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    namo_kabe_sysy

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    800文字(前後)チャレンジ
    62
    アル空 CP要素うすめ、クレーちゃんに絵本読み聞かせする空くんの話。

    #アル空
    nullAndVoid
    ##800文字(前後)チャレンジ

    62 アル空騎士団本部の上層階、アルベドの工房がある隣の一室。
    壁を大きくくり抜いたように嵌め込まれた窓からは、午後のぽかぽかした陽光が何にも遮られることなく差し込み、白くつやつやした床面を照らしている。
    部屋の中は来客用に設られたガラステーブルとそれを囲むようにふたつのソファが行儀よく並び、お茶を淹れるための簡素なキッチンもある。壁側には空き時間を凌ぐための本やチェス盤棚が、あまり圧迫感のないように整頓されていた。
    ガラステーブルの上には、空になったティーカップが三つと、ドドコの冒険が綴られた絵本。ソファにはすやすや眠るクレーとパイモンが寄り添っていて、そんな二人を見守るように腰掛ける空がいた。

    空とパイモンが騎士団を訪れたのは、ジンからの依頼を受けるためだった。
    モンド周辺に訪れている不審な人物を追い、可能であれば捕縛してもらいたいというものだ。人物の特徴を伝えられた二人はさっそく周辺を探索した。すると城にほど近い森の茂みの中に、ぐったりとした男を発見する。見目や持ち物、装飾品の特徴が事前に伝えられていたものとほぼ一致したため、治癒を施すためにも騎士団に引き渡すと、まさに目標としていた人物だったようで、その場で報酬を貰い解散となった。
    広いエントランスに出ると、ちょうど入り口からクレーとアルベドが入ってくるのが見えた。声を掛けるとクレーは元気に駆け寄ってきて「パイモンちゃんと栄誉騎士のお兄ちゃんだ!」とにこにこ笑顔を振りまいている。一方アルベドはすこし疲れを感じさせる面持ちで、クレーの後を追うように空のもとへ歩いてきた。
    「アルベド、何かあったの? ちょっとぐったりしてるように見えるけど」
    「実験が少し立て込んでいてね。そろそろ落ち着きそうなんだけど、クレーとの時間を作るのも疎かにしたくなくて」
    「なるほど……それなら、今日は俺とパイモンでクレーと遊んでようか?」
    「え?」
    「いいのっ!?」
    あまり解決にはならないかもしれない。そもそもアルベドがクレーと過ごす時間を作ることが要だ。ここでその役を代わりに担っても、本来アルベドが目的とすることは達成できないだろう。
    ただ実験の進捗には多少なりといい影響を与えられるだろうと踏んでの提案だった。
    「俺は構わないよ。クレーも、アルベドとは遊べないけど……それでもよければ」
    「大丈夫! アルベドお兄ちゃんと遊べないのは寂しいけど……パイモンちゃんと栄誉騎士のお兄ちゃんと遊ぶのも楽しいもん!」
    「よっし! それじゃあクレー、何して遊ぶ? オイラがなんでも聞いてやるぞ!」
    ふよふよとパイモンがクレーの側に寄ると、クレーは鞄から一冊の本を取り出して「一緒にドドコの冒険を読んでほしいの!」と弾んだ声で言う。
    パイモンが受け取って中をめくってみると、稲妻で行われた容彩祭で宵宮と共に編集した内容であるとすぐわかる。
    しかしあの時は単独での本にはならず、テイワットガイドと一緒に発行されたはずだが、クレーが取り出したのは最初から最後までドドコとの冒険が綴られていた。
    どういうことだろうと首を傾げていると、アルベドが補ってくれる。
    「稲妻で発行されたものも十分完成されていたけれど、あまりたくさん読んでいると本が傷んでしまうから……クレー専用で一冊、新しく作った本なんだ」
    「え!? アルベド、そんなこともできるのかっ」
    「行秋にも協力してもらったから、ボク一人で出来たわけではないよ」
    「でも凄いことだろ……! なあ空?」
    「うん、俺も凄いと思う」
    思ったまま述べると、アルベドはどこか照れたように微笑んで「ありがとう」と答える。自慢というものをする気配のなさに、本当に謙虚な性格だよなぁと空は小さく口角を上げた。
    「えへへっ、クレーもこの本を貰ったとき、すっごく嬉しかったの! だからね、パイモンちゃんたちにも読んで欲しいんだ」
    「おう、いいぜ!」
    したいことも決まったところで、空たちはアルベドに案内された一室に落ち着いた。紅茶と一緒にアルベドから出されたのはクッキーやチョコレートだ。もしお腹が空いたら、しまってある材料を使って料理をしても構わないからと付け足される。
    「本当は食事の用意もできれば良かったのだけど……」
    「気にしないで。休憩できそうなら寄ってくれればいいから」
    「わかった。……それじゃあ、クレーをよろしく頼んだよ」
    「おう! オイラたちに任せとけ!」
    アルベドを見送った三人は、さっそくソファに腰掛ける。クレーを真ん中にして、空とパイモンが左右から開かれた絵本を覗き込んでいた。
    一度目を通しているとはいえ、新しい装丁でうまれた本はまったく別物のように思えた。稲妻で発行されたものも味があって好ましかったが、クレーのためだけに作られた世界で一冊だけのこの本も、他に替がないという点も含めて一種の宝物のようだと、空は文字を読みあげながら思っていた。
    ドドコが織りなす物語。クレーが描いた冒険譚を読むのはあまりスムーズには進まなかった。途中でクレーが思い出したようにドドコの魅力について語ったり、パイモンが挿絵の色使いを褒めると制作秘話も明かされたりするためだ。クレーの話す内容は、稲妻で盗み聞きしていて知っているものもあれば、この日まで知らなかったこともあった。
    終盤まで進んだところで、少し休もうかと三人はそれぞれお茶を飲み菓子を口にする。アルベドの淹れたお茶はすっかりぬるくなっていたが、時間が経っても美味しさは変わらなかった。
    「クレーはドドコが大好きなんだな」
    パイモンがクッキーを頬張りながら言うと、間をおかずにクレーは元気に頷いた。
    「うん! いつも一緒にいてくれるドドコは、大好きなお友達だよ! あ、パイモンちゃんのことも、クレーは大好きだよ!」
    「へへっ、ありがとな、クレー!」
    賑やかな二人を見守り、程よく糖分を摂取して、物語を再開してからしばらく経った頃。こくり、こくりと、クレーは眠そうに船を漕ぎ始めた。
    眠気は伝染するようで、パイモンも同じような様子になっていた。クレーに寄りかかり、目を擦ってなんとか耐えようとしているが、すぐにでも瞼が塞がってしまいそうだった。
    「クレー、パイモン。眠いなら少し昼寝しよっか」
    「でも……まだ……ドドコが……」
    「ドドコならきっと、クレーが起きるまで待っててくれるよ」
    「……ほんとぉ?」
    「本当。……パイモンも、起きてられないんでしょ? 無理しないで寝ていいよ」
    「ん〜……わかった……」
    あとは頼んだぞ、と戦地で分かれる間際のような一言を呟いて、パイモンは完全に両眼を閉じる。クレーもそれに続くようにして、パイモンに寄り添うように寝息を立て始めた。
    空は座ったままのふたりをソファに横たえさせる。起こしてしまわないようにゆっくりと静かに。クレーもパイモンもそこまで大きな体躯をしていないため、幅広のソファに並んでも、落ちる心配はなさそうだった。
    クッキーを齧り、残った紅茶を飲み干す。カップの底が見えて、あとで洗っておこうと思いつつソーサーに戻した。
    手持ち無沙汰になってしまったな、何をしていようかと考え始めた時だった。部屋の扉がノックされ、音がころりと響いてくる。ソファからドアまでの距離は大した長さはないものの、外に聞こえるように声を上げるのは憚られる。
    空はそっと立ち上がり、返事をせずに片側の扉を開いた。
    「アルベド! 実験の方は落ち着いたの?」
    「ああ、おかげさまでね。……クレーとパイモンは?」
    「さっき寝ちゃったとこ」
    だから静かにね、と人差し指を立てて唇の前に持ってきた空に、アルベドはわかったと微笑んだ。
    空いたカップを下げて、空とアルベドは二人分の紅茶を淹れる。クッキーはほとんどパイモンが食べてしまったため、補充のために新しく缶を開けた。
    「起きたらパイモンがまた平らげちゃいそうだなぁ」と空が苦笑すると、「それはそれで、クッキーも喜ぶんじゃないかな」とさして気にするふうでもなく、アルベドは返す。
    クレーたちが眠る向かいにあるソファに、空とアルベドは腰掛ける。水場を使っていたが、その程度の音では起きる様子は伺えない。どうやら深くまで眠りの海を泳いでいるらしかった。時折寝言も聞こえるが、何を言っているのかははっきり掴めない。ただ表情はふたりとも穏やかで、悪夢の類は見ていないのだろうと勝手に安堵する。
    「よく眠ってる……何か特別なことをしたのかい?」
    あまり見ない光景なのだろうか、問いかけるアルベドに空は「特にはなにも」と首を振った。
    「本を読んでただけだよ。クレーが俺に読み聞かせをしてほしいって言うから、書いてあることを語ってただけ」
    きっと読み聞かせの質はアルベドの方が上だろうけど、と紅茶を飲む空に、そんなことはないと思うよ、と謙遜するアルベドの声がする。
    「夜眠る前、ボクもクレーに絵本を読み聞かせるけど、最初のうちは眠るまでに時間がかかっていたよ。でもキミは、今日初めて読み聞かせをしてくれただろう? 一回目であんなによく眠れるように導けるのは、才能だと思うな」
    「もう、褒めすぎ。偶然だってば。時々興奮気味にドドコの話をしてくれてたし、疲れもあったんじゃないかな?」
    「クレーがそれだけで疲れる子だと思う?」
    「……うーん、それを言われると……」
    「ほら、ね。……もしかして、キミの声にはなにか特別な音があるのかも。聞く人をリラックスさせるような、特殊な声だったりしない?」
    「しないよ。そんなに言うなら試してみる?」
    空はテーブルにあった絵本に手を伸ばす。ちょうど中盤あたりのページを開いて、アルベドにも見えるよう膝上に置いた。
    「クレーにしたみたいに読んで聞かせてあげる。で、もしアルベドも眠くなってきたら……」
    「ボクの予想を認めてくれる?」
    「三パーセントくらいは」
    「それはちょっと少ないと思うけど」
    「だってもし眠くなったとしても、アルベドがそうなる理由はいくらでもあるからね。今日だって、さっきまで実験で忙しかったみたいだし。他にも、いろいろ頑張ってるんでしょ?」
    「ふむ、それを言われると……」
    強く否定はできないな、と嘆息して、アルベドは出したばかりのクッキーをぱくりと一口で食べてしまう。そのあと続けて紅茶も一口。こくんと動く喉元の星が愛しく思えた。
    「ほら、ね。……でも、物は試しとも言うし。読んでみるよ。俺の声だけが理由にはならないと思うけど、もし眠くなったら寝てもらって構わないから」
    「いいのかい? それなら……」
    言うなりアルベドは空との間にあった隙間をぴたりと埋める。アルベドの右腕と、空の左腕がくっついて、肌色がのぞく場所が触れ合うと互いの体温が伝わっていった。
    「……近すぎる気がする」
    「でもこうしていた方が、キミの声がより良く聴こえると思うから。キミも、あまり声を大きくする必要がなくなるだろう? そうすれば、クレーたちを起こさずに済むと思ってね」
    「それっぽいことばっかり言うなぁ。……いいけどさ」
    「ふふ、許してくれるんだ?」
    くっついたせいで、アルベドの髪が空の頬の上で揺れる。くすぐったい、と身を捩っても、アルベドは離れない。どころか、こつんと頭部を寄せてきて、わずかに自重をかけつつ体を空に委ねていた。
    なんだか甘えてるみたいだ。表情こそ普段とあまり変わりないように見えるが、漂わせる雰囲気がどことなく弱々しい。
    空からも、アルベドに寄りかかる。互いに支え合うように肩を合わせていると、アルベドの手のひらが、本の上にある空の手に重なった。
    「アルベド?」
    「……キミは少し、ボクに油断しすぎじゃないかな」
    「うーん……そうかな。そうかも」
    「あっさり認めるね」
    「否定したって仕方ないもの。君は俺にとって特別なわけだし。だから……アルベドも、油断してくれていいからね」
    「……ふふっ。それなら、その言葉に甘えようかな」
    空の手指の間に、アルベドの指が絡まる。応えるようにして指を擦り合わせ、きゅっと握り返した。
    物語はちょうどパイモンが褒めた挿絵のあるページから始まる。アルベドにだけ聴こえる声のボリュームで、空は囁くように、編まれた冒険譚を読み上げていくのだった。
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