままだった。
    珍しいな……と首を傾げた空は、途中スクロースと会った時に、どうやらこの数日間、実験の大詰めでほとんど寝ていない様子だと聞かされていたことを思い出す。効率を重視するアルベドでも、様々な事情があって無理をしていたのかもしれない。それならばおそらく、休憩のため睡眠をとっている可能性もある。
    念のために様子を見て日を改めようと内心で決めた空は、鍵のかかっていない扉をなるべく音を立てないようにそっと開いた。足を踏み入れた室内の照明は落とされていて、頼れる光は月が漂わせる薄ぼんやりとしたものだけだった。
    城内の一角にあるアルベドのために用意された研究室は、実験をするための設備や薬品、書物などが豊富に用意されていて、初めて訪れた時は雪山の拠点とはまた違う雰囲気に圧倒されていた。
    触れていいものといけないものの区別がつかない空は、事故が起きないようにアルベドの側から離れず、実験器具から距離を置いて移動することが常で、今夜もその行動パターンは同じだった。とはいっても、アルベドの性格もあってか、相当な数の道具や薬品、書物たちは決められたスペースに納められていることが殆どで、足の踏み場がない、といった事態はこれまで遭遇したことがない。今も歩いている床面はきちんと模様まで見えていて、相変わらず整頓がされた部屋だと実感する。
    壁に沿って置いてある大きな作業テーブルを過ぎると、その先には棚が四本連なっている壁と、光を取り込む窓がある。彼は大抵この場所にいることを知っている空が足音を殺しながら近づいてみると、そこにはテーブルに突っ伏して眠るアルベドの姿があった。
    「やっぱり寝てたか……」
    反応がないからもしかしてとは思ったが、約束をしていた日にこうして迎えられるのは初めてのことで、空は少し残念なような、それでも少しおかしいような、不思議な気持ちでいた。
    実験の記録途中だったのだろうか、利き手の下にはクリーム色をした用紙の挟まれたバインダーがあり、その上には難解な数式や文字列が規則正しく並んでいる。転がったペンは彼が愛用しているもので、かつて簡易なスケッチをしたいと言われた時――対象はもちろん空自身だった時――に滑らせていたものと同じだった。
    空は近くにあった丸椅子に腰掛けて、持ってきた土産は道具のないテーブルの上に乗せた。それからアルベドの隣に落ち着くと、無防備に眠る錬金術師を見遣る。
    やわらかな月光のベールが、眠るアルベドを包み込んでいる。それは彼の儚さをより演出しているようだった。
    陶器のような白すぎる肌。閉じられた瞼と、隠せない長いまつ毛。頬に落ちる甘いミルクティーの色をした髪の毛先が、繊細な影を作っている。
    瞳の色も確かめられず、何も語らない彼を見ていると、人間とは違う、かけ離れた存在であることをじわりと認識してしまう。「それは間違っていないよ。正しい理解だ」と言われたことはある。
    そうやって諭されても、素直に受け入れるには時間を要した。今も、そのままの彼を飲み込めているのか時々自信がない。
    その度にアルベドの瞳を見つめて、声を身体に浸透させて、手を繋いでは存在を確かめたりしている。肌を重ねて、粘液を交換して、身体の中心でひとつになることも、おそらくその不安を取り払う一環でしているのだろう。それは同時に、枯れることのない湧き出す泉のような、美しいだけでは終われない愛情が起こす衝動でもある。
    「……アルベド」
    絞り出した声はいつになく細い。名前を呼べば、何かが変わるだろうかと期待した。それでも彼の瞼は開くことなく、かわりに聴こえてくるのは、とても小さな、規則的で可愛らしい寝息だけ。
    「…………ほんと、よく寝てるなぁ。実験、大変だったのかな。……お疲れ様、アルベド。起きたらちゃんと、俺の相手してよね?」
    この部屋に招かれた用事のことも知らないままだ。起きた時は、まずその話から始めよう。持ってきたスイーツは常温保存できるから問題ないとして、期待で膨らませた胸の内は完全に行き場を失くしてしまった。
    これについてはアルベドにめいっぱい責任を取ってもらわなきゃ。きっと、いくつも「ごめん」を聞くことになるのかも。これまでこんなこと一度もなかったし、どんなふうに機嫌を取ってくるのか色々想像してしまう。
    その答え合わせは、眠りからさめたそのあとに。
    「――おやすみ、いい夢を」
    傍らで眠る白亜の騎士と同じく、テーブルに寝そべった空は、物言わぬ美貌をしばし眺めたあと、自らの瞼もそっと閉じるのだった。
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