【転生】まちあわせ夕暮れ時のカフェ。
オフィス街から駅へと帰宅を急ぐ人波の流れに逆らってカフェに入ると仕事帰りのサラリーマンだろうか点々と席が埋まっているのがみえた。
カウンターで注文を済ませ、珈琲を受け取り階段を昇る。カフェの二階席は空いていてお気に入りの窓際の席に座る事が出来た。
マグに並々注がれた珈琲に口をつける。
携帯をテーブルに置いてホーム画面の通知を確認する。目ぼしい通知は無い。そのままSNSアプリを開いてみるが新着メッセージはない。コラさんと表示されたアイコンをタップするとメッセージがある。
【次はいつにする?】
【また連絡する】
前回の別れ際に言われた言葉と同じメッセージ、約束がないと不便なのは分かるけれど次の約束らしい約束をすることが出来なくて今日になる。
『となり町で落ち合おう』
約束した途端二度と会えなくなるのではないかと怖くなってしまう。
【今この前連れてきてくれたカフェにいるんだ。もし、コラさんの都合がよけれ】
途中まで打ち込んだ文章を消したら【今この前連れてきてくれたカフェにいる】と何を伝えたいのか分からない文章になってしまった。送信した後に気がついたが送信取り消しをするのもなんだか変な気がしてそのままにする。
もしもコラさんがこのメッセージを見て会いに来てくれたら、迎えに来てくれたら嬉しい。少しだけでも逢いたい、気がつかなくてもいい一目だけ見えるだけでもいい。
会社の最寄り駅近くのこのカフェは帰り道にあるからたまに来ると言っていた。
誰との待ち合わせに使ってるの?なんて、女々しい事は聞けなかった。前世で関わりのあるだけのクソガキ。今世で再会するまでの交友関係を聞けるほどの仲ではない。
家族構成、ドフラミンゴと今世は上手くやっているとか、どんな仕事をしているとかしか知らない。結婚はしていないみたいだとかは推測でしかない。
いい人はいないのか?その一言が聞けないまま今日まで来てしまった。まだ再会して月日は経っていないが今更聞くのか?と言う頻度で会ってるのだ。
時々時間に都合を付けて少しの互いの近況を話すだけ。
コラさんの都合が第一だ。もしも先に自分が約束をしていたら優しいコラさんのことだから俺を優先してしまうだろうし、約束をずらされた時は一番ではなかったと落ち込んでしまいそう。
(恋人とかいるんだろうか…)
ローにはこの世に生を受けてから恋人はいない。前世では身体の関係位はあったが色恋には興味は無かった。
今世も恋なんてものを知らずに過ごすんだろうなとまだ10代だと言うのにどこか諦めたような気分だった。コラさんに再会した時にカチリとパズルのピースが嵌まったように、ストンと胸に落ちてきた感情を自然に受け入れた。
(あぁ、俺はこの人を愛してるんだ…)
前世大好きだった人。今世は出会ってばかりだと言うのに柔らかく包み込むように浸透していく感情。もしも、コラソンが100人を殺してる殺人鬼でも愛せる自信がある。
コラさんは約束らしい約束をしてくれない。
日時をしっかり決めて、場所を指定する。
何度か日時も場所も決めて出掛けたことがあったのだが一度コラさんがかなり遅くなった時にもう二度と会えなくなるのではないかと過呼吸を起こしてしまったことがあってから2人とも待ち合わせをする事が少し怖くなってしまった。
⦅となり町で落ち合おう⦆
少なからず今世にも影響を与えている。
コラさんの事になるとこんなに弱くなってしまうなんて知らなかった。
時々触れてくれる掌の温もりが恋しくなる。綺麗になったと添えられた頬に、大きくなったなと撫でてくれた頭、派手なピアスしやがってと耳を擽る優しい指を思い出してそっと耳朶を指でなぞる。
チャリと金属の擦れる音がなんだか愉しい。外はすっかり暗くなり、店内の灯りのせいで窓ガラスが反射して弛みきっただらしない顔の男を写していた。
窓ガラス越しに自分と目が合って、思わず顔を顰める。視界の片隅に派手に転んだ大男を見つけてせっかく引き締めた顔がまた弛んでしまう。
コラさんはまっすぐにカフェに入ってきたようで他の人より少し早い速度で階段を登る音が聴こえる。コラさんは身長が高いから金色の頭がもう見えてる。登り切る前にこちらに気がついたようで目が合うとにっかりと笑う。
「ロー!良かった、まだいた。」
「結構前にメッセージ入ってたからもう居なかったらどうしようかと思った」
「たまたまこっちに来る用事があったからコラさん何してるかと思って」
頬に挨拶のキスを受ける。コラさんの髪の毛が触れて擽ったい。走ってきたのか首筋から汗が滴っている。約束をしていたわけでは無いのに来てくれた。その事実がとても嬉しい。
「フフッ、メッセージくれれば待ったのに」(いくらでも)
「ドジった!…オマエに早く会いたかったんでな」
「メッセージを見て、早く仕事を切り上げてきたんだ。」
頬を大きな掌が優しく包み込む。紅い瞳に吸い込まれてしまいそう。目尻を壊れものに触れるように優しく親指で撫でられる、顔が熱い。
(俺だって会いたかった…)
ポロリと本音が漏れてしまいそう。不意打ちは狡い、心の準備が出来ていないのだ、紅くなった顔を見られたくなくて誤魔化す為に席を立つ。
「コーヒー頼んでくる!」
コラさんは座っててくれとレジへと足を向けると引かれる腕、ドクンと心臓が高鳴る。
「…今日は何時まで一緒にいれる?」
あぁ、狡い。この人は本当に狡い。こちらの心のうちなどとっくに見透かしているのではないだろうか、探るような視線から瞳反らすことも出来ない。
「コラさんの珈琲が冷めるまで…」
その短い時間で今日はどこまでコラさんのことが分かるだろうか。寂しそうな顔に少しの罪悪感を感じながら、するりとコラさんの腕を解いて足を進める。
本当はコラさんが赦してくれる限りずっと一緒に居たい。
(この気持ちを伝えてしまったら…)