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    soseki1_1

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    ノワ🔮の好きな珈琲の話(大ノワ傭占)

     僕は多くのことを知り得ていたのに、自分のことは殆ど知らなかった。正しくは、知らないようにしていた。
    「お前の目は驚くほどに多くのものを見つけ出す」
    いつだったか、僕の片方の目を見詰めながら兄さまは言った。
    「お前の目に映るのは広く大きな世界だ。そんな世界において、個人などという小さなものに囚われるべきではない」
     その個人には僕自身も入っていたので、僕は僕を見つけ出すことを忘れていた。
    「お前は、なんにだってなれるんだ」
     あなたが望むなら何にだってなりたかった。

     そうやって無謀に投げ出した僕を見つけたのは彼だった。
    「趣向は個人を識別する為の重要な指標だ。仕事はあまり当てにならない。まずは、お前の趣向を知るべきだ」
     まずという割に、この趣向を知るのに多くの時間が費やされた。僕は珈琲が好きか嫌いかも、別の何かが、例えば紅茶や水が好きなのかも含め、何も知らなかった。告げられる飲料の名称を前に、ただひたすらに沈黙を選ぶしかなかった。するとその後から毎日違う飲み物が出され、それが一週間と少し続いた。苦い珈琲、甘い珈琲。ストレートティーニミルクティー。眠る前は決まってハーブティーが湯気を立てていた。
     最初は彼が手づから淹れていたそれらは後々になるにつれて僕が淹れるようになる。メロディー家の教育の賜物により、珈琲も紅茶も手際よく淹れられた。鞭を打たれなくなってからというもの、この淹れ方について僕に指示を出す人は誰もいなかった。のに、彼は時々指示を出した。「砂糖をもう少し入れてみなさい」だとか、かと思えば「そのまま飲んでみるといい」だとか、気まぐれにも思える指定が入った。鞭を伴わない指示は初めてで、告げる声は何処か柔らかい。
     奇妙な命令に僕は従順と従った。この奇妙の皮の下にあった真実を、僕は一週間後に知ることとなる。
     ある昼間、彼はマグカップを差し出した。僕の監視を命じられているために自宅待機が多くなった男の体に軍服はなく、白シャツとスラックスを纏った普通の男がいた。ただ傷跡のある手だけはシャツにもスラックスにも隠せなくて、あらゆる悲惨さを感じさせるその皮膚がどうしてもマグカップにそぐわなかった。
    「観察と試行の結果だ。飲んでみなさい」
     彼はそう言って対面に座った。マグカップと彼に向かい合いながら、僕は瞬いた。観察と試行。「君の好みだ」なんの? そう思った僕を察した彼は続けて言った。僕の好み。
    「そんなものは無い」
     正しくは、あってはならない。事実を言ったのに、彼は僕に眼差しを返してこうも言う。
    「そのままの珈琲を口にしたとき、左側の眉尻が僅かに下がる」
    「は?」
    「砂糖を入れると元通りに戻る。ミルクを追加すると微かだが頬の強張りが解ける」
     僕は黙った。並べ立てられたのは、何度も消そうとして消した表情達だった。美しいお皿と食事の前に鏡を置かれて、自分の顔を見ながら食べていた。うんと前のあの頃に、僕は恥ずかしさと悲しさと苦しさを一緒に飲み込んでみせた。だから消えていたはずなのに。
    「どれも極僅かな呼応だったため、確信が持てない。出来れば君の感想が欲しい」
     カップからは白くて暖かな湯気が立っていた。たぶん、それを持って口に運んだんだと思う。慰めみたいな言葉と同じ、甘くて暖かくて柔らかな味で味蕾が包まれていた。目のすぐ下に殆どカフェオレになっている珈琲が見えていた。僕は、何も言えなかった。美味しいというべきなのか、不味いというべきなのか解らなかった。なんの指示も任務もないからだ。感想なんて少しも言えなかった。
    「もう少し甘くしてみよう」
     言いながら、彼は席を立って台所に行った。何が見えたのかとても気になった。僕がどんなふうに見えていたのか。どの感情を消せばいいのか気がかりだった。これは今も教えて貰っていない。ただ、あのマグカップの熱さと甘さは覚えている。
     ミルクと砂糖の入った甘い珈琲。あれはきっと、たぶん、僕の為だけに作られたものだった。
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    DOODLEナワーブ🤕と喧嘩して家出したイライ🔮を匿うノートン🧲/現パロ大占傭占
     火種って簡単に点くんだなって思った。鼻の先にある、灰色の間からちらちら覗く赤色は綺麗で、心臓みたいだなんて見たことのないものの想像をした。ただ咥えてるだけなのに口の中に煙が溜まるのが不思議だった。吐き出してばかりいたそれを思い切って吸い込んだとき、喉が焼けるような不快感に襲われて咳き込んだ。そこからはもうてんで駄目で、ただ口内に煙を溜めておくだけで僕は咳をするようになった。向いてない。明らかに分かる事実が悔しくて、認めたくなくて、僕は咳をしながら煙草をふかし続けた。
     ひたすら歩いて歩いて歩いた先にあった見慣れたコンビニでそれは買えた。ライターだって簡単に買えた。レジの隣に置いてあった。「煙草を」と言った僕に気怠げな店員は「何番ですかぁ」と草臥れた問いかけをして、僕は、淀み無く番号を言った。彼がたった一度だけ僕の前で言った煙草の銘柄を僕は馬鹿みたいに覚えていて、彼が言わなかった番号まで調べて覚えていた。言うつもりはなかったのに、その番号が口からついて出た。悔しかった。その番号以外知ってるものなんてなくて、店員はスムーズに立ち並んでる箱達からたったひとつを取り出していて、僕は撤回する機会を失った。
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    soseki1_1

    DOODLE本丸傭占奇譚
    「好きな奴が出来たんだと思う」
     言われたとき、なんのことだかさっぱり解らなかった。
    「主」
     そう続けられた言葉でようやく言葉の真意を理解できた。正しくは、広げていた雑誌を読めも見もできず何秒か握りしめ、畳んで、発言した加州清光の方を見て、数秒経ってようやく理解できた。皴のついたページは恋愛特集だった。時の政府が発行している月刊雑誌の中でも恋物語を中心に集めた一冊だ。毎月本丸の、自分の部屋に届くようにしてある雑誌を一文字則宗は横に置く。
    「まじか」
    「たぶんマジ」
     普段使わない一昔前の若者言葉がまろび出る。らしくないとは加州も解っていたろうが全く指摘されなかった。それだけの大事だった。
     この一文字則宗と加州清光が所属する本丸は、端的に言えば素晴らしく堅物なところである。質実剛健を絵に描いたような場所だ。審神者制度が樹立した最初期に設立し、今なお各任務で優秀な成績を残し続け、表彰式に呼ばれ過ぎて参列側じゃなく運営側に回ってしまうような所である。そんな本丸を運営する審神者は、本丸の有り様と同様の人間であった。則宗からすれば朴訥すぎるきらいさえあった。どこぞの国の軍人で、前線を経験しており、かつては大佐と呼ばれる地位にあったらしい。ここまでは本丸の誰もが知っている経歴だ。しかし則宗はもう少し込み入った事情まで知っていた。元監査官の特権だ。最前線を行く審神者の手に渡ると決まったとき、興味を持ってちょっと調べておいた。男には、前線にいたとき作戦の執行に問題があったと難癖をつけられ、結果部下三名を処刑された経歴があった。作戦外で、戦場外で部下を無駄死にさせた経験は男の精神を大層苛み、一時は、というより審神者の招集があるまでは病院に詰めていたらしい。樹立期における軍人経験のある審神者の登用は必死なもので、特に男は指揮力と前線経験のある経歴も申し分なかった。審神者当人は戦場に赴かず、前線に出るのも人間より幾倍も頑丈な刀剣男士だからと何度も説得されて首を縦に振ったらしい。だから審神者になったばかりの頃、刀装なしで初期刀を出陣させる指令にはたいへん反抗的な姿勢を見せたとか。政府に対する三日三晩に渡る必死の抗議と独自に作成したマニュアルにより、この出陣命令は見直され、今は初手の出陣で初期刀が重傷で帰城するようなことは少なくなったのだとか。そしてそういった改善が何件かあり、今では政府
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