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    soseki1_1

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    スパイがバレたノワを保護する大佐の大ノワ傭占(大佐🤕×ノワ🔮)の日常

    「君は保護されて然るべき存在だ。検査の結果、心身に多数の損傷が見られる。君の経過観察は私が請け負うことになった」
     地獄の果てにしては随分優しいふりをされた。
    「ナワーブ・サベダー。階級は大佐だ。君が良くなるまで、よろしく頼むよ」
     僕を迎えた男は、こんな最果てに立っているくせにとても静かな顔をしていた。


    夜明け前に目を覚ます。体に染み付いた癖は一向に抜けることなく、今日も今日とて僕の目は暗い天井を見た。瞼を下ろして、開けて、これをゆっくり三度繰り返してから体を起こす。一度目を開けてしまえばもう二度と夢の中に戻れないとは知っているので、これはてんで無駄な行為だ。でも「日々をゆっくり過ごせ」という命令があるから、念の為行なっている。この命令は実のところ命令なんかじゃなくて、随行できなくたって叱られないし打たれない。食事を抜かれたりしない。解っているのにどうにか熟そうとする。これも、癖の一種だ。
     サイドテーブルに置いたタオルを持ってベッドを降りる。冷や汗だらけの体を拭うためのタオルだ。シャワーの水が床を叩く音で彼を起こしかねないので、いつもタオルで拭っている。でも今日と一昨日は夢を見なかったので、乾いたまま脱衣所に戻せる。これに、僕は安心した。昨日は夢を見て全身汗みずくのまま起きたから、使うしかなかった。
     キッチンの照明を灯して冷蔵庫を開ける。最初の頃は、つまり、僕がここで暮らすようになって始めの頃は空っぽだった冷たい箱には、今や幾らかの食材とボトルが詰め込まれている。玄関に備えられた鍵付きのボックスには少し冷めた料理ではなく、原型を留めた野菜やら肉やらが収まるようになった。「料理の過程は脳と心の整理を効率よく行う効果がある」当時まだ新品同然だったキッチン道具の居所を説明しながら彼は言った「医者の受け売りだ。私には無用だったが、君は違うかもしれない」貴方に無用なのに? とは、聞かなかった。その頃、彼はまだ私や君という呼称を使っていて、僕も命令通りに従うばかりの人形だったので、僕は必要以上に口を開かなかった。ただ「はい」とだけ頷いた。この命令を、僕は今も守っている。これが命令ではなくお願いや提案だと、今はもう解っているけど、それでも従っている。脳と心の整理に役立っているのかはわからない。役立たなくても、続けたいと思う。
    「サフィール」
     声はいつもサラダを作り終えた頃に届く。僕は、実はその声を楽しみにしているので、時々聞こえなかったふりをする。「サフィ」と、二度目の声が聞こえたら必ず手を止めて振り返る。キッチンは二階に続く階段の側にあるので、降りてきたばかりの彼の姿がすぐに見て取れた。彼は僕の保護と観察の命を受けているので、僕のそばに来てくれる。「電気をつけなさい」言いながら、リビングの電気も全てつける。リモコンひとつで灯はついた。サフィール。もうずっと前に聞かなくなった名前を簡単に取り戻したみたいに、とても簡単に。
    「つけていた」
    「キッチンだけだろう。いつも言っているが、リビングもつけなさい」
    「キッチンで十分」
    「私のことは気にするな。いつもこの時間に起きるだけだ」
     知っている。彼も僕と同じだからだ。体に癖が染み付いていて、瞼を閉じても開けても悪夢に苛まれている。それは目の下に滲んだ隈だとか、表情をなくした頬とか、腕の裾や襟元からはみ出てる皮膚がどこもかしこも傷だらけなところだとか、暗い色をした瞳だとか、色んなもので見つけられる。でも僕は、出来れば彼に長く寝ていて欲しかったし、悪夢なんて見ないで欲しかった。それにこの人の目は、暗い色をしていても綺麗だ。
    「ハムと卵のサンドイッチ」
     だからこれからも電気はつけない。そんな予感の代わりに、見逃してもらうに値する言葉を吐く。案の定、彼は一旦諦めてくれたらしかった。食器棚を開いて、マグカップをふたつ取り出して、ドリッパーも持ち出す。大きな手はみっつを軽々と持ち合わせていて、少し行儀が悪い。それをことことと軽い音を立てて後ろの方の台に置く。
    「好物だ」
     知ってる。とは、口に出さなかった。僕のこの気持ちが卑しいと知っていたから。もしかしたらバレているのかもしれないけど、わざわざ白状するのは気が引ける。この人は食べることが好きで、特にハムと卵のサンドイッチが好きだ。料理を勧められた僕が最初にこの簡素なサンドイッチを作ったとき、彼は大きな一口で次々に食べて「美味い」と頷いた。表情は全然変わらなかったけれど、その食べっぷりで言葉の真実は裏付けられていた。別の料理を作っても同じように食べたつまりは、こんな怪しい人間の料理を平らげるくらいに、食べることが好きなのだ。その中でもこのサンドイッチは一番多く食べるから、僕はよくハムと卵を手にする。ハムは切り分けられたものだし、卵を湯に入れるのも、具合のいいときに取り出してマヨネーズとあえることも、どれも慣れたものだ。昔からずっと作っていたものだったので、助かっている。
    「おそらくだが、今日は早く帰れる」
     珈琲の独特で香しい匂いが鼻頭を撫でた幾度目かのとき。彼は徐にそう言った。僕より多めに盛り付けたサンドイッチは、もうあと一切れになっている。サラダなんて疾うの前に食べ終えていた。食事が全て口の中に無くなることの喜びは途方もないのに、彼はもっと嬉しいことを言ってくれた。僕はちっとも動かない頬をそのままにしながら、何とか動かせないか考えながら、小さく頷いた。
    「遅くなるようであれば連絡を入れる」
    「気にしないで」
     サンドイッチを飲み込んで言いながら、僕は、彼が続けて何を聞くのか知っていた。帰る時間を告げた後、彼はいつも同じことを聞く。
    「何か欲しいものは?」
     マグカップの取っ手を握り、傾けて、僕は考える。考えるふりをする。砂糖とミルクが溶け合った珈琲は、今日も今日とて僕の味蕾によく馴染んでいる。この家に住んでようやく見つけられた好みの味だ。屋敷に居たときには好きだとか嫌いだとかを考える暇なんてなかった。どんなものでも好きだと微笑んで、どんなものでも嫌いだと眉を顰める必要があった。だから、砂糖とミルクをたっぷり入れた、もう珈琲なんて呼べないものが好きということを、僕の頭も体も舌も、何もかも忘れていた。
     この人が思い出させてくれた。
     これ以上に欲しいものなんてない。
    「牛乳、が」
    「ああ」
    「もう無いと思う」
    「解った」
     彼は頷いて最後の一切れに手を付ける。僕は内心とてもほっとして、まろやかで甘いそれを喉に通した。牛乳はいつも彼が飲む。沢山あって問題はないだろう。素直に首を横に振ると、彼はほんの少し悲しそうな顔をする。だから、この家のなんてことはない不足を僕は覚えるようになった。でもこれだって、バレてる気がする。この人は異様なくらいに敏い。そして不思議なくらいに優しいから、僕の嘘を見逃してくれる。
    「欲しいものがあれば、いつでも言いなさい」
     優しい赦しを、僕は頷いて飲み込む。甘受する。サンドイッチを手にして、口に運ぶ。甲を鞭で打たれない平和な食事を堪能する。外にいる鳥の鳴き声が聞こえる。レオンに話しかけてくれる鳥だ。僕たちの間には会話が少ないから、いつもこうして鳥の鳴き声が入り込む。この沈黙が、不思議と嫌にならない。焦らない。どうしてだか穏やかで、心地いい。
     今日も、優しい日々が続く。
     僕は、裁かれる痛みを待っている。
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    soseki1_1

    DOODLEナワーブ🤕と喧嘩して家出したイライ🔮を匿うノートン🧲/現パロ大占傭占
     火種って簡単に点くんだなって思った。鼻の先にある、灰色の間からちらちら覗く赤色は綺麗で、心臓みたいだなんて見たことのないものの想像をした。ただ咥えてるだけなのに口の中に煙が溜まるのが不思議だった。吐き出してばかりいたそれを思い切って吸い込んだとき、喉が焼けるような不快感に襲われて咳き込んだ。そこからはもうてんで駄目で、ただ口内に煙を溜めておくだけで僕は咳をするようになった。向いてない。明らかに分かる事実が悔しくて、認めたくなくて、僕は咳をしながら煙草をふかし続けた。
     ひたすら歩いて歩いて歩いた先にあった見慣れたコンビニでそれは買えた。ライターだって簡単に買えた。レジの隣に置いてあった。「煙草を」と言った僕に気怠げな店員は「何番ですかぁ」と草臥れた問いかけをして、僕は、淀み無く番号を言った。彼がたった一度だけ僕の前で言った煙草の銘柄を僕は馬鹿みたいに覚えていて、彼が言わなかった番号まで調べて覚えていた。言うつもりはなかったのに、その番号が口からついて出た。悔しかった。その番号以外知ってるものなんてなくて、店員はスムーズに立ち並んでる箱達からたったひとつを取り出していて、僕は撤回する機会を失った。
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    soseki1_1

    DOODLE本丸傭占奇譚
    「好きな奴が出来たんだと思う」
     言われたとき、なんのことだかさっぱり解らなかった。
    「主」
     そう続けられた言葉でようやく言葉の真意を理解できた。正しくは、広げていた雑誌を読めも見もできず何秒か握りしめ、畳んで、発言した加州清光の方を見て、数秒経ってようやく理解できた。皴のついたページは恋愛特集だった。時の政府が発行している月刊雑誌の中でも恋物語を中心に集めた一冊だ。毎月本丸の、自分の部屋に届くようにしてある雑誌を一文字則宗は横に置く。
    「まじか」
    「たぶんマジ」
     普段使わない一昔前の若者言葉がまろび出る。らしくないとは加州も解っていたろうが全く指摘されなかった。それだけの大事だった。
     この一文字則宗と加州清光が所属する本丸は、端的に言えば素晴らしく堅物なところである。質実剛健を絵に描いたような場所だ。審神者制度が樹立した最初期に設立し、今なお各任務で優秀な成績を残し続け、表彰式に呼ばれ過ぎて参列側じゃなく運営側に回ってしまうような所である。そんな本丸を運営する審神者は、本丸の有り様と同様の人間であった。則宗からすれば朴訥すぎるきらいさえあった。どこぞの国の軍人で、前線を経験しており、かつては大佐と呼ばれる地位にあったらしい。ここまでは本丸の誰もが知っている経歴だ。しかし則宗はもう少し込み入った事情まで知っていた。元監査官の特権だ。最前線を行く審神者の手に渡ると決まったとき、興味を持ってちょっと調べておいた。男には、前線にいたとき作戦の執行に問題があったと難癖をつけられ、結果部下三名を処刑された経歴があった。作戦外で、戦場外で部下を無駄死にさせた経験は男の精神を大層苛み、一時は、というより審神者の招集があるまでは病院に詰めていたらしい。樹立期における軍人経験のある審神者の登用は必死なもので、特に男は指揮力と前線経験のある経歴も申し分なかった。審神者当人は戦場に赴かず、前線に出るのも人間より幾倍も頑丈な刀剣男士だからと何度も説得されて首を縦に振ったらしい。だから審神者になったばかりの頃、刀装なしで初期刀を出陣させる指令にはたいへん反抗的な姿勢を見せたとか。政府に対する三日三晩に渡る必死の抗議と独自に作成したマニュアルにより、この出陣命令は見直され、今は初手の出陣で初期刀が重傷で帰城するようなことは少なくなったのだとか。そしてそういった改善が何件かあり、今では政府
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