たまには雛でも飼うか。
夜行梟が鷹族の子供を引き取ったのは、そういう気まぐれからだった。
人間の手により滅ぼされた鷹族の生き残りだった。血塗れの母親が子供を抱き抱えて罪の森に駆け込んできたのだ。子供を託して母親は死に、鷹族の里は焼け落ちたと知らせが入り、あとには子供ひとりが遺された。この痛ましい幼子をどうするかで罪の森の大人たちは悩んだ。皆誰もがわが身が可愛い。勝手の知らない、それも鷹の獣人の子を養育するなど進んで買って出る者はいなかった。ので、罪の森の守り人たる夜行梟が気まぐれを起こす羽目になった。「どいつもこいつも成っていないね」と悪態を吐き、子供を抱き上げた「こんなに美しいお前を放っておくなんて」そう言って微笑みかけた。白い前髪を鼻頭で探り、褐色の肌を持つ額に唇を添わせて祝福のキスをした。
そういう訳で引き取り手は夜行梟に決まった。気まぐれで引き受けたとはいえ生半可な養育は守り人として許されない。兼ねてよりあった知識に加え、夜行梟はありったけの養育本を買い込み、鷹族の里の近隣に住んでいた獣人の元まで足を運んで話を聞き、時に失敗しながら、しかし概ねの時間を笑顔で過ごした。「お前の髪は空に浮かぶ美しい雲のようだね」と言いながら髪を撫で、「お前の瞳をごらん。まるで大空のようじゃないか」と言いながら額を合わせて瞳を見つめ、「お前は立派な鷹族の戦士なのだからね」と言いながら伸びた背丈を撫であげ、「私の自慢の子。可愛い子」と囁きながら抱きしめた。鷹族の生き残りは夜行梟のいとし子へと移ろい、背丈こそ夜行梟を超えなかったものの、その身は夜行梟の柳のようだと呼ばれる細見より幾らも逞しいものと成長した。
結果、
その子供に求愛された。
「どうすればいいと思う?」
「結婚すれば?」
「ふざけるな馬鹿土竜」