一休み「なんだ、ここに居たのか」
望舒旅館のオーナーに魈の所在を尋ねてみると、ここ数日姿を見ていないと返答があった。
いつもなら出直すところだが、こっそりと彼の気配を辿ってみると、意外と近くにいることがわかる。オーナーに礼を告げ、魈の居る方向へ足を進める。望舒旅館の近くの木々の下に魈は居た。
体躯をぐっと丸め、陽が当たらない雑草の上で眠っている。鍾離が声を掛けたにも関わらず、彼は身動ぎ一つしなかった。相当疲れているのか、或いは……。
最悪のケースを想定し、魈に近寄り座り込んでよくよく観察してみると、僅かながらに胸は上下していた。良かった、無事であるようだ。
気付かれないように手を翳し、魈へと神力を送る。そこまで毎日戦いに明け暮れなくても良いと何度も伝えてはいるが、彼は意外と頑固であることは鍾離もわかってはいる。
眠りを妨げるのは本意ではない。起きたらまた姿を消して降魔へと向かってしまうのだろう。折角姿が見れたのだ。もう少しだけ彼の傍にいるのも悪くない。
懐から書物を取り出し、続きを読み進める。木々の音、鳥のさえずる声、なるほど、休むには適した場所である。
たまにはゆったりとした休息も必要だ。俺も、お前もな。