Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    namo_kabe_sysy

    @namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌻 ⛅ 🔶 💚
    POIPOI 132

    namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow

    お題「夢」
    スメールの魔神任務ネタが含まれます。
    多分アル空だと思う…あんまり明るくない…かも…。

    #アル空
    nullAndVoid
    ##アルベドワンドロワンライ

    生存センサーの誤作動「繰り返し同じ夢を?」
    「うん。しかもそのことに気づかないから、抜け出すまで大変だったよ」
     スメールでの出来事を、雪山にあるアルベドの拠点で話していた。お供にしているのはアルベドが煮込んでくれたコンソメスープ。以前にも食したものだが、今日の味付けにはスメールのお土産として持ってきたスパイスをふりかけたため、優しい中にも少し尖ったような香りが鼻腔をくすぐっている。好みが分かれると思い試してもらうまで不安だったが、アルベドも気に入ってくれたようで、彼のスプーンが進むのも早かった。
     アーカーシャ端末を身につけた後、スメールシティで繰り返した夢の話をすると、アルベドは興味深そうな面持ちで詳細を求めた。彼はよく、空の旅の話を聞きたがる。今日も多分に漏れず、続きを期待する視線を向けられていた。
     些細なことでも話してほしいとせがむのは、彼自身が工房や拠点から身動きが取れない間、空がどんな経験をしてきたのか、どんなものを発見し、誰と出会ったのかを少しでも共有したいからだった。その時に隣にいられなかったとしても、いつの日か共に冒険できる時に、少しでも空の助けになれるよう振る舞いたいという理由らしい。
     真面目で律儀で、しかもそのことに照れ臭さもないのか、真っ直ぐ伝えてくるアルベドを見つめ返すことは難しかった。自身の知識欲を満たすだけだと、傲慢に言ってくれた方がまだ気が楽だったけれど、彼はそんな性格ではなかったなと思い直している。
    「――なるほど。何者かによる操作だったのか」
     一通りを語り終えた空がスープを飲み干すと、片付けておくよと彼の手が伸ばされる。礼を言って手渡すと、アルベドも空に続いて、注いだスープを完食していた。息をつく仕草だが、彼の呼気は空中に白を残さない。その代わりを果たそうとしているのか、二人の前にある鍋がもくもく湯気を上らせている。
    「そうだね。誰が操作したのかも、どうしてそんなことをしたのかも、まだわかってないけど」
    「怖くはないの? 今回は気付けたからよかったものの、そうでなければ……」
    「ドニアザードのこともあったし、全く怖くなかったと言えば嘘になるけど。でも、これまでも厄介なことにはたくさん巻き込まれてきたからなあ。ちょっと感覚は鈍っているかも」
     そもそも恐怖心を育てるばかりでは、妹を探す旅なんて続けられない気もする。
     怖いことがない訳ではない。超常現象のような、現実では起こり得ないと思える出来事に巻き込まれ、さまざまな問題を解決していった末にようやく出口を見つけるといったことは何度か経験している。自分の力だけではなく仲間の協力もあってくぐり抜けてきた試練のようなことだって幾らもあった。その度に結果として「とりあえず死なずにいられた」経験値が積み重なっていき、瞬間的な怖れを感じても、何とかなるし何とかする他にない、と割り切れるようになったのかもしれない。
    「いいことでもあるけれど、少し心配だな。痛みもそうだけれど、そういったマイナスのセンサーはキミを生かすものでもある。あまり、鈍化させないでほしい」
    「ふふ、ありがと。でも大丈夫だよ。俺より先にパイモンが怖がってくれたり怒ってくれたりもするし。それを見てると冷静になれるっていうか」
    「ふむ、なんとなくわかるような気がするね」
    「でしょ? それに、今回の〝同じ一日がずっと続く夢〟は、場合によっては喜んで受け入れたかもって思ったんだ」
    「……それは、どういう?」
    「んー、例えば、アルベドと一日一緒にいる日が続いてたら、覚めなくていいのになって、思ったかもしれない」
     洞穴が大きく開けた口から、冷たい風が容赦なく入ってくる。鍋を温める焚き火が殴られたように横へ伸びたが、風が弱まると何事もなかったように真上へと赤色を燃やし続けた。
     ぱちぱち薪が爆ぜる音の中に、隣で黙っていたアルベドが唾を飲んだ音が混じる。そっと恋人の顔を見やると、少し戸惑った表情を浮かべているのが目に映った。
    「……嬉しいけれど、あまり喜べないな」
    「はは、ダメかぁ」
    「だってそれは、キミが眠ったまま目覚めないということだろう? それだと、ボクがキミと会えないままだ。キミはキミで、夢の中の何一つ変わらないボクを見てる。……それは、寂しいと思った」
     先細る声は、かじかんだ耳に最後まで届いた。
     見ていて幸せな夢ならば、繰り返しだと気づいたとしても、そのままでいいと主張した可能性はあった。そこに未来など存在せず、あるのは経験しすぎた今日だけだ。だとしても、彼と二人でいられるなら、それはそれで悪くないと思ったのは確かだった。
     そしてわざわざ口にしたのは、彼の反応を試すためだったのかもしれない。喜ぶか、怒るか、嘆くのか――自身の言葉でアルベドがどんな顔を見せるのか、知りたいと望んでしまった。
     半分本音に染まっている台詞を、戯れのように転がした後。返った言葉を咀嚼する。
    「……うん。それもそうだね。ごめん、アルベド」
     切なげに細められるアイスブルーに、空の心は満たされていく。少し、意地の悪いことをしてしまったかも。おそらく反対の心地になっているだろう恋人をしばし眺めて、吐く息を白く染めた空は、スパイスの香る唇を、懺悔するように塞ぐのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works