蛍の見せた夢橋の上から、水面の上にザァザァと音を立てて揺れている細長い草原の中に、あの人の影を見た気がした
ちら、ちか、ちかちかと、青緑の光を力強く点滅させながら光っているのは蛍のはずなのに
嗚呼、また光った
力強い、あの人の背中を眺めているようだ
タラップを降りて、夕陽に煌めく縛帯の色とはまた違っているけれども、あの煌めきに似ているような気がしてくる
風が強く吹く
ざぁ、と揺れる草原に強くしがみついた蛍が光る
会いたい、そう強く願いながら瞬きをすると開いた瞳を通してあの人が草原に立っている姿が見えた
足の下が青緑色に光っている
背中だけなのに、あの人だと実感できた
「和さん」
ぽつりと口からあの人の名前がこぼれ落ちた
ぱちんと目を瞬くとぽろりと涙が雫になって掴んでいた手元に落ちて跡を残した
目を上げるとあの人がこちらを見つめていた
あの頃と変わらない美しいままで
「和さん」
もう一度名前を呼ぶと、困ったように微笑まれた
手を伸ばしても、橋から降りることはできなくて届くわけもなくて
あの時、最後にあの人がしたように手を振られた
嗚呼、もう会えないのか
せめて網膜に、脳内に焼き付けておこうと目を見開く
目が乾く、でも目を閉じてはいけない
綺麗な色に包まれてゆくあの人は美しい
どこまでも美しい
限界だ、さようなら和さん
ぱちんと目を閉じるとまたな、塚本とあの人の声が頭の中に響いた
瞳を開くと、ざぁと風に揺れた草が揺れている
ちょろちょろと水が流れる音が聞こえてきた
お父さん、蛍と子供が話している声が聞こえてきた
幻だろうか、蛍が見せた
瞳を閉じてあの人の姿を思い出す
ありがとうございます、そう言って俺は橋から離れた
来年も、再来年も
あの人に会いにこよう