【原作軸】依存する口ーさんの話あの人が好んで吸っていた煙草に火を点けてその不健康な煙を肺いっぱいに吸い込む、傍らのテーブルに備え付けられた灰皿に煙草を置く。煙が一筋、天井へと延びる。
風に揺られて途切れる紫煙の向こう壁に掛けられた黒いコートが視界に入る。立ち上がってコートに触れると誰も袖を通すことなく掛けられたままで劣化していくばかりの羽根は硬く脆い。黒い羽根が誂えられたコートに顔を埋めてはいけない。あの人を模したコートは所詮レプリカで仮初の夢を壊してしまう。
黒いコートの上、黒に映える鮮やかな色のコイフ。普段は斜め下のアングルから見上げるばかりだったから完璧なシルエットが再現出来ているかは怪しい。虚構で固められた空間。
ーサイレント・・・ー
掌で耳をそっと塞いで瞳を閉じる。
鼻を擽る煙草の匂い。
目蓋に浮かぶあの人の笑顔。
ぎこちなく笑う口から紡がれる『愛してるぜ』
何度も再生して何度も心に刻んだ。
まだ覚えている。白く塗りつぶされていた日々を鮮やかに彩ってくれたあの人を
(なァ、コラさん。今日はこんなことがあったんだ…)
まだコラさんが生きている。自分の中で
どんなに時が巡ろうとも
たとえ二人が巡り会えずとも
二人で生きていく。この身体で
目を開けて、焦点の定まらないボヤけた視界に黒いコート。誰もいない筈の部屋で揺れた気がした。
なァ、コラさん。この世界をあなたといきたい
(寂しくなったらコラさんに語りかけるローさんの話)
生きたいでも行きたいでも変換していただけたら