タルタリヤはまた死にかけていた。
——否、その言い方だと少し語弊がある。もっと事実に近付けて言うならば、人間として生きることができなくなる、という意味で死にかけていた。
「ねえ鍾離先生、今日のこれはどういう意味かな!?」
余も更けて、善良な市民ならば眠っているであろう時間。しかしまあ、鍾離の自宅に窓から侵入するような男が——もっと言うならファトゥス十一位が、「善良な市民」であるわけはなく。加えて室内、呑気に本を読んでいる鍾離もまた例外のうちのひとりだった。
「おや、公子殿。『今日のこれ』とはどういう意味だ?」
「前回は首の後ろ! 前々回は背中! そんで今回は足の裏! 俺が自分で気付けないような位置に、マーキングするのやめてって何度言えば分かるかなあ……!」
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