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    タカムラ セイ

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    タカムラ セイ

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    あーーーーーー一!ギリギリ間に合わなかった!
    お題でもらっていた年越しネタ⚡️兄弟です
    2022年はお世話になりました。
    2023年もよろしくお願いいたします。

    ゆく年くる年「うん、わかった。あんまり飲み過ぎないでね」
     スマホに向かって無理なお願いをすると、爺ちゃんのきまり悪そうな声が「わかっとる」と返してきた。
     通話が切れたスマホをタップして大きく伸びをしたら、三時間座りっぱなしだった体からぽきりと音がした。机上の小さなデジタル時計は二十三時を示していたので、今年の勉強はもう終わりにしようと決めた。
     黄色い半纏を羽織って暖房と電灯を消した。廊下の気温を想像して憂鬱になるけど、気合を入れてドアを開ける。思った通り冷んやりとしてる廊下と階段を早歩きで通り過ぎ、真っ暗な台所に辿り着くと灯りをつけた。
    「今年は一人で年越しですねー」
     寂しさを誤魔化したくて戯けたように呟いた。今、この家にいるのはオレだけだ。
     爺ちゃんは鱗滝さんの家で年越し飲み会だし、兄貴はまだバイトから帰ってきてない。たった一人で年を越すなんて、生まれてこのかた初めての経験だ。
     冷蔵庫には三人分の年越しそばセットが入っている。ひとりぼっちだからって食べないわけにもいかず、そこそこ大きな鍋に水を入れて火にかけた。せめてテレビくらいは見たくって、居間の照明と暖房もつけてテレビの電源も入れた。
     爺ちゃんがよく見る国営放送は歌合戦を放送していて、丁度いいから聴きながらそばを作ることにした。
    「海老天三つとか超贅沢だよねー」
     爺ちゃんは鱗滝さん家で蕎麦を食べるから貰ってしまっていいだろう。兄貴は帰ってくるかもしれないけれど、妓夫太郎さんと一緒だから年を越してから帰ってくるんじゃないのかな。
     今日の昼食時に妓夫太郎さんから兄貴に助っ人を頼む電話があった。妓夫太郎さんがバイトしているピザ屋で配達人が足りないというのだ。兄貴は「ふっざけんな」と返事をしていたが、爺ちゃんに手伝いに行っていいかと相談して、お昼ご飯もそこそこに、原付に乗って出かけてしまった。
     大掃除もおせちの準備もほとんど終わっていたから、爺ちゃんは「行ってやんなさい」と快く送り出したけど、ピザ屋って二十四時まで営業してるんだよね。今日みたいな日は注文ひっきりなしなんじゃないの。特に今の時間とかめっちゃピザ頼む人多そうじゃない?
     きっと帰ってこないだろう。賄いでピザ食ってるだろうし、年を越してから蕎麦なんか食べないよ。
     そう思っても万が一帰ってきた時に蕎麦がなかったらどんな目に遭わされるか恐ろしくて、海老の一つはおかわり用にとっておいた。
     スマホに三分タイマーを準備して、鍋にふた玉分の蕎麦を入れた。白く泡立つ鍋の中は長生きできますようにと願われた細い麺がくらくらと踊っている。吹きこぼれないように火力に注意しながらかき混ぜていると、玄関の方からバイクのエンジン音が聞こえた。
    「え、マジで?」
     玄関を覗きに行きたいけれどアラームが鳴ってしまったので、火を止め麺をザルにあげる。水で洗いながらも廊下の物音に耳を澄ませていると、台所のドアが勢いよく開いた。
    「蕎麦を食わせろ」
     外の冷気を身に纏った兄貴が仁王立ちしている。
    「ちょっと帰ってきて第一声がそれなの? 蕎麦の準備ありがとうとかないの? それ以前にまずただいまでしょうが!」
     寒い、さっさとドアを閉めろ。
     顔を顰めて睨みつけたら、「着替えてくるから用意しとけよ」と言い放って出ていった。なんなのあの俺様は! 獪岳様かよ!

     結局二人前を食べるつもりだった年越しそばは兄貴と一人前ずつ食べることになった。モコモコ着込んでるから時間がかかると思っていたのに、ものすごい速さで着替えて降りてきた。
    「さっさと蕎麦を食わせろ」
     ダイニングテーブルにビニール袋をどかりと置く。中にはピザの箱らしきものが二つ入っている。
    「ピザ持って帰ってきてんじゃん。ピザ食べなよ」
    「冷えてカチカチのピザなんか食えるか。さっさと蕎麦を出せ」
    「へぇへぇ。兄貴、鼻先真っ赤だよ。こたつに入って待ってなよ」
     兄貴は裏起毛のスウェット上下にオレと色違いの半纏を着ていた。外では絶対見れない気を許した姿になんだかホッとする。さっきまで一人で年越しだと思っていたから、兄貴が帰ってきてくれて素直に嬉しいと思う。
     熱々の蕎麦を兄貴の前に置いたら、間をおかず手を合わせて食べだした。その性急な仕草にもしかしてと尋ねてしまう。
    「晩御飯、食べてないの?」
    「そんな暇あるかよ。妓夫太郎と二人でフル回転だよ。二十三時過ぎても配達あんだぜ、注文してくる奴らは全員滅びろ」
    「あー、それはおつかれさまだねぇ」
     兄貴は熱い熱いと言いながらもズルズルと蕎麦を啜りあげた。よっぽどお腹が空いてたんだろう、瞬く間に蕎麦が消えていく。オレが半分も食べ切らないうちにどんぶりの中は空っぽになった。
    「おい、爺ちゃんどうしたんだよ」
     蕎麦を食べ体が中から温まったからか、兄貴の口調が柔らかくなった。
    「爺ちゃんは鱗滝さん家で年越し酒宴だよ。帰ってくるの夜中じゃないの?」
    「じゃあ爺ちゃんの蕎麦もらうぞ。全然足んねぇ」
     兄貴はどんぶりを持って立ち上がり、さっさと台所に行ってしまった。おかわりはご自分でどうぞ、と返事をして自分の分のそばを啜る。
     テレビの画面にはどこかのお寺が映っていて、除夜の鐘をついている。もう一年が終わるところだ。
     今年は兄貴がギリギリ帰ってきたけれど、来年はどうなんだろう。爺ちゃんはオレが十八になった頃から鱗滝さんの家で飲むようになった。もう子育て卒業ってことなんだろうな。兄貴もあと二年したら大学卒業だし、オレも受験生で受かれば春から大学生だ。近い将来年越しは誰も家に居なくなるんじゃないだろうか。
     でもそんなもんかな。家族もいつかはバラバラになる。なったってならなくったっていいんだけど、なることの方が多い。
     いつの間にか新しい年の始まりを喜ぶより、終わってしまう一年を寂しく思うようになった。オレも年をとってしまったってことなのかな。
     アンニュイな気分に浸りながらテレビから聞こえるカウントダウンを見つめていると、襖が開いてチーズの匂いが漂ってきた。見上げるとピザの箱を持った兄貴がオレを見てる。
    「明けましておめでとうございます!」
     テレビの大音量に顔を顰め、ドンとピザの箱をコタツに置く。
    「新年会だな」
    「へ? なに言ってんの?」
    「食え。年が明けた、新年会だ」
    「いやその前に明けましておめでとうございますでしょ?」
    「うるさい食え。俺は蕎麦のおかわりをする」
     そう言うと兄貴は台所に引っ込んでしまった。
     アンタ、ほんと素直じゃないよね。年越しそば嬉しかったんならそう言えばいいのにね。
     まぁ、オレもアンタが帰ってきてくれて嬉しかったからおあいこかな。

     今年もよろしくね、兄貴。
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    タカムラ セイ

    DONE【獪善】せかんどすとーりー
    以前書いたお話のつづきものです。モブが語るので苦手な人にはすまんな、と。
    あらしのよるに
    https://twitter.com/takamura_say/status/1412069089003008000
    つゆのはれまに
    https://poipiku.com/4322980/7075949.html
    上記二つを読んだことがない人は先に読んだ方が楽しめると思います。
    せかんどすとーりー いらっしゃいませ、おひとり様ですか? もしかしてあなたも新しい出会いを求めてここにいらしたのかしら。ふふふ、なんでわかったのかですって? そりゃあお店に入るなりキョロキョロしていたんですもの、一目瞭然だわ。
     ご挨拶がわりにあなたのことを当ててみせましょうか。今のあなたは……一人暮らしでしょ。実家を離れて初めての慣れない一人暮らし。ほーら当たりでしょ。だってあなた、わたしがちょっと前まで一緒に暮らしていた彼と雰囲気が似ているんだもの。
     あらあらどうしたの、そんな困ったような顔をして。えっ、彼とわたしがどんなふうに暮らしていたか知りたいですって? 一体なんでそんなことを? はぁ、わたしのことをちゃんと知りたいからなの? うーん、どうしようかしら。そうねぇ……個人情報に触れることは言えないけれど、すこーしくらいならお話ししてあげてもいいわよ。あなたがわたしをパートナーとして興味を持ってそう言ってくださってるのなら、お話しした方がいいものね。
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